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いま気になること

2019.04.18 更新 ツイート

泣くな外科医長―激務の職場で新人を潰さないマネジメント 中山祐次郎

2月に出版された『泣くな研修医』にて、新米医師のリアルな葛藤と成長を描いた現役外科医の中山祐次郎さん。今回は、過酷な医療の現場において、後輩医師を育てていくうえで大事にしている考え方をお聞きしました。医療業界以外で働く方にも当てはまる、マネジメントへの考え方をご紹介します。

*   *   *

(写真:iStock.com/kokoroyuki)
 

 

医者になって13年になる。

2年の浪人に加え、6年間のカリキュラムである医学部の大学生活を終えて新社会人になったのは、26歳の春のことだった。それから13年経ち、気づけばもう38歳。

三つ目の職場である今の病院では「医長」という不思議な肩書きで呼ばれる。イチョウ。どうやら、専門医の資格を持っていてある一定の医師歴があればイチョウになるらしい。「長」はついているが、部門長ではないしリーダーというわけでもない。別に部下がつくわけではない。

僕は外科医だ。僕ぐらいの学年(医者は職歴の年数についてなぜかこの用語を使う)になるとやっと、一人で診断し一人で治療に当たる。独り立ちだ。

だからといって普段は一人で仕事をしているわけではない。外科医たち7、8人で1グループを作っていて、その中でみんなで仕事をする。メンバーの内訳はというと、60歳近いボスが一人、そして僕のような30歳台中盤以降の中堅が3人、20歳台の若手が3人といった具合である。僕はいわゆる中間管理職だ。

 

医者は勤務時間が長い。僕の場合は、朝7時から夜は19時くらいまではデフォルトで、土日も必ず出勤し2時間ほど働く。そして当直という徹夜勤務が月に一度あり、そのときは38時間くらいぶっ通しの勤務だ。代休はなし。これでも外科医の中ではかなり楽な方だ。

若手外科医になるとさらに病院にいる時間は長い。彼らのメンタルはしばしば壊れる。研修医もまた超長時間を働く。

上長としては、彼ら彼女ら研修医が壊れるような勤務をさせるわけにはいかない。しかし、一定の修行はしてもらわねば技術や知識は身につかない。患者さんを治せない医師を作り上げるのは犯罪行為だ。

そうなると、指導する立場の僕としてはとてもむずかしい。厳しすぎても、ぬるくてもいけない。まるで、辛すぎないけど、ちゃんと辛さがあって誰もが満足するカレーを作れと言われているみたいだ。

おまけに研修医は2、3ヶ月だけ回ってくる。年に4回は新しい人が来る。そういう新人さんに、僕が気をつけていることが二つだけある。

 

一つは、「毎回ちゃんと名前で呼ぶ」ということ。なんだか当たり前のような気がするけれど、少し気を抜くと「研修医」「新人さん」などと呼びかねない。さらに医者の世界にはとんでもなく便利な「先生」という呼び名がある。でも、これだけはいけない。使わない。

仕事もわからず怒られ続け、新しい生活を始めた不安だらけの彼らに、名前を呼ぶことで少しでも尊厳を回復してもらう。当たり前のようで、じつはこれ、意識をしないと忘れてしまう。一人の、家族があって友達がいて、これまで20数年の歴史を持った人間として、相対(あいたい)するということは簡単ではない。

 

もう一つは、その新人さんのフォローは「研修医よりちょこっと先輩の学年の医者」にお願いするということ。つまり自分ではやらないということだ。だって、もう13年目の僕には、1年目、2年目のころの悩みはわからない。いや、百歩譲って知識としてわかったとしても、感じることはできない。感じられなければ、フォローすることなんてできないと思う。

恥ずかしながら、しんどそうな後輩がいたら、寿司屋にでも連れて行って飲み食いさせるくらいしか思いつかないのだ。僕と行ったってスッキリしやしないってのは、僕だって当時はそうだったからわかっている。そもそも「飲みに行けばストレス解消するだろ」が昭和だ。

じつにささやかだが、この二つは大切にしている。

新人さんのフォローは3年目くらいがやるが、その3年目くらいのフォローは、5年目くらいがやる。では5年目のフォローは? ちょっと歳は離れるけど、だいたい僕くらいの人がやる。これを「屋根瓦方式」なんて言ったりする。屋根瓦のように、順々にもたれかかって支えられているのだ。

 

ここまで考えて、ふと立ち止まった。では、僕ら中間管理職のフォローは? 

おや、どうやら誰もいない。先ほどの屋根瓦で考えたら適任者はボスくらいだが、ボスはそもそも鬼のように多忙で、しかも医者的な仕事以外の管理業務(委員会に出たり書類を書いたり)が多い。だから診察でくたびれた僕らのフォローなんてする余裕も、その気もあんまりない。もしあっても、僕が後輩を寿司屋に連れて行くよりもっと「昭和」になるのは、目に見えている。

そういうわけで、僕をフォローしてくれるのは僕だけ。きちんと自分で自分をいたわることにしよう。そうひそかに心に誓った中間管理職、38歳の春であった。

 

中山祐次郎『泣くな研修医』

傷ついた体、救えない命――。 なんでこんなに無力なんだ、俺。 雨野隆治は、地元・鹿児島の大学医学部を卒業して上京したばかりの25歳。 都内総合病院の外科で研修中の新米医師だ。 新米医師の毎日は、何もできず何もわからず、先輩医師や上司からただ怒られるばかり。 だが患者さんは、待ったなしで押し寄せる。 生活保護で認知症の老人、同い年で末期がんの青年、そして交通事故で瀕死の重傷を負った5歳の少年……。 「医者は、患者さんに1日でも長く生きてもらうことが仕事じゃないのか?」 「なんで俺じゃなく、彼が苦しまなきゃいけないんだ?」 新米医師の葛藤と成長を圧倒的リアリティで描く感動の医療ドラマ 現役外科医にしてベストセラー『医者の本音』著者、小説デビュー作! 

 

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中山祐次郎

1980年神奈川県生まれ。鹿児島大学医学部卒。都立駒込病院で研修後、同院大腸外科医師(非常勤)として10年勤務。2017年2月-3月、福島県高野病院院長を務め、その後、福島県郡山市の総合南東北病院外科医長として勤務。資格は消化器外科専門医、内視鏡外科技術認定医(大腸)、外科専門医、感染管理医師、マンモグラフィー読影認定医、がん治療認定医、医師臨床研修指導医。日経ビジネスオンラインやYahoo!ニュース個人など、多数の媒体で連載を持つ。著書に『幸せな死のために一刻も早くあなたにお伝えしたいこと~若き外科医が見つめた「いのち」の現場三百六十五日~』(幻冬舎新書)、『医者の本音』(SB新書)がある。

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