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2022.10.12 更新 ツイート

借金800万円になるまで妻を追い詰めた“口うるさい夫”が「熟年離婚」過去最多のニュースで辿りついた反省 富岡悠希

8月末、厚生労働省は、20年以上同居した「熟年離婚」が21.5%と、割合が過去最高となったと発表。「3組に1組が離婚する」といわれるように、夫婦でいることが難しい時代だ。『妻が怖くて仕方ない』(ポプラ新書)を上梓したばかりの富岡悠希さんも、妻との関係にあがく当事者の一人。離婚に至らずとも問題を抱えるリアルな例としてご寄稿いただきました。

(写真:iStock.com/Elena Kutuzova)
 

熟年離婚の増加は何を意味するのか?

「最後のお別れになるので、おじいちゃんの顔を見てもらっていいかしらね」

今年8月末、僕は妻・美和と隣家の2階に置かれた棺の前にいた。富岡一家は約10年前から、地域交流がしっかり残っている都内某所に居を構える。引っ越して以来、こちらの渡辺さん(仮名)の老夫婦には、お世話になってきた。

15分ほど前、少年野球の練習から帰ってきた息子(小4)から、夫の正一さんが亡くなったと聞いた。ほんの数日前、我が家の前を散歩していた記憶が甦る。日曜の午後、慌てて夫婦で伺った。

正一さんより少し年下の妻・政子さんがかけたのが、冒頭の言葉だ。政子さんが白布をめくると、正一さんの顔はまさに眠っているかのよう。92歳の大往生だった。

「ここ数日、食事を取れなくてね。食べないとダメね。体が弱ってしまって」

そう言いながら、政子さんは正一さんの髪をなでる。その様子からは半世紀を優に超えて連れ添った夫を心底、愛しんでいることが伝わってきた。政子さんの目元は、少しうるんでいた。

皆さんは、老夫婦のこうした別れに出くわしたことはあるだろうか? リアルでなくとも、テレビドラマや映画などでは見たことはないだろうか。

拙著『妻が怖くて仕方ない』の取材で、示現寺(神奈川県藤沢市)の鈴木泰堂住職を訪問した。プロ野球で活躍した清原和博さんを支えたこともあるカリスマ住職は、学識も優れている。

話の中で、夫婦に関する故事成語がいくつか出てきた。その一つが、「偕老同穴(かいろう・どうけつ)」。「共に暮らして老い、同じ墓穴に入ること」で、「夫婦の契りの堅いこと」を意味する。

渡辺さんご夫婦はこの言葉通りだったと、今、改めて思いを強くしている。

しかし、これからはこんな老夫婦の姿を見ることは少なくなっていくのかもしれない。

厚生労働省は8月下旬、2022年度「離婚に関する統計」を発表した。それによると、2020年に離婚した夫婦のうち、20年間以上同居した後の「熟年離婚」の割合が過去最高になった。

具体的な割合は、21.5%。同居期間「5年未満」の離婚が、この10年ほどで緩やかに割合を減らす一方、熟年離婚は増加傾向にある。

実数も見てみよう。20年の離婚件数は19万3253組で、02年の28万9836組のピークから漸減傾向だ。他方、例えば同居期間「35年以上」の離婚は、02年の4619組から20年は6108組と増えた。

妻を買い物依存症に追い詰める夫の性格

この「熟年離婚が過去最多」のニュースは、僕の心をざわつかせた。

「離婚に関する統計」は、同居期間を5年単位で区切っている。11年に結婚した富岡夫婦は「10~15年」のカテゴリーに入る。一つ先の「15~20年」を超えると、もう同居20年以上だ。危機にさらされている「熟年組」に突入となる。

『妻が怖くて仕方ない』では、僕ら夫婦のすったもんだを赤裸々に記した。その一つが、19年5月に発覚した妻の借金問題だ。家事・育児のストレスから「買い物依存症みたい」になり、彼女は複数のクレジットカードで1千万円超を使い込む。弁護士を立てて任意整理をしたものの、800万円の返済を残す。僕のクレカを使ったことからバレたが、最終的には僕が補填した。

家事・育児ストレスがあったとは言え、800万円の借金はあまりに多額だ。再発防止の為にも、妻には「ストレス」だけで終わらせず、当時の精神状態を掘り下げて欲しかった。しかし、彼女は「終わったことでしょ」「悠希さんが払ってくれたのだから、それでいい」と逃げた。

