1. Home
  2. 社会・教養
  3. いま気になること
  4. 政治利用と国民管理。禁酒法時代と酷似する...

いま気になること

2021.05.01 更新 ツイート

政治利用と国民管理。禁酒法時代と酷似する酒類提供禁止への違和感 坂口孝則

(写真:iStock.com/Berezka_Klo)

酒への取り締まりが一気に厳しくなった三度目の緊急事態宣言。1920年代にアメリカで実施された禁酒法を思い浮かべた人も多かったかもしれません。「禁酒法時代のアメリカと、今の日本があまりに似ている」ことに危機感を抱くコンサルタントの坂口孝則さんよりご寄稿いただきました。

 

路上で飲む若者はまだ良心的

日本政府は4月25日に緊急事態宣言を発出し、対象は東京・大阪・京都・兵庫で期限は5月11日までの17日間となった。今回は、酒類を提供する飲食店には休業を要請している。それ以外の飲食店には午後8時までの営業短縮を要請した。

あくまで要請ではある。ただ、酒類を提供する多くの飲食店は、休業かあるいは酒類の提供自粛の決定をした。そのいっぽうで、酒類の提供を続ける店が報道されたり、あるいは自粛警察から攻撃されたりしている。

また路上で飲んでいる若者たち(彼らは良心的だ。あえて大人たちに目のつくところで飲んでいる。多数の狡猾な世代は、自宅で知人らと飲んでいるだろう)の存在が報じられた。

緊急事態宣言で飲食店が狙い撃ちのように自粛対象となっていたものの、今回の緊急事態宣言では、さらに酒類の提供まで行政が踏み込んだので反響は大きかった。禁酒法の再来と断じるひとたちもいる。もっとも禁酒法で有名なのは米国で、州単位・連邦政府単位でさまざまな禁酒法や飲酒を厳しくする立法がなされてきた。

米国で行われてきた禁酒法と当時の反応を調べてみると、あまりに現在の日本の状況と類似している。

 

禁酒法時代も酒を飲むために隣の州に移動する人たちがいた

1920年に米国では、いわゆる禁酒法が生まれた。ここで押さえたいのは、酒類を飲むことではなく、製造や販売が禁止されたことだ。個人の自由として、あくまで飲むのを禁じたわけではないが、しかし酒類を販売するのは許さないという、奇妙なものだった。

もしかすると個人が、禁酒法以前に酒類を溜め込んでいるかもしれない。それを飲むのは問題がない。また闇の酒場で、許されない酒を飲んでもよかった。

そもそも1920年代以前に、戦争が多発した時代にあっては戦士の高揚にたいして酒類はむしろ必要物と思われていた。ギリギリの精神状態で戦い続けるのだ。現実を忘れるためにも酒の力は必要悪だった。

その後、第一次世界大戦(1914年―1918年)が勃発したが、ジャズなどの豊かな文化を育んだ1920年代に禁酒法が成立したのは興味深い。

◆ところで全州での禁酒法が成立する前は、各州単位で禁酒を目指すものだった。つまり地方自治の理念に立脚するものだった。しかし、隣の州が禁酒法を有していない場合は、禁酒法の州から非禁酒法の州へ、多くの人流が流れた。現在の日本の状況は、すでに米国では経験済だった。

現在の日本で、酒類の販売がNGであれば酒類をお客が持ち込んでみたら、という大喜利のような議論が交わされている。これも米国で類型を見ることができる。禁酒法下では、会員費を高く取る代わりに、酒類を無料提供する飲食店が見られた。ならびにショーなどの名目で入場料を集め、その代わりに酒類を無料提供する形を取る店もあった。

◆現在、日本で公務員や政治家といった職業人が、メッセージでは飲食を控えようと叫んでいるいっぽうで、自身らの飲食や深酒が報じられている。禁酒法下の米国でも、宗教行事に活用する目的で教会関係者はワイン等の酒類を購入し続けていた

まったく個人的な話だが、10年ほど前、私は米国オハイオ州で開催されたヘビーメタルの音楽フェスに参加したことがある。その少し前に、酔っぱらいが暴動を起こしたとかで、酒類が禁止された。しかしいわゆるラウドミュージック好きには酒好きが多い。

会場のまわりで「こうやったら酒類を持ち込めるはずだ」と作戦会議が行われていた。バッグの端に隠すといったていどのことだ。しかし、笑い話のように、禁酒法下の米国では酒類をバレずに運べるように、ズボンやブーツ、コートに隠し持つ“技術”が考案+情報交換されたようだ。

