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眩しがりやが見た光

2019.05.21 更新

銀河で一番静かな革命マヒトゥ・ザ・ピーポー

深夜のファミレスにはある種のグルーヴがある。明らかに帰る家がなくドリンクバーで何時間もしのぐおじさん。ホテヘル嬢だろう、うつむいて電話を待っている女の人。未成年と思われる勉強のできなそうな家出少年。席は向かい合ってはいるが、お互いの顔を見ることはなくゲームの画面に没頭するオタク。

各々が訳ありなムードを内包しつつ、そこには不干渉だ。だが確かに存在していることをお互いに肩で認知しあっている。手を取り、徒党を組むことだけではなく、無干渉だが無関係ではないというグルーヴも存在することをわたしは真夜中のファミレスで学んだ。

いきつけのジョナサンにわたしが入店して24時間をゆうに経過している。店員はわたしと目があうと会釈するが、毎日来るためだろう、その微笑みにもわずかだが親しみを感じ取ることができた。

わたしはタイピングしている。当たり障りない趣味の有線がややうざったい店内で黒いキーをパチパチ打ちながら、複数の人間の人生を描いている。このキーボードを打つ画面の向こう側の景色を創造することは、まるで神様の仕事のようで、大げさなようだが、時にナーバスに入ることもあった。現実世界の友人と同じように、書いているうちに登場人物に思い入れも生まれる。

 

誰かの人生をそんな簡単にコントロールできてしまえることなど、冷静に考えると荷の重いことのように思えたが、それでも走るわたしの指は自我を忘れ狂ったようにタイプしていた。

『銀河で一番静かな革命』にヒーローは出てこない。この世界を救う圧倒的な救世主不在の革命の物語だ。

この星を揺るがす何かに一切の決定権をもたない、マイノリティという言葉で片付けられるわたしを含めた小数点以下の存在。2019年、それでも確かに存在している。

季節が変わる時の空の色を見て、意味もわからず感動したり、目を覚ましたら低気圧のせいで何だか落ち込んでいたり、枯れていく花を見て綺麗だと思ったり、風邪で朦朧としながらもう会えない人をその眉間に思い出したり、瘡蓋をはいでその傷口の匂いに妙に安心したり、好きな人の首を絞めたくなったり、悲しくもないのに涙が流れたり、夜の街を見て死にたくなり、あくる朝の光を浴びて生きてみたくなったり、人を愛したり、傷つけたり、わからないままのこの世界に何一切の変化を与えない日でも、わたしたちはもれなく生きている。

人を傷つけることなく、言語のテロに参加することなく、その景色を変えることができるだろうか。わたしはわたし自身のすでに持っている自由について思いを馳せていた。

小説を書き始めたことは、わたしにとって新鮮だった。昨日と今日の境目もなく、ふしだらでだらしのない毎日を送るわたしにルーティンという軸を与えてくれた。書き疲れ発光した頭でファミレスを出ると、つんざくような朝日に五臓を串刺しにされ、立ち眩む体を支える手すりの感触。大雨に打たれ、ノートパソコンを守るためにシャツを脱いで、包み、上半身裸で自転車を漕いだ夏の夕暮れ。そのどれもが本編には直接関係はしていないが、『銀河で一番静かな革命』という小説がわたしに与えてくれた体験だ。

編集の担当の竹村さんとは何度も喫茶店で打ち合わせをした。濃いコーヒーを何杯も飲みすぎたわたしはちょっとのカフェインではもう目も覚めない体になってしまった。断言できるがわたし一人では書き切ることができなかっただろう。

子どもが最初に出会う社会が家庭であるように、わたしの文字を並べて描いた命やその一文一文に寄り添い、仕事としての側面と一読者としての好奇心の両軸を持って関係してくれた。そうして誕生した一冊のことを一番に喜んでくれたのは紛れもなく竹村さんだった。

それはトップの発言や行動が背景をつくり、拭い去れないイメージを形成したとしても、何度も読んで根気強く仕事をしてくれた日々が変わることはない。それは過去に出版されてきた作品や同様の立場にいる編集者にも同じことが言えるだろう。これは肉体を持ってこの経験を通過した個人の感情論でしかないことはわかっている。

