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眩しがりやが見た光

2019.02.04 更新

HOLY DAYマヒトゥ・ザ・ピーポー

photography ソノダノア

[これはわたしのソロ曲「Holy day」の映像をお願いしようと思い、耳の聞こえない写真家である齋藤陽道さんへ、手紙と題し送った最初のメールになります。]

**

わたしが歩いた平成は、陽道さんの生きた時間は、終わりゆく世界への階段を降っている過程でしかないのかもしれない。

僻みに妬み、恨みにつらみ、可聴域よりも下の重低音を発しながら歪んでいく世界の輪郭、空も海も悲鳴をあげるが、その流した銀色の涙にもバーコードを無理やり貼りつけて、人間は叩き売りする。
「ほら、見なよ。珍しい色をした涙だよ。」

木っ端微塵に壊れたルール、ついには住むことができなくなった青い星をはるか遠くから宇宙人は望遠鏡で見て、指をさして笑っているかもしれない。安全だと過信しあぐらをかいていた透明な床から滑稽に転がり落ちていく人間の様は失敗のサンプルとしてアーカイブされ、ショーウィンドウの中で流れる失敗の歴史のVHSを眺めながら、父は息子の頭を撫で「ほら、ボウズ、こんな風に自分勝手に生きてるとダメになっちゃうぞ」
その醜さを、その稚拙で不完全なけものの姿を若いアベックは嘲笑しているかもしれない。
「途中でこうなることわかってたのに修正もしないで、バカじゃない? ウケる」

耳をすませば聞こえてくる気がする。薄ら笑い。あはは。ウケる。

でも、悪いことばかりじゃなかったよな。ほら、思い出せるかい?
はじめて海を見た時の気持ち、潮の匂いを嗅いで懐かしいと思ったっけ。
お気に入りの野球帽を運んでいった風の色を。
地平線に落ちていく朝焼けを見ている好きな人の顔を。
白い息を吐く、乾燥した唇で呼ぶわたしの名前。ふさぐようにかぶせたはじめての口づけは、本当のこと言うとよくわからなかったんだけど、胸の真ん中がポカンとあったかくなって、いつの間にか顔は赤くなってた。
山をくだり終わった後に食べるレトルトのうどん。ああ。覚えているよ。カレーの汁を飛ばして、白いシャツに新しい星を描いたよな。でも美味しかった。うん。
公園で餌をあげているおじいさんに集まってくる鳩の群れ、毎朝同じ時間にウォーキングしている派手な服のおばさん。いち、に、いち、に あんな服どこに売ってるんだよ。ずっと公園をウロウロしていたあの薄汚い野良犬、最近見なくなったけど、あいつどこいったんだろうな。

朝方、無人のクラブ ふみつけられたフライヤーがはかる 昨晩のステップの数
防音扉をあけた瞬間差し込んでくる朝焼けはプリズム
始発を待つ遊びつかれた女子高生 うなだれた首筋のキスマーク、捨てられたデモ行進のプラカード
カラスが見てる、午前四時
通り過ぎる、誰も見ていない 駅のタギング
学校にいけない小学生が見ていた昼間の三日月
季節が変わる時たてる音、森羅万象、瞬くライト 咲いた花や枯れた花も 全部 全部

卒業写真 、あいつのへたくそな笑い方や
コロッケ屋のやたら吠えてくる犬
バス停で来るはずのない人を待っているじいさん
見えないものを見ようとして望遠鏡のかわりにのぞきこんたアイフォンのおくれなかったメールの下書き HEY SIRI? どうしたらいい?
立ち上る線香の煙、皺くちゃな指、数える。ばあちゃんの瞬き。
数える ありがとうの数 数える ごめんねの理由 
もらった気持ち、こころがある場所 そこで鳴ってる音や思い出、忘れたくないお守りの言葉、全部 全部。

はじめてのセックス。握る手、震える薄い胸に浮いている鳥肌。粒のように浮かべた汗、吐く息のリズムが揃って境界線は消え、体は溶けて真っ白になった。恋が何だかはじめて知った。大きく息を吐き見上げた天井。仏壇から香るかすかな線香の匂い。
じいちゃんが死ぬ時、人が物になる時立ち上がった色、下がった部屋の温度。暗闇が泣いてるせいだと思った。ちっとも泣けなかった俺。結露した窓に指で書いたドラえもんの落書き。垂れ下がり、涙みたい。
 

photography ソノダノア

沈む夕陽がしみる、すり傷をつくった部活の帰り道
あけ続けた缶ビールの蓋の数だけ語った恥ずかしい夢
名前のついてない数々の季節、言葉も忘れて走った 鳴り止まないハウリング、終わらないうたを続けよう
切れた弦、血の匂い 反復する焦燥と混乱
知ってる限りをつくしていのちを使い切った日々の
実験の夜 発見の朝 最後、思い出すのは 
涙で沈んだ都市ではなく
素晴らしい世界 
雨がやんだら 今日は散歩にいこう
歩き慣れたいつもの、駅からコンビニまでの道。
覚えてきた言葉を一つづつ、一つづつ丁寧に忘れて、ただ季節と揺れる花と風と声に戻ろう。
Welcome to the new day .ただその波紋の先
Welcome to the new way .新しい笑い方 
その時はきっと 音楽も歌も捨てて、ただ夕日を浴びた日々を共に生きよう。

確かに、わたしが歩いた平成は、陽道さんの生きた時間は、溢れていく砂時計の一部でしかないのかもしれない。けれど、綺麗な時間もあったことをわたしは忘れたくない。その失敗の記録には刻まれていない記憶の中にわたしは生きていた。笑ったり泣いたりしながら世界を駆け抜けた。
それも忘れたくないのです。

この二枚のアルバム「不完全なけもの」「やさしい哺乳類」はそんな気持ちが作らせました。

のあ、もくれんは綺麗な生き物です。のあの迷いながらいろんな景色を駆け抜け、いつの日か、もくれんを産み、もくれんもまた駆けはじめてく、きっとこの先迷いながら世界と向き合い世界そのものになっていく、そんなごく普通の奇跡のようなループに惹かれミュージックビデオの話をしていました。陽道さんの切り取る世界にはその祝福の光を感じます。忘れたくないと語ったわたしと同じ世界がうつっているように思います。

遺書のようなこんな長い文章を手紙のようにおくることをお許しください。わたしはマヒトゥ・ザ・ピーポーといいます。

 

 

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眩しがりやが見た光

GEZAN・マヒトの見た、光、幸福、人生。

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マヒトゥ・ザ・ピーポー

2009年 バンドGEZANを大阪にて結成。
作詞作曲をおこないボーカルとして音楽活動開始。
2011年、「沈黙の次に美しい日々」をリリース。全国流通前にして「ele-king」や「studio voice」誌などをはじめ各所でソロアーティストとしてインタビューが掲載されるなど注目が集まる。
2014年には青葉市子とのユニットNUUAMMを結成し、アルバムを発売する。
2015年にはpeepowという別名義でラップアルバム Delete CIPYをK-BOMBらと共に制作、BLACK SMOKER recordsにてリリース。
CMや映画の劇伴音楽を手がける他、国内外のアーティストを自身のレーベル、十三月の甲虫でリリースしたり、野外フェスである全感覚祭を主催。
また中国の写真家Ren Hangのモデルをつとめたりとボーダーをまたいだ自由なスタンスで活動している。

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