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怖いへんないきものの絵

2019.02.26 更新

「ハードな行為」を表現するのにぴったりの生き物がトカゲ ~パオリー二『カニに指を挟まれる少年』(3/3)中野京子/早川いくを

2大ベストセラー、『怖い絵』中野京子氏と、『へんないきもの』早川いくを氏。
恐怖と爆笑の人気者がコラボして生まれた『怖いへんないきものの絵』
早川氏が、“へんないきもの”が描かれた西洋絵画を見つけてきては、中野先生にその真意を尋ねに行くのですが、それに対して、中野先生の回答は、意外かつ刺激的!

この『トカゲに嚙まれた少年』に描かれているトカゲは、「カナヘビ」というトカゲで、かなり激しい交尾をするのが特徴らしいのです。
…この絵、エロスの暗号が多すぎて、頭がパンクしそう!

*   *   *

――今、編集さんの知人であるゲイの方に、電話で聞いてもらったんですが、手前にある果物の中にブラックチェリーがあるのが気になるそうです。ブラックチェリーは「アナル童貞」の隠語なので、この少年はそちらがまだ未経験なのかなと。薔薇をいじるってことは、男漁(あさ)りを意味してるのかな? っておっしゃってました。

手元のブラックチェリーに注目!

「それは面白いですね! そういえば昔『薔薇族』というゲイ雑誌がありました。薔薇イコール、ヴィーナス、という発想はストレートのものでしかないのかもしれません」

 

――この少年にはパトロンがいる。でも、薔薇いじり(他の男を物色の意)をしていたら嚙まれた、要するに浮気の罰だったという意味では……ということもその方はご想像されたそうです。

 

「なるほど。ちなみに中指を嚙まれてますよね。中指には性的な意味があるので、ますますもってそういうことになります」

 

なるほど、中指か。

五本指でそちら方面の担当となれば、やはり中指だろう。

しかし、そういう話の流れなら、こちらもひとこと申しあげることがありそうだ。

この絵のトカゲ、「トカゲ」と題されているものの、体表の具合からおそらくカナヘビではないかと思われる。トカゲもカナヘビも同じ爬虫類(はちゅうるい)、似たような姿形だが、分類上は別のグループで、習性などのちがいも色々ある。日本でもよく見られ、我々がトカゲといっているのは、カナヘビであることも多い。

カナヘビは、交尾の際、オスがメスを嚙む。

オスはメスを見つけると、いきなり下半身に嚙みつく。

甘嚙みなどではなく、メスの腹に嚙み跡が残るほどの強さだ。ほとんど攻撃である。勢いあまって、頭やしっぽに嚙みつき、驚いたメスが反撃に転じて、格闘になることもしばしばある。

やがてオスは、嚙みついたまま体を前後に揺らし始め、メスが受け入れ態勢をとると、二匹は交尾に至る。

それはほとんど瞬間的なものではあるが、そこに至るまでは、二匹がからみ合い、のたうちまわるという、格闘としか思えないような行為が続く。

つまりカナヘビは「ハードな行為」を表現するには、ぴったりの生き物なのだ。

しかも小さくて、絵の構成的にも具合がいい。

チェリー、薔薇、中指、カナヘビ。カラヴァッジョはそこまで考えて描いたのだろうか?

 

それとも、それはうがちすぎな見方だろうか。

 

そして坂田さん、じゃなかった、『カニに指を挟まれる少年』には、そういった隠されたメッセージは、やはり何もないのだろうか?

またまた登場『カニに指を挟まれる少年』

「手前に大きなエビがあるでしょう。でもはさんでいるのは小さなカニ。『小さなものの方が危険な場合がある』というメッセージがこめられているのではないか、ともいわれてますけどね」

 

――う~ん、カラヴァッジョの絵に思いを致した後では、ちょっと平板なものに思えますが……。

 

「カラヴァッジョを意識して描いたのでしょうけど、今ひとつ迫力が足りないのは描写の不足です。作品の手の甲を見るとわかりますが、血管の表現が全然ちがいます。あと、布の質感のちがいですね。カニ自体も何か変じゃないですか?」

 

――そう言われてみれば、何かおかしいような……。

 

「この脚、何だか長すぎません? あと、脚の向きも逆みたいな気がします」

 

――あっ! 本当にそうですね。それは私の領分なのに、先に言われた! 先に言われた! いや私もわかってたんですけどね。何だか、脚が向こう側に曲がってるように見えますよね!

「それに普通、カニって甲こう羅ら の方をもつでしょう。はさまれないように。でもこんなクッキーみたいなもち方して、ちょっとわざとらしい」

 

――ああっ、本当だ!

 

だから居酒屋のつまみに見えちゃうんだ。もう坂田さんは本当に詰めが甘いよ!

 

「だから坂田さんって誰!?」

 

(『カニに指を挟まれる少年』は以上です。次回からは『美術鑑定家としての猿たち』です)

中野京子、早川いくを『怖いへんないきものの絵』

2大ベストセラー 『怖い絵』と『へんないきもの』が、まさかの合体。
アルチンボルドの魚、ルーベンスのオオカミ、クラナッハのミツバチ、ペルッツィのカニ……不気味で可笑しい名画の謎に迫る!

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怖いへんないきものの絵

2大ベストセラー、『怖い絵』の著者・中野京子氏と、『へんないきもの』の著者・早川いくを氏。
恐怖と爆笑の人気者がコラボして、爆笑必至なのに、教養も深まる、最高におもしろい一冊『怖いへんないきものの絵』を、たくさん楽しんでいただくためのコーナーです。

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中野京子

作家、ドイツ文学者。北海道生まれ。西洋の歴史や芸術に関する広範な知識をもとに、絵画エッセイや歴史解説書を多数発表。新聞や雑誌に連載を持つほか、テレビの美術番組に出演するなど幅広く活躍。特別監修を務めた2017年開催「怖い絵」展は入場者数が68万人を突破した。『怖いへんないきものの絵』、「怖い絵」シリーズ 、「名画の謎」シリーズ、「名画で読み解く 12の物語」シリーズ、『美貌のひと 歴史に名を刻んだ顔』など著書多数。

早川いくを

著作家。1965年東京都生まれ。多摩美術大学卒業。広告制作会社、出版社勤務を経て独立、文筆とデザインを手がけるようになる。近年は水族館の企画展示などにも参画。最新刊『怖いへんないきものの絵』のほか、『へんないきもの』、『またまたへんないきもの』、『カッコいいほとけ』、『うんこがへんないきもの』、『へんな生きもの へんな生きざま』、『へんないきものもよう』、訳書『進化くん』(飛鳥新社)など著書多数。

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