当然、構造とは無関係ではないが、わたしは顔の見える信用できる人とのドキュメントの中で本を書いた。

「あの国は過去にこんな歴史があるから、この国はトップが最低だから、以下その国民は総じてクソだ。」

否定されるべきこの悪しき構造と類似した今回の編集者への人格否定への過剰さには、リベラルが本来持つべき多様性という概念が欠落している。

レイヤーは何層もあり、見つめる視点によって変わるその全てのレイヤーを想像することは難しい。だが、困難だからと言って大義のために想像力を欠如させてもいいという理由にはならない。

だが何より、仲間である編集者たちが積んできた時間をそういった批判の波風に晒す結果を招いた見城さんの行動を残念に思い、悲しみの念を拭えない。出版社として様々な考え方を許容するという前提の姿勢、それによって実際に様々な立場から書かれてきたリベラルな本がどれだけのものをつなぎとめていたか。もしもこの発言で出版が停止になったとしてもこう記す。わたしに力を貸してくれた編集者が悲しい思いをしているのが耐えられない。

言葉は人を破壊する。自らを守る武器にもなり、誰かを傷つける凶器にもなる。わたしたちは鋭角の凶器が複数、電波に乗って飛び交う世界を片足で渡っている。いつまで戦いは続くのだろうか? このゲームに終わりはあるのだろうか? 自戒を込めて思う。言葉を、想像力を、レベルを、表現を、自問自答を繰り返す。誰かを傷つけないと自分でいられないそんな世界のことを。心はすぐに壊れる。大げさでもなんでもなく人は簡単に死ぬ。

わたしは誰に勝たなくても何にも負けてない、その日々のために歌っている。コードの上で、リズムの上で、紙の上で。

破壊ではなく、丁寧に生きるという革命があるはずだ。想像力という言葉はそんな時間のために用意されている。

今日は雨が降っている。木が揺れ、葉を振り落とし、駐車されてる車のフロントガラスに大粒の雨が当たる。風邪気味のわたしは一週間咳が止まらない。喉の奥の痰は酸っぱく、えずいた後にでた固形のそれを舌でしばらく転がし、不快な気持ちで道路脇のドブに吐いた。白と蛍光緑の混ざった菌はゆっくりと流されていく。傘をささずに歩いていると肩が濡れて重たくなっていくのがわかる。見上げたこのビルも、この信号も、電柱や電線、そこで羽を休めているカラスも、遠くに見える鉄塔も、神社に吊るされた絵馬もそこに油性マジックで書かれた願いも、全部が濡れていた。雨ざらしの日々を今日も各々の混乱と歩いている。

感じているだけじゃダメだ。これからも考え続ける。

 

マヒトゥ・ザ・ピーポー『銀河で一番静かな革命』

海外に行ったことのない英会話講師のゆうき。長いあいだ新しい曲を作ることができないでいるミュージシャンの光太。父親のわからない子を産んだ自分を責める、シングルマザーのましろ。 決めるのはいつも自分じゃない誰か。孤独と鬱屈はいつも身近にあった。だから、こんな世界に未練なんてない、ずっとそう思っていたのに、あの「通達」ですべて変わってしまった。 タイムリミットが来る前に、私たちは、「答え」を探さなければならない――。 孤独で不器用な人々の輝きを切なく鮮やかに切り取る、ずっと忘れられない物語。アンダーグラウンド界の鬼才が放つ、珠玉のデビュー小説。5月23日発売。

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GEZAN・マヒトの見た、光、幸福、人生。

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マヒトゥ・ザ・ピーポー

ミュージシャン。2009年に大阪にて結成されたバンド・GEZANの作詞作曲を行いボーカルとして音楽活動開始。
2014年、青葉市子とのユニットNUUAMMを結成。
2018年、GEZANのアメリカツアーを敢行し、スティーブ・アルビニをエンジニアに迎えたアルバム「Silence Will Speak」を発表。
2019年2月にソロアルバム「不完全なけもの」、4月に「やさしい哺乳類」を発売。
5月にはじめての小説「銀河で一番静かな革命」を発売、6月には初めてのドキュメンタリー映画「Tribe Called Discord:Documentary of GEZAN」が公開、同年7月には初めてのフジロックのメインステージ出演が決定している。
2014年からは、完全手作りの投げ銭制野外フェス「全感覚祭」も主催。自由に境界をまたぎながらも個であることを貫くスタイルと、幅広い楽曲、独自の世界を打ち出す歌詞への評価は高く、日本のアンダーグラウンドシーンを牽引する存在として注目を集めている。

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