◆現在の日本では、飲食店が酒類を提供していないか見回り隊が循環している。おなじく禁酒法下の米国でも見回り隊がいた。しかし、米国の国土の大きさにたいしてまったく人員数が少なく無力だった。さらに、巡回者による力量の違いや、ほとんど指導をしなかった例などが散見された。


「政治利用」と「国民管理」の道具として使われた禁酒法

1933年、米国の禁酒法は廃止される。みなさん、もしよければ「Prohibition 1933」と検索いただければ、禁酒法がなくなり、自由に酒を飲めるようになった写真が確認できる。歓喜というか、ほぼ騒乱かのような愉悦が伝わってくる。

ところで、私が米国の禁酒法を取り上げたのは、もうニつの理由がある。これまで書いた内容は、禁酒法によって生じた社会の反応について、現代日本との類似性だった。次に説明したいのは、そもそも法律が生じた背景の類似性だ。

①かつての禁酒法は、きわめて政治利用されていた:禁酒法当時の酒造はほとんどドイツ系が担っていた。彼らの力が強くなり、政治的にも声をあげはじめることにたいする課題意識が当時の政治家たちにあった。

酒税は多くの国で大きな税源になっている。当時もかなりの比率を占めていた。しかし、それを無にしても政治的に特定勢力を廃するために禁酒法があった。

とくに酒造業関係者は、当時の米国で議席を獲得し大きな勢力になりつつあった。それを叩くためにも、資金源たる酒類の売上を抑える必要があった。さらに、酒造業が社会の風紀を乱すと考えている有権者にとっては、酒造業を叩くことが票につながった側面もある。

現在の日本において、飲食店を叩くことが、高齢者からの票につながる、とは断言しにくい。そういうと、お叱りを受けるだろう。しかしながら、政治家は、とくに直接選挙制度の地方自治体の長であれば、選挙投票率の高い年齢層を考えるのは当然である、とは思う。

私は、さすがに地方自治体のリーダーが政治利用のために緊急事態宣言と禁酒を利用しているとまではいわない。しかし、科学的根拠うんぬんの前に、とにかく世論に迎合したいという意図は強く感じる

②かつての禁酒法は、国民教育のために使われていた:米国民はいつも酔っていたら生産効率が落ちてしまう。(当時は多くが製造業従業者だったが)週末に酔いつぶれて月曜日に出社すれば、その生産効率が低下する。企業経営者としても従業員が酔うのはふさわしくない。国家全体としてもそうだ。そうやって、禁酒法は政治家と経営サイド双方から、国民管理の観点から導入された。

さらに酒を買うお金などはもったいなく、その分を預貯金にまわし、節制を実践することこそがふさわしいとされた。本来は、節度を持って飲酒を楽しんでいた層が大半だったのに、全面的に飲酒を停止させられた。

現在の日本では、飛沫対策ができている飲食店も、できていない飲食店もすべて営業の自粛を半ば強制されている。これは私権を制限したうえで、中途半端な飲酒の自由を国民に認めず、国民のことは信じられないからと飲酒を避け無差別に止める行為と近い。ここには、大衆は馬鹿である、と為政者が国民に対して思う気持ちが投影されている

ところで、そのような為政者の考えに、多くの米国民が賛同していたのも事実だ。しかし米国では当時、1929年の大恐慌が起き、むしろ消費がさかんなほうが米国経済には良いと意識が変わってきた。さらに、酒造業や酒類提供業がいたほうが雇用も保つことができる。酒税も得られる。結局は国民の自由に任せたほうがよかった。

政治利用と国民管理。この二つがあまりに現代日本と類似するので、かつての米国における禁酒法を紹介したかった。過去の禁酒法は、酒というものを禁止して国民の健康を守りたいという大義名分を有していた。それは完全に嘘ではなかったに違いない。しかし、同時に政治的な側面をもち、さらに国民管理の側面も有していた。

現代の日本に話を戻せば、居酒屋で一人飲んだり、ラーメン屋で一人ビールを傾けたりしても、感染リスクは極めて少ないのではないか。だからこそ、高齢者向けの政治案件として飲食店の抑圧が使われると思うことは、むしろ正しい理解に思われる。

理論の破綻した飲食店への自粛要請は未来へも悪影響

私は不思議なのだが、ひごろ人権を叫ぶリベラルや弁護士たちが、コロナ禍における酒類禁止については、例外を除いて反対表明をしていないことだ。営業の自由があるので、せめて自粛“要請”中は自己に判断に任せる姿勢が必要ではないだろうか。

