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眩しがりやが見た光

2019.03.14 公開 ツイート

ただ、三月は目をこすっている マヒトゥ・ザ・ピーポー

(photography:吉本真大)

毎日マスクをして、花粉から身を守るワタシに春の匂いなど感じられるはずもなく、強いていうならこのガーゼの匂いがワタシに春を思い起こさせる。

小さい頃はもっと花粉症がひどく、こすり尽くした朝には目を開けるのも困難なほどに目やにがまつ毛とまつ毛をつなぎ、まばゆい光の中を盲目にふらつきながら洗面所にいき、蛇口をひねり、目やにを水でゆっくり溶かすのが日課だった。だから、わたしは風邪をひき、マスクをつけると、胸の奥がきゅうんと締め付けられるのだ。

春は何故だか、死んだ人を思い出す。充血した目を瞑(つむ)り、もう会えなくなった人のことをこめかみの奥に思う。生きていると、どんどんとその数が増えていく。そのたびに特別な記念日は増えていく。そのうち、365日、全てが祝日のようになるから、じいさんになるのが楽しみだ。

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マヒトゥ・ザ・ピーポー『ひかりぼっち

本連載に13編の書き下ろし他を加えた書籍が、2020年11月17日、イースト・プレスよりに発売されます。

いつ、どの部分を遺書として 切り取ってくれても構わない。 あなたがあなた自身である限り、誰にも負けることはない。 オリジナルでもフェイクでもいい。ただわたしであればそれだけでいい。 GEZANマヒト、時代のフロントマン。眩しいだけじゃない光の記録。(写真 佐内正史)

関連書籍

マヒトゥ・ザ・ピーポー『銀河で一番静かな革命』

海外に行ったことのない英会話講師のゆうき。長いあいだ新しい曲を作ることができないでいるミュージシャンの光太。父親のわからない子を産んだ自分を責める、シングルマザーのましろ。 決めるのはいつも自分じゃない誰か。孤独と鬱屈はいつも身近にあった。だから、こんな世界に未練なんてない、ずっとそう思っていたのに、あの「通達」ですべて変わってしまった。 タイムリミットが来る前に、私たちは、「答え」を探さなければならない――。 孤独で不器用な人々の輝きを切なく鮮やかに切り取る、ずっと忘れられない物語。アンダーグラウンド界の鬼才が放つ、珠玉のデビュー小説。

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眩しがりやが見た光

GEZAN・マヒトの見た、光、幸福、人生。

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マヒトゥ・ザ・ピーポー

ミュージシャン。2009年に大阪にて結成されたバンド・GEZANの作詞作曲を行いボーカルとして音楽活動開始。
2014年、青葉市子とのユニットNUUAMMを結成。
2018年、GEZANのアメリカツアーを敢行し、スティーブ・アルビニをエンジニアに迎えたアルバム「Silence Will Speak」を発表。
2019年2月にソロアルバム「不完全なけもの」、4月に「やさしい哺乳類」を発売。
5月にはじめての小説「銀河で一番静かな革命」を発売、6月には初めてのドキュメンタリー映画「Tribe Called Discord:Documentary of GEZAN」が公開、同年7月には初めてのフジロックのホワイトステージに出演した。
2014年からは、完全手作りの投げ銭制野外フェス「全感覚祭」も主催。自由に境界をまたぎながらも個であることを貫くスタイルと、幅広い楽曲、独自の世界を打ち出す歌詞への評価は高く、日本のアンダーグラウンドシーンを牽引する存在として注目を集めている。

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