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いま気になること

2018.12.17 更新

有馬記念に一口馬主として参加するロマン本島修司

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いよいよ、今週末の12月23日。今年も有馬記念がやってくる。

このレースは、日本競馬が誇る年末恒例のお祭りだ。

競馬ファンにとっては、これを見なければ一年が終われない。普段は競馬を見ない人たちにとっても、「なんだかよくわからないけれど、毎年、クリスマスくらいになるとみんな騒いでいるよね」というイメージがあると思う。

我が国の競馬には、一般のニュースにもなるような、3つのビッグレースがある。

1. 春の「日本ダービー」。3歳馬のみが出走する、人間でいえばインターハイの決勝のイメージ。
2. 秋の「ジャパンカップ」。1着馬の賞金が3億円という、日本の最強馬決定戦。
3. 師走の「有馬記念」。年末の最強馬決定戦。

ダービーには、その馬が一生に一度しか出られない儚さがある。

ジャパンカップには、スポーツの頂上決戦を観戦する、緊張感あふれる雰囲気がある。

有馬記念には、普段は競馬をやらない人も「年末ジャンボ宝くじと、このレースくらいは買ってみようかな」と思う、お祭りのような雰囲気がある。

どれも、それぞれの良さがある最強馬の決定戦だ。

勝利至上主義になってきた、日本の競馬

しかし、大レースの盛り上がりをよそに、近年、日本競馬の勝利至上主義が止まらない。

これは、多くの競馬ファンが感じていることだと思う。

調教師は、調教するよりも馬主さんへの営業の方が重要という状況が聞かれるようになった。大牧場が、自前の外厩牧場と呼ばれる巨大施設で「調教師より先に馬を仕上げて」くれる。

