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怖いへんないきものの絵

2019.03.29 公開 ツイート

あの『モナリザ』も!名画が切られる意外なワケ 中野京子/早川いくを

2大ベストセラー、『怖い絵』シリーズの著者・中野京子氏と、『へんないきもの』の著者・早川いくを氏。恐怖と爆笑の人気者がコラボして生まれたのが、『怖いへんないきものの絵』です。
早川氏が、“へんないきもの”が描かれた西洋絵画を見つけてきては、中野先生にその真意を尋ねに行くのですが、それに対して、中野先生の回答は、意外かつ刺激的! そんなお二人の「制作後記」、今回は名画の保存や修復について、目からウロコのお話しをお届けします。(聞き手・構成/編集部)

*   *   *

レオナルド・ダ・ヴィンチ『モナリザ』
1503-1519年頃 ルーヴル美術館蔵

昔の人は飾る場所に合わせて絵を切っていた!

――本書にも載っていますが、中野先生が教えてくださった「昔の人は、飾る場所の寸法に合わせて絵をザクザク切っていた」という話は衝撃的でした。

中野:いえいえ、ザクザクは大げさですね。そこまでは切らないですよ(笑)。とはいえ『モナリザ』でさえ切られたらしいと話すと、みなさんビックリなさいますけれども。

早川:本書で紹介した『ペルセウスとアンドロメダ』(メングス)も、端のほうが切られているんだと中野先生から教えていただき、驚きましたが、実際はどうなっていたのか、とても気になります。
ところで、『モナリザ』が切られていたというのは、どうやってわかったんですか?

中野:ラファエロなど何人かの画家が、『モナリザ』を模写しているのですが、そこには両端にちゃんと円柱があるからです。ただし反対論も根強いので、断言すると問題あり、かな。

早川:『モナリザ』から切りとられた「円柱の絵」の部分が出てきたら、どうなるんでしょうね?

中野:それは、世界中で大フィーバーが巻き起こりますよ。買いたい人も山ほどいるでしょう。

早川:円柱フィーバーですか。円柱の絵がうやうやしく額装されて美術館に飾られるんですね。来日するとこれまた大騒ぎ。「ついにあの円柱が上陸!!」とかいって。で、孫さんが買うんですよ。300億ぐらいで。

――絵の持ち主としては、飾りたい部屋に絵がきちんと収まることのほうが優先順位が上なのだ、というお話しを本書でも中野先生が教えてくれました。

中野:そうです。最初の発注者の部屋にはぴったり収まっても、売却されて次の持ち主のもとへ行くとサイズが合わないと、まれに切られました。

早川:ズボンのすそみたいですねえ。

中野:美術館に飾ってある絵を「どこかへんだな」と感じた場合は、その可能性もなきにしもあらずで

早川:これから見る絵が全部疑わしくなります。

絵は生きもの。死ぬときもある

中野:切られるだけでなく、描き変えられるということもありました。
たとえば、ブリューゲルの『ベツレヘムの嬰児(えいじ)虐殺』。これは、もとは子どもたちが殺される絵だったのですが、後世の別の画家が子どもたちを「つぼ」や「犬」などに描き変えて意味のわからない絵にしてしまいました

ピーテル・ブリューゲル
『ベツレヘムの嬰児虐殺』
1565-1567年 ロイヤル・コレクション蔵

早川:大昔の画像修正ですね。中野先生の解説がなかったら、なんの騒ぎかさっぱりわからない絵です。

中野:また、ドラクロワの『ショパンとサンド』という対画は真ん中から切られて、今は一人ずつばらばらに別の美術館に収められています
絵は生きものですから、そうやって、“死ぬ”こともあるんだなと思います。

早川:絵画虐殺ですね。

レンブラントの『夜警』は夜のシーンではない

早川:ところで、今残っている名画は、色も当然、退色したり、劣化したりで、変わってきているんですよね?

