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怖いへんないきものの絵

2019.03.25 更新 ツイート

日本人はエロスを感じ、西洋人は恐怖を覚えるタコの話中野京子/早川いくを

2大ベストセラー、『怖い絵』シリーズの著者・中野京子氏と、『へんないきもの』の著者・早川いくを氏。恐怖と爆笑の人気者がコラボして生まれたのが、『怖いへんないきものの絵』です。
早川氏が、“へんないきもの”が描かれた西洋絵画を見つけてきては、中野先生にその真意を尋ねに行くのですが、それに対して、中野先生の回答は、意外かつ刺激的! そんなお二人の「制作後記」、今回はタコを中心に、西洋、春画、昔話と楽しく転がるこぼれ話をお届けします。(聞き手・構成/編集部)

*   *   *

(写真:iStock.com/fotokon)

西洋では「怖いへんないきもの」とされるタコ

中野:「怖いへんないきもの」といえば、ふだん食べているカニも、よく見たら気持ちわるい姿をしていますよね。

早川:足がいっぱい生えてて、全身がよろいで覆われて、しかも手がハサミですからね。子供の発想みたいな姿かたちです。でも食材として見慣れてるからなんとも思わないんでしょう。
そういう意味でいえばタコもものすごくへんてこな生き物だと思います。

中野:西洋ではタコとイカの区別があまりつかなくて、どちらも「デビルフィッシュ」と言いますね。

早川:タコとイカの区別もつかない連中が核兵器とかもってて大丈夫でしょうかねえ。ボタン押し間違えちゃわないかな。

中野:ところで、タコは頭がいいらしいですね。

早川:迷路を解いたりとか、ビンのフタを開けたりとかいろいろできるみたいです。一説によると犬ぐらいの知能だとか。

中野:それは相当いいですね!

早川:それがわかったのは近年になってからのようです。
人類史的にいえば海のことがいろいろわかってきたのは本当に最近のことで、大航海時代は海は魔物の巣窟と思われていたみたいです。

中野:それがタコだったということですね。ウエルズのSF小説『火星人襲来』でも、火星人はタコの姿をしていましたしね!

早川:あれ以来、宇宙人というとタコ姿が定番になりました。光線銃もったタコが円盤から降りてきて「チキュウジンヨ コウフクセヨ」って言うんです。

中野:西洋でタコは怖がられていたとはいっても、温暖な海をもつイタリアやギリシャは魚貝類もタコも食べていますね。

早川:デビルを食ってるわけですね


現代に受け継がれる北斎のエロス

『喜能会之故真通』第三冊第三図 葛飾北斎

――タコって、わりと春画に使われていましたよね。

早川:葛飾北斎の春画に「蛸と海女」を描いた作品がありますが、あのセンスは、現代にも受け継がれている気がします。
エロアニメでも「触手もの」というジャンルがあるようなんですね。触手がヌルヌル、ヌラヌラとこう……。

――目の大きなキラキラキャラの女の子を、タコみたいなものが襲うアニメは確かにありますよね。

早川:やってることは北斎と同じです。

中野:いまの若い人は、北斎のあの春画を知っているでしょうか?

早川:どうなんでしょうねえ。江戸時代にすでにこのぐらいの表現はあったんだ、ということを若いマニアの人にも知っておいてもらいたい気がするのですが

中野:教科書に、タコの春画を載せるわけにいかないし。

早川:載せてほしいですけどね。「教科書問題」としてはそちらのほうが重要な気がします。


書き手を悩ます「世代の断絶」

早川:浮世絵に限らず、世代によっては通じないものって、多々ありますよね。
中野先生が2017年開催の「怖い絵」展での解説文に〈柴刈り〉と書いたら、若い人が柴を知らなくて、「芝生の手入れ」と勘違いする人が続出したってお話を、以前されてましたね。

(写真:iStock.com/tommaso79)

中野:ええ、あのときはまいりました。
「柴を刈る」というのは、低木を刈ったり、枯れ枝を拾い集めたりして、生活に必要なものを収拾したり、山の雑木林の手入れをしたりすることなんですが、それが伝わらないなんて……。
日本の童話の『かちかち山』だって、ウサギがタヌキを柴刈りに誘うわけですが、「柴刈り」の本当の意味がわからなかったら、お話が理解できないですよね!?

早川:「かちかち山」といえば、タヌキが背中に小枝をいっぱいしょってる絵がまず浮かびますけど、あれがわかんなかったですか。

中野:「柴刈り」はゴルフ場の芝刈りのことだと思っていた学生もいます。

早川:芝刈り機で? じいさんけっこういい暮らししてますね。

中野:そのわりに、おばあさんは川で洗濯してますが(笑)。

早川:洗濯機は買ってやらないんですね。ゴルフはやるくせに。けちなじじいだ。

中野:ところで、日本の昔話では、川の上流から、どんぶらこどんぶらこって、いろいろ流れてきますよね。動物が流れてくるお話もありますか?

早川:……ちょっとわかりませんが、川じゃなくて海からやってくる話なら知ってます。
ある日、唐突にタコが坊さんのところへやってきて、「お坊さん、お坊さん、オラを弟子にしてくだせえ」とか言って、坊主とタコが諸国を旅するという話。(編集部注:「お坊さんとタコ」)

中野:タコは髪がないから、お坊さんになるのに都合がよかったのかしら。

早川:まーた先生かわゆいことおっしゃって……。「もえ~」となった読者の顔が今見えましたよ。見える……見える……。

――たびたび脱線しますが、『怖いへんないきものの絵』の面白さは、脱線の面白さでもあります。もう少しお付き合いください!(つづく)
 

★次回は3月29日(金)公開予定です。

 

 

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中野京子/早川いくを『怖いへんないきものの絵』

2大ベストセラー 『怖い絵』と『へんないきもの』が、まさかの合体。 アルチンボルドの魚、ルーベンスのオオカミ、クラナッハのミツバチ、ペルッツィのカニ……不気味で可笑しい名画の謎に迫る!

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怖いへんないきものの絵

2大ベストセラー、『怖い絵』の著者・中野京子氏と、『へんないきもの』の著者・早川いくを氏。
恐怖と爆笑の人気者がコラボして、爆笑必至なのに、教養も深まる、最高におもしろい一冊『怖いへんないきものの絵』を、たくさん楽しんでいただくためのコーナーです。

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中野京子

作家、ドイツ文学者。北海道生まれ。西洋の歴史や芸術に関する広範な知識をもとに、絵画エッセイや歴史解説書を多数発表。新聞や雑誌に連載を持つほか、テレビの美術番組に出演するなど幅広く活躍。特別監修を務めた2017年開催「怖い絵」展は入場者数が68万人を突破した。『怖いへんないきものの絵』、「怖い絵」シリーズ 、「名画の謎」シリーズ、「名画で読み解く 12の物語」シリーズ、『美貌のひと 歴史に名を刻んだ顔』など著書多数。

早川いくを

著作家。1965年東京都生まれ。多摩美術大学卒業。広告制作会社、出版社勤務を経て独立、文筆とデザインを手がけるようになる。近年は水族館の企画展示などにも参画。最新刊『怖いへんないきものの絵』のほか、『へんないきもの』、『またまたへんないきもの』、『カッコいいほとけ』、『うんこがへんないきもの』、『へんな生きもの へんな生きざま』、『へんないきものもよう』、訳書『進化くん』(飛鳥新社)など著書多数。

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