大レースでは、強い騎手を確保することを徹底する。

同じ牧場出身の有力馬同士ともなれば、G1レース(競馬の最高クラスのレース)を独占できるように、使い分けるような現象もある。

日本競馬は世界でも類を見ない、最高の賞金が用意された舞台だ。

特に、G1、G2、G3と格が付けられた重賞レースではない、もっと弱い馬たちが出る下級条件レースの賞金額が、世界中の他の国の競馬と比べて、抜群に高い。

そして、ここ数年で「日本の芝馬」たちは、世界一強いレベルになった。

野球でいえば、「日本の方が大リーグ」という状況。

つまり、JRAを「合理化して勝つべき、ビッグビジネスの舞台」として見ない方がおかしいともいえる。

さまざまな面で競馬がビジネスライクな方針を取ることになった影響が、ひとつの形となったのが、「400人の会員で持つ馬が主役」となる、今年の有馬記念だ。

注目が集まる「一口クラブ」の馬

今年の天皇賞・秋を勝ったレイデオロは、G1のジャパンカップに出なかった。

大きな怪我があったとか、何かしら大きな事情があったわけではない。そして、約2か月後となる今回の有馬記念には、普通に出てくる。

レイデオロにとって、舞台として適性が合っている、東京・芝2400mのG1をあえてスキップした大きな理由は、おそらく一つだ。

多くの競馬ファンが、今、普通に思っていることを代弁すると、「大手牧場による使い分け」だろう。

レイデオロは、日本の最大手牧場、ノーザンファーム出身の馬。

そしてノーザンファームには、アーモンドアイというもう1頭の看板ホースがいる。

3歳の牝馬3冠レースを全て圧勝し、これから2019年に向けて、歴史的名牝への道を歩もうかという存在だ。

この2頭の使い分けが上手くいった結果として、アーモンドアイは、無事に11月のジャパンカップを勝った。

レイデオロが出ていてもアーモンドアイが勝ったと思われる圧勝だった。しかし、レイデオロ不在で、レースがラクになっていたことは確かだ。

ここで重要なのは、この2頭が、個人の馬主が持つ馬ではなく、会員が共同で馬主になる「一口クラブの馬」だということだ。

「使い分け」は、決して明言されるようなものではない。だが、多くの人が使い分けと感じている一口クラブの馬、レイデオロが、主役を張るのが今回の有馬記念なのだ。

一口から始める馬への投資で馬主になれる

では、一口クラブとは何か。

これは、近年、ビジネスパーソンにも人気が広がっている、馬への投資だ。

本当の馬主ではなく、各クラブの会員となって、1頭の馬を40人で持ったり、400人で持ったりすることができ、配当(好走した際の賞金)も、その人数で分け合う。

賞金は、基本的には馬主が80%、調教師が10%、騎手が5%、厩務員が5%。

一口馬主の場合、その80%から諸経費を引いた分を、会員で分ける。

愛馬の近況は、会員であれば公式ホームページでチェックできる。

最近では、調教の進み具合がわかる動画も更新されるので、愛馬の成長を見守りながら、デビューの日を楽しみに待つことができる。

愛馬が勝利した際には、口取りという勝利記念の撮影に、関係者と一緒に参加する権利まであるクラブも多い。

一般の競馬ファンも、本当の馬主のような視点を持ち、出資をして楽しむことができるのだ。

強すぎる、一口クラブの所属馬

大牧場が、馬の価格が一般公開されない状態で、馬主に直接、0歳馬や1歳馬を売ることを庭先取引きという。

ただ、そればかりでは透明性が不足しているし、誰でも公平に馬を買えるようにしようといった意味合いで始められたのが、セレクトセールという日本最大の競走馬の競りだ。

そこに、もうひとつ、手軽に馬主気分を味わう出資方法として、一口馬主があった。一口馬主は、実は昔から存在したシステムなのだ。

しかし、近年、大牧場が一口クラブの「出資できる馬の質の向上」に力を入れ出した。これにより、一口クラブのカタログには、競馬ファンにお馴染みの良血馬がズラリと並ぶ。

たとえば、セレクトセールに出せば2億円くらいになりそうな馬が、総額1億円・400口で馬主を募集していたりする。とにかく「才能がありそう」、かつ「いかにも競馬ファンがヨダレを流しそう」な、“夢のような血統の1歳馬”が、カタログに並ぶのだ。

会員は、そこに出資して1年、2年と、馬が育ち、デビューする日を待つ。

最近、その馬たちが、2歳、3歳の段階で、大レースを勝つ例が多くなってきた。

こういった現象により、「第3の馬の購入方法」だった一口馬主が、今、メインストリームに躍り出ている。

2日で100億円が動くセレクトセールに上場される馬たちと双璧をなす、いや、それ以上のラインナップといえる良血馬を、大手牧場が、一口クラブに用意するようになった理由。

それは、勝利主義に徹した「囲い込み」だと思われる。

「一口クラブ=牧場」といった具合に、クラブが牧場主導で運営されれば、実質的な馬主は牧場だ。だから、牝馬は繁殖牝馬となって自分の牧場へ帰ってくる。種牡馬になるような優秀な一部の牡馬も、自分の牧場へしっかり戻ってくる。

つまり、このシステムであれば、大牧場にとっては、馬が現役の時は多すぎる有力馬を自由に使い分け、引退後もその優秀な血統の流出を防ぐことができる。

そして、1歳馬の段階で、競りの会場で売れるかどうかハラハラするより、溢れかえる会員たちが待つ一口クラブに入れてしまう方が、馬は、毎年、“安定して”売れる。

この囲い込みこそが、大牧場が一口クラブに血統馬を揃えるようになった理由だろう。

ここ数年、チャンピオンホースまでもが次々と一口クラブの馬から出てくる状況を受けて、各クラブの会員数はジワジワと増えていた。

そして、一口人気を決定付けたのが、2017年のダービーをレイデオロが勝ったこと。

レイデオロは、40口募集の馬ではなく、400口募集の馬だ。

カタログに掲載された1歳の時、募集総額は6000万円。一口15万円だ。

かつて、「ダービー馬の馬主になることは、一国の宰相になるより難しい」といわれた。だが、その天下のダービー馬まで、「総額400分の一の一口会員で持てるのか……」と、色めきだった人も多かった。

