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眩しがりやが見た光

2019.02.20 更新

この世界が何もわからなくても、歌ってもいいマヒトゥ・ザ・ピーポー

photography  吉本真大


辺野古の海を見て欲しいと奥田愛基からメールがきて、「いくよ」そうとだけ返した。

その4日後、わたしは沖縄にいた。愛基君のおぼつかない運転で那覇から辺野古へ高速道路の上を車が走る。スピード感はいつだって大切で、理由が揃った時には機は逃してる。今、コーラよりスプライトが飲みたい、そこに理由が生まれた時にはすでに炭酸は抜けているだろう。

 

 

車内のBGMでレゲエやトライバルなものを選んだのは突き抜けるような陽気な気候と浜からの風のせいだろう。車で聴く音楽って最高に気持ちがいい。途中、いくつかの米軍基地があり、金網の奥に米兵が見えるたびに、咲いていた会話に妙な間が生まれ、不思議な気持ちになる。

最初に言っておくと、これは別に政治の話ではない。もっと、わたしより饒舌に語れる者がいるだろう。いや、そもそも、この問題は県外の人間が軽々しく反対や賛成と語れる種類のものではない。この街に住んでいる者にしかわからない難しさがあるだろうことを、赤信号を待つ間、金網に張り巡らされた有刺鉄線の先端を見ながら思っていた。なぜか、跡として残っている左膝の古傷がズキンと痛んだ。
 

大浦湾につき、車のドアを開けると透明な風がさらさらと肌の上を滑った。普段、海の匂いだと思い込み、色んなところで嗅いできたあの鼻をつくような癖のある匂いはせず、まっすぐ鼻先をかすめていった。わたしが今まで海の匂いだと思いこんでいたのは汚れやプランクトンの死骸が腐った匂いだったことに気づく。
 


グラスボートに乗りこむと、サンゴの見える海を目指し、ボートのエンジンが犬歯をむき出した犬のように唸りを上げる。こちらの岸は辺野古の逆側にあたるようだ。

「今日は揺れますから」そう船長が言うので、笑って「余裕っす」と答えたが30分後、わたしは大ホラ吹きになる。

波は揺れ、体は上下し、ボートは波目をなぞる。荒波の飛沫の中、わたしの心は海賊にでもなった気分ではしゃぎ倒し、目線はすべての動きを捉えようと前に後ろにキョロキョロと駆け回る。

わたしの顔は、体育祭のリレーのバトンを待つ小学生みたくなっていただろう。覗き込むグラスの下にサンゴが現れた時、人が驚く時の代表的なリアクションその1といった感じで「おおおお!」とシンプルな声をあげた。海の真ん中に現れたアオサンゴの群落は得体の知れない星の断面を覗いているようだった。

その影から宇宙人が顔を覗かせてもわたしは、さほど驚かなかっただろう。色とりどりの熱帯魚が泳ぐ中、数千年の時を要したとも言われるアオサンゴ、ミドリイシ、コブハマサンゴは波のリズムで体を四方に伸ばし、自由を謳歌しているみたいで幻想そのものだった。

わたしはグラスにクギ付けになり、感動していた。その数分後、視線を上げるとボートはオレンジの浮きで仕切られた境界線へとたどり着く。その感動的な気持ちとは真逆の臭気を放つ船は、ドス黒い煙を煙突から咳き込むように吐き出しながらその境界線の奥で土砂を運んでいた。わたしは先ほどまでと違う回路が必要な現場に到着したことを皮膚感覚で悟る。まるで、のめり込んで見ていた映画のテレビ放送の途中で、無関係なニュース速報がけたたましく流れ出した時のようなしらけた現実がなだれ込んできた。

わたしたちのボートを警戒して航路を変える監視船。この監視船は日当五万円という安くない報酬が支払われるが、何か見たら報告するだけで一日のほとんどは寝ているのが仕事なのだそうだ。そういえば、船着き場に停められた船の上に一人用のテントが張られているのを見た。この監視船には地元の船乗りも乗り込み、日当をもらっているそうだ。

そうやって仕事を与えることで、土砂投入を諦める理由を与え、反発を分散させることが目的だという。船乗りにも生活があり、家族がいる。

「仕事だからまあ、仕方ないよな」その言葉を一つ吐かせるために政府は毎日五万円を払っている。自分が愛してきた海を汚す手伝いに参加させられるのはどんな気分なのだろうか? うみんちゅうの誇りを天秤にかけさせ、自らのトンカチでかち割らせた後に剥奪する。わたしは、暗い気持ちに重ねて船酔いがひどく、うつむいていた。
 

沖に着き、酔いを覚ましに砂浜を歩いた。化石のように石灰質になったサンゴが波打ち際から打ち上がっていて、拾い上げるとどれも形が違う。いくつか気に入ったものを持ってかえることにした。この砂浜一つで一本映画が作れそうなくらい穏やかで神秘的な風景だが、水平線のあたりを黒い船が映り込むたびに不釣り合いなビジュアルだと困惑する。

次に辺野古へ向かい、辺野古の側から埋め立てをしているところを見た。

車を降りた瞬間、いつもの潮のえぐみのある死臭が鼻をついた。錆びた廃車に雑草が生えてる。さっきの砂浜からそんなに距離があるわけではないのに、砂浜の色も混じり物があるかのような不衛生な色をしていた。奥には不気味で仰々しい陸が作られていた。この浜で誰が遊ぶのだろう? 流れ着いたサンゴも黄ばんでいて、拾い上げる気にも、シャッターを切る気にもとてもなれない。

