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眩しがりやが見た光

2018.12.27 更新

QUIET REDマヒトゥ・ザ・ピーポー

photography Shiori Ikeno

死んだじいちゃんに「何か怒れることがあったり、悲しいことがある時は、言葉や力に頼らずに自分の仕事で清算しなさい」と言われたことがある。

説教臭い人ではなく、いつもは寡黙だった。自分が道をそれると、後ろから引き止めるようにどやしつけるのではなく、ボロボロになり頭を垂れて戻ってくる時、角を曲がると、そこで最初から腰を休めてたかのように空を見ているような、そんなじいちゃんだった。

夕さりの沈黙はやさしい。空に飛んだツバメは、もう花の咲くことのない痛んだ桜の木の枝で同じように羽を休める。わたしはじんじんと腫れた掌をさすりながらただ黙って空を睨んでいた。

今の時代、仕事で清算するまでもなく、SNSの中で自分を表現することができる。有名人のいいねに喜んだり、繋がっているような感覚? でも、どこまでいってもそこに温度はなく、その先は暗く冷たい。軽薄なものの中できゃんきゃん吠えている自分の姿が液晶の黒くなった画面に映った時、その文字を打っていた男を静寂はじっとりと軽蔑している。

わたしの仕事とはなんだろうか?

いまだにわからないまま、畦道を歩いている。両脇、カエルが鳴いていた夏はゆうに越え、冷えた年末の空気が鉛のような低い温度を引き連れ、靴と靴の間を巡回していた。

 

 

昨晩、友人との待ち合わせまで時間を持て余したわたしは本屋にいた。年度末になると必ず出回る、雑誌の年間ベストをペラペラとめくりながら、遅刻中の友を待っていた。相変わらずライターに都合のいい安全牌を並び替えただけのいけ好かない並びが席捲するランキングは不愉快だったが、時折GEZANの名前は登場し、そのランキングは一位や二位だったのが印象的で、当人がドキュメントに介入しているか否かで極端に差が出るのが今の自分たちらしいと感じる。

時代に関係なく鳴らされた音と言われることは昔から多くあるが、時代と無関係でいることなどできるのだろうか? これはそれを書いたライターや特定の誰かへの批判ではないのだけど、そもそも時代とは何なのか? 多数決のこと? だとすれば、そこからこぼれ、音に想いを馳せた人間が生きた時間はなんと呼ばれるべきなのか? いつからオルタナティブはハイセンスな者の選民意識を満たすための道具に成り下がったのか? 少なくとも小数点以下を切り捨てることに慣れてしまった者に時代という言葉を使う資格はない。

わたしに才能があるとすれば、その才能はそういったたよりないもののためだけに使いたい。それは決して弱者のことではない。名前を与えられず、時代という防護服も着させてもらえず、裸のまま十二月の空に放り出された孤高の精神のために。


七尾旅人の「STRAY DOGS」を聴きながら近所の神社へ散歩する。年始の初詣の空気も好きだが、祭の前のひんやりとした静かな時間が好きだ。じきに、この緑に挟まれた道には露店がたくさん並び、飴の甘い匂いをくゆらしたカーテンの中を皆がそれぞれの想いを抱え、手をあわせにくる。石畳を蹴りながら、このうたから優しさを感じ取れない人とはきっと会話ができないだろうとふと思った。いつかは大切な者の数より、なくしてしまう数の方が多くなるかもしれない。その時、音楽は何を語りかけるだろう? 切実な、売り物になることすら拒絶しているそんな響きを、ある日誰かが、うたと呼んだ。それは宝石のように輝いているものばかりでなかったはずだ。綺麗に生きられない間はうたで感動できる。わたしは、神様には手をあわさずに神社をあとにする。

 

結果を生んでも、生まなくても、わたしたちは2018年を生きた。それは今書いていること自体が証明してるし、これを読んでることだってその証明に十分になりゆる。誰にも見せずに部屋で水をあげていた花も、いつも公園のベンチに座っているだけの老人も、コンビニのゴミ箱を狙っている電線の上のカラスも、カラスが食い残したからあげの串の集まってきた蟻も、一人きりで練習したギターのおぼつかないコードも、部屋で口づさんだ好きな歌のサビのメロディも、思い出になりかかってる贈り物のような言葉の断片も、ニュースにもならずにやめていった友達も、喧嘩したまま疎遠になったあいつも、すべてちゃんと存在していた。それは誰かや、何か、はたまた時代と比べてなかったことにする必要はない。ちゃんとポケットの中で大切にしてもいい。

 

わたしが人であることを忘れかけた日も、静かな赤色は皮膚の裏で歌うことをやめなかった。自分の作ったラインに救われながら、なんとか、ここまでたどり着いた。

こんな世界をサバイブしたのだから、祝杯をあげる。明日はQUIET REDを残さず使い切りたい。光葬。


2018年12月28日(fri) 
QUIET RED
~over the true blue~ 2018

【act】
GEZAN
LOSTAGE

OPEN 18:30/START 19:30
ADV.¥3,200

恵比寿 LIQUIDROOMにて

【問い合わせ】
シブヤテレビジョン 03-5428-8793

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眩しがりやが見た光

GEZAN・マヒトの見た、光、幸福、人生。

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マヒトゥ・ザ・ピーポー

2009年 バンドGEZANを大阪にて結成。
作詞作曲をおこないボーカルとして音楽活動開始。
2011年、「沈黙の次に美しい日々」をリリース。全国流通前にして「ele-king」や「studio voice」誌などをはじめ各所でソロアーティストとしてインタビューが掲載されるなど注目が集まる。
2014年には青葉市子とのユニットNUUAMMを結成し、アルバムを発売する。
2015年にはpeepowという別名義でラップアルバム Delete CIPYをK-BOMBらと共に制作、BLACK SMOKER recordsにてリリース。
CMや映画の劇伴音楽を手がける他、国内外のアーティストを自身のレーベル、十三月の甲虫でリリースしたり、野外フェスである全感覚祭を主催。
また中国の写真家Ren Hangのモデルをつとめたりとボーダーをまたいだ自由なスタンスで活動している。

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