今では、募集される人気の良血馬ともなれば、会員同士の抽選でしか出資できないという状況にまでなっている。

近年、競馬人気はだいぶ落ちこんでしまったが、この一口馬主という小さな投資の方にスポットを当てれば、まさに今が、人気の絶頂期といえる。

馬主として走らせる側に回る魅力

使い分けにより、なるべく直接対決をしないことは、競馬ファンの興味や夢を奪っているという声が多いのも事実だ。多くの競馬ファンは、強い馬同士の戦いを望んでいる。

しかし、「ならば、一口馬主になって愛馬でビッグレースに参戦してしまおう!」という参加方法も生まれた。

単に馬券を買う側ではなく、「走らせる側になる楽しみ方」が、今の競馬にはある。

有馬記念のゲートが開く時に、レイデオロを一口持っている、全国400人のレイデオロの会員のワクワク感はどれほどのものか。想像もつかないくらいだ。

通常の競馬のやり方である「有馬記念を当てる」ではなく、感覚的には「自分が有馬記念を勝ちに行く」。この感覚、そして快感こそが、一口馬主の魅力だ。

ただし、一口馬主をやっていれば、馬は繊細な動物だと実感する。

調子が悪いとか、怪我をしたとか、一回の競馬を戦うのには大変な労力がかかっていることだとか、そういった日々の現実とも対峙することになる。

悲しい場面に出会うことも多い。

それすらも魅力と感じられるかどうか。

それが、一口馬主を楽しむ際の条件だと思う。

一口馬主になる方法と注意点

一口馬主になる方法は簡単だ。

各クラブの公式ホームページにアクセスし、カタログを取り寄せる。

カタログは有料のクラブもあるが、今では無料のクラブが多い。

カタログを取り寄せる前に、そのまま公式ホームページで、現在募集中の馬をチェックすることもできるから、そこで決めてしまって、欲しい馬がいればカタログを取り寄せるという手順でもいいだろう。あとは規約をしっかり読んで、入会することになる。

最後にまとめになるが、これは「一口馬主って儲かりますよ」という話ではない。むしろお金の面を考えると、一口馬主は、ほぼ8~9割の人が損をしている。

出資する際は、冷静に考えてほしい。

G1馬が当たる確率はわずか。G1馬とは、「超のつく大当たり」だ。

G1の1着賞金は、1億円くらいのレースが多い。

だが、そのG1馬が、もし、カタログ掲載時に総額1億円での募集だったら、「1億円馬を買って、獲得賞金も1億円、つまりその時点でトントンくらい」という計算になる。

G1を勝つまでの、2年ほどの維持費を引いたら、まだマイナスかもしれない。

個人的には、大当たりがいる可能性もある、3000万円台くらいの馬を一口買って、愛馬の成長を見つめながら、採算度外視で楽しむというやり方がいいと思う。

自分が選んだ愛馬。その人生、いや、馬生に起こる全ての苦楽に、長い時間付き合いながら、負け続けたり、たまに勝ったりして、一緒の時間を過ごす。それが一口ライフだ。

少しだけ、僕が出資していた過去の愛馬のエピソードを紹介して締めたい。

その馬は、待ちに待ったデビュー戦で、4着となった。

健闘だったし、頑張っていた。

しかし、そのレースで脚の怪我をした。

休養に入ると、体は元気、だが脚は痛いという、長いジレンマの日々を過ごした。
とても大きな怪我で、復帰には、10か月の月日を要した。

だが、10か月後、彼は再び競馬場に姿を現したのだ。

2戦目のレースは、一番弱いクラスのレース。一度も勝ったことがない馬たちが出る、未勝利戦。

だが、一部の人の小さな祝福の中、なんとレースに復帰した。

レース後、引き上げてきた彼は、脚を引きずっていた。

彼の競走生活は、そこで幕を閉じた。

そして、それ以降誰にも語られることがなくなった、彼の命もまた、きっと。

その一方で、引退して、クラブと会員の手を離れた後も、地方競馬に移籍して元気に走っている馬もいる。馬の人生模様も、さまざまなのだ。

夜な夜なカタログと睨めっこをし、自分で選んだ1頭に惚れ込めるかどうか。

苦楽を愛せるかどうか。

お金の前に、そんな心の在り方も試される。

一口馬主。それはまるで、人生や、恋愛のストーリーのような、甘くて、苦くて、時に深い、素敵な趣味だ。

 

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いま気になること

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本島修司

北海道生まれ。文筆家。大学在学中から、物を書くこと中心の暮らし。エッセイ、仕事論、競馬論などを中心に執筆。
主な著書に、『自分だけの「ポジション」の築き方』(WAVE出版)、『競馬 勝者のエビデンス』(ガイドワークス)、『この知的推理ゲームを極める。』 『Cafe’ドアーズと秘密のノート』(総和社)など。
■本島修司 公式ホームページ:http://motojimashuji.com/

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