さらに命令に変わった際にも、科学的なエビデンスを求め、さらには休業をする場合であっても補償を売上規模など公平な条件で設定するようなスキームは強く要求するべきだろう。

現在、飲食店は大小、ならびに感染症対策の有無に関わらず十把一絡げにされている。しかし、飲食店でコロナ感染があるというとき、どのような店舗で広がったのか。東京都や大阪府が、ついさっきまで勧めていた感染症対策対応店舗ではダメなのか。そのほとんどがわからないまま、とにかく飲食店は休業、となった。

おそらく、これは子供世代の教育に悪影響を及ぼすだろう。きっと子供がいる家庭であれば行政が科学的な根拠なく施策を進めることについて、明確に伝えてあげられないはずだからだ。

「ゴールデンウィークに百貨店は閉まっちゃうんだよ」
「え、なんで? そこでコロナ流行ったの?」
「いや、そこに行ったついでに、飲食店に寄るからダメみたい」
「でも、そこで家族で食事するんだから、家と一緒じゃない?」
「とにかくダメみたいだよ」
「そもそも、吉野家とかラーメンの一蘭で感染するの?」
「うるせー。俺に訊くな」

といった光景が日本中で繰り広げられているに違いない。たぶん、若い世代で、現在の日本を見ていれば、将来の夢は飲食店経営と語る子どもたちは激減しただろう。店舗経営と語る子どもたちも少なくなったに違いない。ITばかりになるのか。それは多様性を標榜する日本にとっては良いことだろうか。

ある人が語っていた。「今回、コロナ禍で良かったのは、無邪気に日本はいい国と信じていた人も日本がヤバイって気づいたことですね」。

かつての禁酒法と同じ轍を踏まず、理論的根拠に基づいた政策を期待したいと私は思う。

<参考文献>
禁酒法と民主主義」(板倉聖宣・著、 仮説社)
禁酒法」(岡本勝・著、講談社)
アメリカ1920年代」(英米文化学会・編、君塚淳一・監修、金星堂)

{ この記事をシェアする }

コメント

石井英則@LA VIE EN ROSE  政治利用と国民管理。禁酒法時代と酷似する酒類提供禁止への違和感|いま気になること|坂口孝則 - 幻冬舎plus https://t.co/55j8ARlaLI 4時間前 replyretweetfavorite

遠山敏之  政治利用と国民管理。禁酒法時代と酷似する酒類提供禁止への違和感|いま気になること|坂口孝則 - 幻冬舎plus https://t.co/6jYiOheVtC 2日前 replyretweetfavorite

ホモ酒場🚹WORDUPBAR🚹  政治利用と国民管理。禁酒法時代と酷似する酒類提供禁止への違和感|いま気になること #SmartNews https://t.co/ZkCP4M4uOP 2日前 replyretweetfavorite

まそさん  政治利用と国民管理。禁酒法時代と酷似する酒類提供禁止への違和感|いま気になること|坂口孝則 - 幻冬舎plus https://t.co/fC7BUfMMJC 2日前 replyretweetfavorite

m.k るーしー  政治利用と国民管理。禁酒法時代と酷似する酒類提供禁止への違和感|いま気になること https://t.co/f3gDdkYwex #スマートニュース 3日前 replyretweetfavorite

いま気になること

各界の最前線でアンテナを張り、独自の視点で切り込んで新たな形で発信する仕事師たちに聞く「いま気になること」。胎動する“何か”が見つかる!

バックナンバー

坂口孝則

調達・購買コンサルタント、未来調達研究所株式会社取締役、講演家。2001年、大阪大学経済学部卒業後、電機メーカー、自動車メーカーに勤務。原価企画、調達・購買、資材部門に従業。製造業を中心としたコンサルティングを行う。著書に『牛丼一杯の儲けは9円』『営業と詐欺のあいだ』『1円家電のカラクリ 0円iPhoneの正体』『仕事の速い人は150字で資料を作り3分でプレゼンする。』『稼ぐ人は思い込みを捨てる。』(小社刊)などがある。

この記事を読んだ人へのおすすめ

幻冬舎plusでできること

  • 日々更新する多彩な連載が読める!

    日々更新する
    多彩な連載が読める!

  • 専用アプリなしで電子書籍が読める!

    専用アプリなしで
    電子書籍が読める!

  • おトクなポイントが貯まる・使える!

    おトクなポイントが
    貯まる・使える!

  • 会員限定イベントに参加できる!

    会員限定イベントに
    参加できる!

  • プレゼント抽選に応募できる!

    プレゼント抽選に
    応募できる!

無料!
会員登録はこちらから
無料会員特典について詳しくはこちら
PAGETOP