著書内で対談した国際政治学者の三浦瑠麗さんとも、この借金問題をテーマの一つとした。その際、三浦さんは「買い物依存症」は「自己決定権を行使するための一番安易なやり方」と説明。さらに妻に対する僕の態度全般を「結構マイクロマネジメント」と指摘した。

通常、この用語は組織内で使う。部下の行動を逐一チェックして、細かく指示出しをする上司を指す。

対談の時、僕は三浦さんに「ものすごくマイクロマネジメント」と呼応している。妻に対して、うるさい夫との自覚はある。

僕がマイクロマネジメントのままでは、妻は自己決定権を確かに持ちにくい。自己決定権を求めて、再度、買い物依存症になられては、我が家は確実に破綻する。

ならば今度は僕が、「脱マイクロマネジメント」を果たすため、そうなった背景を掘り下げる必要がある。

考えを深めると、性格、育ってきた家庭環境、思考の癖の三つに思い当たった。

あれこれとマメな性格が、こと妻には響かない。我が家の洗濯と掃除は、僕が8割を担っている。本日も2回、洗濯機を回した。部屋の掃除に加えて、妻がまずやることがない、玄関の掃除もした。

「あれこれやってくれて助かる」と考える配偶者とだと、相性がいいのだろう。しかし、現実の妻は「自分ができていない家事の粗探しをしている」と考えがちだ。そして、育児だけで手いっぱいなのに、「私もやらないと」と自分を追い込む。

結果的に仕事をどんどん処理する上司が、部下にプレッシャーを与えている構図に近くなっている。

家庭環境でいえば、実の父(73)が似たようなタイプだ。幼少期、「同じ席の人が不快になるから、クチャクチャ食べるな」「食べこぼしが増えるから、食事中はテレビを消しなさい」などと、しつけに関する注意を受けてきた。

ジャーナリストは会食の機会が多い。そうした際、僕が最低限のマナーを守れているのは、父親のお陰だと感謝している。

しかし、妻はテレビをつけながらの「ながら食べ」OK派だ。「クチャクチャ」に関しては彼女の弟が該当するほか、我が長女(小2)も癖になりつつある。

父の背中をみて育った僕は、当然、妻にも子どもたちにも注意する。しかし、妻には将来に向けた改善提案ではなく、単なる小言としか響かない。

思考の癖では、僕が「家族を引っ張っていかねば」という呪縛から自由になっていないことが該当する。「男らしさ」のくびきから、逃れられていない。

僕が成長過程にあった1980年代、社会は男性に「男らしさ」を求めていた。多くの男性がバリバリ働いて稼いでくる、「大黒柱」だった。

今は共働き夫婦が一般的になったため、家庭は「二本柱」が支える。妻が僕よりも、10歳年下ということも無意識に関係してくるのだろう。

僕はどうも肩肘を張り過ぎて、妻と自然と向き合えてこなかった。

こう整理すると、導きだされる結論は次のようになる。

家事などへのマメさはほどほどにして、妻へのプレッシャーにならない範囲でやめる。父には感謝しつつ、同じように我が家で振舞うのがベストだとは考えない。惚れて一緒になった妻を信じ、任せるところは任せて、「ツインタワー」として荷を下ろしてみる。

こう変わることが、バージョンアップなのかダウングレードなのかは、正直分からない。しかし、今のままではダメなのは明白だ。

熟年離婚の増加を、僕は「変われない夫たち」への警鐘と捉える。

熟年離婚を回避して、偕老同穴を目指すならば、僕らは今、変わるしかない。

富岡悠希『妻が怖くて仕方ない』

「あんたのことは人として認めない」……僕にそう宣言する妻の借金800万円が発覚したのはふとしたきっかけだった。金銭感覚、子どもの教育方針、そしてコミュニケーションのあり方……。惹かれ合って結婚したふたりの溝はどのように修復できるのか。専門家への丹念な取材を通して、現代夫婦の在り方に迫る。

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富岡悠希 ジャーナリスト、ライター

1970年代、関東生まれのポスト団塊ジュニア。大学卒業後、就職氷河期時代に某報道機関に入社。記者として社会、経済、国際分野などを約20年多方面に取材する。その後、ネットメディアに執筆の主舞台を移し、雑誌のライター業も。夫婦や家族のほか、貧困、ネットの誹謗中傷問題などにも関心を寄せている。「一筆入魂」をモットーとして、目線の低い取材を心がけている。

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