中野:そうですね。レンブラントの絵なんて、今観るとかすみがかかったように茶っぽくくすんでいる。あれは、保存のためにニスなどを塗ったためそうなってしまったといいます。
有名な『夜警』は、本当は夜のシーンを描いたわけではないんですよ。後世の人が、暗いから夜だろうと誤解しただけで。

レンブラント・ファン・レイン『夜警』
1642年 アムステルダム国立美術館

早川:夜警が明るくてどうする、という気もしますが。しかし、じゃあ何で「夜警」なんてタイトルをつけたんでしょうね?

中野:絵のタイトルは、画家が自分で決めるものではありませんでした。

『夜警』を明るく戻すことは望まれているか?

中野:でも、今、『夜警』をもとのように明るくしたときに、みんなはどう思うでしょうね。いい感じに古びた仏像をいきなりキンキラキンにするようなものかも

早川:仏像はもともとド派手なキンキラ塗装で、デーモン閣下みたいなかんじだったらしいですけど、もとに戻したら参拝客もごっそり減るんじゃないですか。『夜警』も復元したらアイドルのイメチェン失敗みたいになるかも……

中野:ただ、もとの状態に戻したほうがいい絵もありますね。ボッティチェリの『ヴィーナスの誕生』、は、すすをはらったら、あんなに美しくなって。

早川:こっちは逆に、ヴィーナスがすすけててどうするって思いますからね。

サンドロ・ボッティチェリ『ヴィーナスの誕生』
1485年 ウフィッツィ美術館蔵

中野:『ラス・メニーナス』も、修復して白いスカートがきちんと白くなりました。

ディエゴ・ベラスケス『ラス・メニーナス』
1656年 プラド美術館蔵

早川:あの絵を直すなんてすごい技術ですね。私も絵の修復士になりたいです。ついでに人生も修復したいです。

中野:ただ、いっさい修復はすべきでないという美術史家もいますね。修復家の手が入り過ぎて、画家自身のタッチが消されるかもしれないという考えで、それも一理ありますね。

早川:でも経年劣化は免れないですよね? 絵画が生き物なら、その寿命はどのくらいなんでしょうか。100年? 1000年? 長生きしてほしいですね。ラスコー洞窟の壁画みたいに……。

――今、大切にされている貴重な名画が、かつてはまるで違う扱いをされていたりするんですよね。人に歴史あり、絵画にも歴史ありなのですね。(つづく)

 

★次回は4月1日(月)公開予定です。

 

 

関連書籍

中野京子/早川いくを『怖いへんないきものの絵』

2大ベストセラー 『怖い絵』と『へんないきもの』が、まさかの合体。 アルチンボルドの魚、ルーベンスのオオカミ、クラナッハのミツバチ、ペルッツィのカニ……不気味で可笑しい名画の謎に迫る!

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怖いへんないきものの絵

2大ベストセラー、『怖い絵』の著者・中野京子氏と、『へんないきもの』の著者・早川いくを氏。
恐怖と爆笑の人気者がコラボして、爆笑必至なのに、教養も深まる、最高におもしろい一冊『怖いへんないきものの絵』を、たくさん楽しんでいただくためのコーナーです。

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中野京子

作家、ドイツ文学者。北海道生まれ。西洋の歴史や芸術に関する広範な知識をもとに、絵画エッセイや歴史解説書を多数発表。新聞や雑誌に連載を持つほか、テレビの美術番組に出演するなど幅広く活躍。特別監修を務めた2017年開催「怖い絵」展は入場者数が68万人を突破した。『怖いへんないきものの絵』、「怖い絵」シリーズ 、「名画の謎」シリーズ、「名画で読み解く 12の物語」シリーズ、『美貌のひと 歴史に名を刻んだ顔』など著書多数。

早川いくを

著作家。1965年東京都生まれ。多摩美術大学卒業。広告制作会社、出版社勤務を経て独立、文筆とデザインを手がけるようになる。近年は水族館の企画展示などにも参画。最新刊『怖いへんないきものの絵』のほか、『へんないきもの』、『またまたへんないきもの』、『カッコいいほとけ』、『うんこがへんないきもの』、『へんな生きもの へんな生きざま』、『へんないきものもよう』、訳書『進化くん』(飛鳥新社)など著書多数。

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