奥で泥を吐く船は、海から青を奪う海賊そのもので、踊るような冒険者の心はとっくに幻滅し、愛基君に話しかけるわたしの声のトーンはうんと下がっていた。工事への妨害は土砂を運ぶ大きな船が停泊するその陸との間にカヌーで入り、停泊できなくするといった方法のようで、うまくいって工事に二時間の遅れが生じるようだ。何日もそれを積み重ねる。巨大な重機が連立する陸に対して、竹槍で抵抗するような果てしのない落差に悲しくなる。

でも本当の海賊はこの海にはいない。空調のきいた、潮の香りもしない会議室で、英語で媚と恩を売りながら、柔らかいチェアーからボードゲームのように駒を動かし、尊厳を剥奪している。彼らこそ本当の海賊だろう。

県民投票音楽祭という2月24日の県民選挙について考えるイベントに飛び入りでライブをした。ハングリーストライキをしていた元山仁士郎が主催のイベントだ。

ラッパーのRITTOはライブ中、賛成反対の選択についてどちらかへ促し、明言することを避けていたのだけど、同時に理屈ではなく信じていた。言わなくてもわかるはずだということ。その感覚にわたしは励まされた。

「基地をめぐる分断、普天間基地はどうする? 代案出せ」

正直に言って、不勉強なわたしにはよくわからない。きっと、雇用の問題も含め、声を上げることのできない様々な理由もあることと思う。あまりに無力だが、それに対する答えをわたしは持っていない。

ただ、直感的に嫌だなと思うことを背景や概念であきらめなくていい。わたしたちは概念で空を見ない。海の青を概念で見ることはない。ただ、朝の光を浴びるためにカーテンをあけ、光の匂いに季節をさがす。雨が降れば傘をさし、時に濡れ、風のままに誘われ、街に出て好きな人に会い、好きな音で揺れる。理屈を考える位置からではなく、心があるはずの場所から涙は流れる。

それを捨てなければいけない時、それは人ではないし、奪われたとしたらそれは人としての権利だ。その時、理屈は全部あとだ。怒ればいい。あなたの命を見せつける時なのだと思う。

この世界が何もわからなくても、歌ってもいい。言葉が見つからなくても、辻褄が用意できなくても、叫んでもいい。

わたしたちは生まれてきた時、理屈ではなく泣いていた。最初から意味不明な存在として生まれてきたものが意味を増やし、環境を取り繕ってきただけなのだ。誰かの用意した理屈で全ての感覚に制限をかけることは間違ってる。わたしは辺野古の海を見て、どうすることが正解なのかは明言できないが、間違っているということだけはわかった。

この悲しさが理由だ。この海の色がその理由だ。
 

帰りがけ、どうしてもタコスを食べたいとわたしはぐずり、店のオープンまで時間を潰そうと、桜坂劇場のカフェへ入った。信じられないくらい辛いジンジャーエールで両の目はぱっちりと見開き、悶絶する。 

愛基君が仕事でメールを打っている間、わたしは二階の陶芸品やガラスのコップを見て回った。窓の外で午後の光が小刻みに揺れていて、その不安定な揺れがグラスにあたり綺麗だった。

わたしは薄いヒビの入ったグラスを購入する。このコップは無力だし、何のメッセージも発しないが光を招待している。その静寂だけがわたしに語りだす。自堕落な生活を続けているわたしにも生活があって、その光にしがみつき、明日に期待している。わたしは今日もなんだかんだで人間を続けている。

タコスを食べ、店先に出ると突然のスコール。見ず知らずのわたしたちに傘を二本も貸してくれたお母さん。視界は真っ白い霧のよう、わたしたちは傘を突き破りそうな強い雨音に鼓膜いっぱいに満たしながら、タクシーに乗り込んで空港を目指した。

質屋で買ったという純金の指輪をつけたタクシーの運ちゃんはよく喋るが訛りが強く、三割ほどは適当な相槌でごまかした。「仕事やからな」そう言いながらスコールのカーテンの中を突き進むタクシー。スカートをたくしあげ、水たまりの中をズブズブ進むセーラー服の高校生。雨宿りに疲れたのか、店先で体育座りをしているおっさん。後部座席、しっかり濡れた裾や袖は冷たく、わたしは生きていた。多分、これを読んでいる人は皆生きている。そして生きている人のためにこの世界がある。

だからわたしは信じている。 
 

 

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眩しがりやが見た光

GEZAN・マヒトの見た、光、幸福、人生。

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マヒトゥ・ザ・ピーポー

2009年 バンドGEZANを大阪にて結成。
作詞作曲をおこないボーカルとして音楽活動開始。
2011年、「沈黙の次に美しい日々」をリリース。全国流通前にして「ele-king」や「studio voice」誌などをはじめ各所でソロアーティストとしてインタビューが掲載されるなど注目が集まる。
2014年には青葉市子とのユニットNUUAMMを結成し、アルバムを発売する。
2015年にはpeepowという別名義でラップアルバム Delete CIPYをK-BOMBらと共に制作、BLACK SMOKER recordsにてリリース。
CMや映画の劇伴音楽を手がける他、国内外のアーティストを自身のレーベル、十三月の甲虫でリリースしたり、野外フェスである全感覚祭を主催。
また中国の写真家Ren Hangのモデルをつとめたりとボーダーをまたいだ自由なスタンスで活動している。

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