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怖いへんないきものの絵

2019.02.25 更新

この絵には、色々なゲイ・アイコンが仕込まれている⁉ ~パオリー二『カニに指を挟まれる少年』(2/3)中野京子/早川いくを

2大ベストセラー、『怖い絵』中野京子氏と、『へんないきもの』早川いくを氏。
恐怖と爆笑の人気者がコラボして生まれた『怖いへんないきものの絵』
早川氏が、“へんないきもの”が描かれた西洋絵画を見つけてきては、中野先生にその真意を尋ねに行くのですが、それに対して、中野先生の回答は、意外かつ刺激的!

カニに挟まれた少年の次は、『トカゲに嚙まれた少年』 の謎に、ぐいっと入ってまいります。
なんとこの絵には、同じ趣向を持った仲間を探す暗号が、いろいろ仕込まれていたのです……!

*   *   *

「実は、その当のカラヴァッジョが同じような作品を描いているので、そちらを見ながら考えてみましょう。『トカゲに嚙まれた少年』です」

『トカゲに噛まれた少年』カラヴァッジョ 1596~1597年頃
ナショナル・ギャラリー蔵

――おお、カラヴァッジョ。美術にうとい私でもその名はよく知っています。この人の絵は本当にリアルで、表情などもまるで、15世紀に行って一眼レフで撮ってきたかのようです。この絵なんかも、いきなり嚙まれて「ひッ!」と身をすくませる様が実によく表れてますね。

 

「一瞬の動きや表情を捉えるのが、非常に巧みですね。これはカラヴァッジョが貧しい無名時代に描いた作品。自分はこれだけ描けるんだ、ということを道ゆく人に見せていました。観光地の肖像画家のような感じで、自作を並べていたのです」

 

―― PR 用絵画ってことですか? つまり売り込み? しかも路上の似顔絵描きみたいなことを? あのカラヴァッジョが?

 

「田舎からローマに出てきて、何とか一流画家と認められたいとアピールしていたわけです。ここにガラスの花瓶の映り込みがあるでしょう。力量を見せるためにわざわざ描き入れたのです。自信のある画家は皆やりました。ベラスケスルーベンスも、水滴を本物と見紛(みまご)うように描いてますよね。カラヴァッジョの、このびくっとした体の動きなども、上手い下手がわかる箇所です」

 

―― 一〇〇〇分の一秒とかで撮影したかのようです。異常な動体視力をもっていたのではないかと思ってしまいますよ。

『カニに指を挟まれる少年』に違和感があるのは、きっとこういう体の動きがないからじゃないでしょうか。体が直立したまま痛がってるなんて何だか不自然ですよ。

だから坂田さんの持ちネタに見えるんだ。

 

「坂田さんって誰?」

 

――いえすいません、こっちの話でして……。

 

「それと、カラヴァッジョの絵には、同好の士を求めるメッセージもあったかもしれません」

 

――同好の士?

 

トカゲに嚙まれるのが好きな人ですか?

 

「ゲイですね。カラヴァッジョ自身が、おそらくそうだったんでしょう。彼を最初にローマに紹介した人もそうだったようです。この少年のなまめかしさも相当なものです」

 

――いわれてみれば、トカゲに嚙まれる絵で、もろ肌脱いでる必要は全然ないですからね。髪にも花を挿してますし。

 

カラヴァッジョが描く女性には、あまりエロスが感じられないのに対し、少年の方はすごくエロティックです。この絵にも、素人にはわからないけど、もしかしたら色々なゲイ・アイコンが仕込まれているのかもしれません」

 

――今、編集さんの知人であるゲイの方に、電話で聞いてもらったんですが、手前にある果物の中にブラックチェリーがあるのが気になるそうです。ブラックチェリーは「アナル童貞」の隠語なので、この少年はそちらがまだ未経験なのかなと。薔薇をいじるってことは、男漁(あさ)りを意味してるのかな? っておっしゃってました。

 

(ますます深みへーーつづく)

 

中野京子、早川いくを『怖いへんないきものの絵』

2大ベストセラー 『怖い絵』と『へんないきもの』が、まさかの合体。
アルチンボルドの魚、ルーベンスのオオカミ、クラナッハのミツバチ、ペルッツィのカニ……不気味で可笑しい名画の謎に迫る!

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怖いへんないきものの絵

2大ベストセラー、『怖い絵』の著者・中野京子氏と、『へんないきもの』の著者・早川いくを氏。
恐怖と爆笑の人気者がコラボして、爆笑必至なのに、教養も深まる、最高におもしろい一冊『怖いへんないきものの絵』を、たくさん楽しんでいただくためのコーナーです。

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中野京子

作家、ドイツ文学者。北海道生まれ。西洋の歴史や芸術に関する広範な知識をもとに、絵画エッセイや歴史解説書を多数発表。新聞や雑誌に連載を持つほか、テレビの美術番組に出演するなど幅広く活躍。特別監修を務めた2017年開催「怖い絵」展は入場者数が68万人を突破した。『怖いへんないきものの絵』、「怖い絵」シリーズ 、「名画の謎」シリーズ、「名画で読み解く 12の物語」シリーズ、『美貌のひと 歴史に名を刻んだ顔』など著書多数。

早川いくを

著作家。1965年東京都生まれ。多摩美術大学卒業。広告制作会社、出版社勤務を経て独立、文筆とデザインを手がけるようになる。近年は水族館の企画展示などにも参画。最新刊『怖いへんないきものの絵』のほか、『へんないきもの』、『またまたへんないきもの』、『カッコいいほとけ』、『うんこがへんないきもの』、『へんな生きもの へんな生きざま』、『へんないきものもよう』、訳書『進化くん』(飛鳥新社)など著書多数。

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