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怖いへんないきものの絵

2019.02.24 公開 ツイート

「カニに指を挟まれる少年」という題名なのに、おじさんが描かれた謎の絵! ~パオリー二『カニに指を挟まれる少年』(1/3) 中野京子/早川いくを

2大ベストセラー、『怖い絵』中野京子氏と、『へんないきもの』早川いくを氏。
恐怖と爆笑の人気者がコラボして生まれた『怖いへんないきものの絵』
早川氏が、“へんないきもの”が描かれた西洋絵画を見つけてきては、中野先生にその真意を尋ねに行くのですが、それに対して、中野先生の回答は、意外かつ刺激的!

今回、早川さんが中野先生に「教えてほしい!」と用意した絵は、描かれた表情が、へんに気になる『カニに指を挟まれる少年』。
な、な、なんなの?このタイトル…?
カニに指挟まれるシーンを、なんでわざわざ絵にしたわけ…?
…で、これ、「少年」に見えないんだけど!
などなど、いろんな疑問・感想が湧いてくると思いますので、中野先生に解消していただきましょう!
(『カニに指を挟まれる少年』は全3回です)

*   *   *

『カニに指を挟まれる少年』パオリー二

1620~1625年頃 ランプロンティ画廊蔵

大阪市で、日用雑貨店を営む坂田平吉さん(38)は、合コンに誘われ、意気込んで会場の居酒屋におもむいた。
彼は女性にアピールしようと、カニの素揚げを注文し、
「カニ、はさむかな~? カニ、はさむかな~?
イデデデデ! やっぱりはさまれてもうた~!」
と、驚いてみせる、得意の持ちネタ「カニにはさまれて痛いねん」を披露した。
だが、自信作のお笑い芸も、女性たちにはさっぱり受けず、「何それ」と冷ややかに言われる始末。坂田さんは意気消沈、肩を落として帰途についたのであった。

 

これがこの絵『カニに指を挟まれる少年』のあらまし……であるわけがない。

申し訳ない。中野京子先生との素敵な名画の旅を期待していた読者に、こんなものを読ませて本当に申し訳ないと思っている。歴史ある美術品に対して、ふざけたことを書くな、というお叱りの声も聞こえてきそうだ。まったくその通りだと思う。

しかし、やっぱりこの絵はそういう風に見えてしまうのである。

これまでに何度も「画家は、何でこんな絵を描いたのだろう?」という問いを発してきたが、やはりここでも同じことを繰り返さずにはいられない。

だって『カニに指を挟まれる少年』ですよ。美術館で、どんな顔をしてこの絵を見ればいいのか。ああ、何度見ても坂田さんの持ちネタに見えてしまう。意識すればするほど、見えてしまう。

 

「でもこれ、本当に関西弁を話していそうに見えますね」

 

――おお!

 

中野先生にもご賛同いただけるとは! やっぱりそうですよね! だいたいタイトルからして『カニに指を挟まれる少年』なんて、吉本新喜劇というか。

 

「少年にしては、ずいぶん老けていますが……」

 

――そう、これまたそうですよね!

 

少年にゃ見えないですよ。やっぱりそれなりに苦労を重ねてきた顔というか、自営業だと色々大変だと思うんですよ。

 

「自営業って?」

 

――いえいえ、こっちの話で……。それにしても先生、これまで色々な絵を見てきましたけど、史実だったり、神話だったり、肖像画だったり、どれも目的とテーマがハッキリしていますよね。でも一体この絵はなんです? 「カニにはさまれて痛い」という以外に、何にもないように思えるのですが。
それとも、何か奥深いテーマが暗号のように隠されているとか? 政治的陰謀とか、悲劇の物語とか、権力の風刺とか……。そんな名画の謎があったら、ぜひ読み解いていただきたく……!

 

「特にありません」

 

――あ、そですか……。

 

「本作は、ピエトロ・パオリーニが描いたのではないかと考えられています。いわゆる『カラヴァジェッスキ』、つまり、かのミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョに心酔し、その足跡を追うような仕事をしていた一群の画家のひとりの、さらにその弟子です」

 

――なるほど、今でいったらフォロワーとか、信者とか、オタクとか、追っかけ、といったところでしょうか。

 

(次回、おどろきの展開へ――つづく)

 

 

 

関連書籍

中野京子/早川いくを『怖いへんないきものの絵』

2大ベストセラー 『怖い絵』と『へんないきもの』が、まさかの合体。 アルチンボルドの魚、ルーベンスのオオカミ、クラナッハのミツバチ、ペルッツィのカニ……不気味で可笑しい名画の謎に迫る!

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怖いへんないきものの絵

2大ベストセラー、『怖い絵』の著者・中野京子氏と、『へんないきもの』の著者・早川いくを氏。
恐怖と爆笑の人気者がコラボして、爆笑必至なのに、教養も深まる、最高におもしろい一冊『怖いへんないきものの絵』を、たくさん楽しんでいただくためのコーナーです。

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中野京子

作家、ドイツ文学者。北海道生まれ。西洋の歴史や芸術に関する広範な知識をもとに、絵画エッセイや歴史解説書を多数発表。新聞や雑誌に連載を持つほか、テレビの美術番組に出演するなど幅広く活躍。特別監修を務めた2017年開催「怖い絵」展は入場者数が68万人を突破した。『怖いへんないきものの絵』、「怖い絵」シリーズ 、「名画の謎」シリーズ、「名画で読み解く 12の物語」シリーズ、『美貌のひと 歴史に名を刻んだ顔』など著書多数。

早川いくを

著作家。1965年東京都生まれ。多摩美術大学卒業。広告制作会社、出版社勤務を経て独立、文筆とデザインを手がけるようになる。近年は水族館の企画展示などにも参画。最新刊『怖いへんないきものの絵』のほか、『へんないきもの』、『またまたへんないきもの』、『カッコいいほとけ』、『うんこがへんないきもの』、『へんな生きもの へんな生きざま』、『へんないきものもよう』、訳書『進化くん』(飛鳥新社)など著書多数。

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