1. Home
  2. 社会・教養
  3. いま気になること
  4. 夫の役割がわからない……高学歴なのに未成...

いま気になること

2019.11.11 更新 ツイート

夫の役割がわからない……高学歴なのに未成熟な男たちの離婚の理由稲田豊史

3組に1組は離婚する時代。しかし、細かい離婚の顛末は案外知らないし、男性側からの言い分を聞く機会は少ないのではないだろうか。『ぼくたちの離婚』を上梓したばかりの稲田豊史さんに男性の離婚事情をご寄稿いただきました。
 

*   *   *

「離婚の原因」と聞いて、何を思い浮かべるだろうか。平成29年度司法統計によると、男女ともに原因の1位は「性格が合わない」だが、ざっくりしすぎていて、よくわからない。ちなみに、男の2位は「(妻が)精神的に虐待する」、女の2位は「生活費を渡さない」である。

筆者はここ1年半ほど、離婚した男性へのインタビューを行っている。ルポ連載用の取材だが、実際には企画を構想した4年ほど前から離婚話を意識的に収集しはじめた。そんな彼らの離婚原因で特に目についたのが、「男が夫という役割を担えない未熟さ」だ。

なお企画の性質上、離婚男性のサンプルは偏っている。簡潔に言えば「東京圏在住の30代後半〜40代で、知的職業に従事する、比較的高偏差値・高学歴の男性」だ。

「守ってあげたい」がわからない夫

10年前、31歳の時に離婚した田中元基さん(仮名、41歳)は、「相手を“守ってあげたい”という気持ちがまるでわからない」という。「元妻の里美(仮名)は僕に、夫として、未来の父親として、家長としての立ち居振る舞いを求めていましたが、応(こた)えてやれませんでした」
 
では、なぜ結婚したのかと聞くと、こんな答えが。「里美は僕よりずっと学歴が低くて、職種もごく普通の事務職。キャリアへのこだわりもない。誰かと結婚して子供を作ってお母さんになって生きていく以外にプランがないように見えました。僕はそんな彼女のことを哀れんでいて、かわいそうな存在だと思ったんです。だから7年も付き合ったあげく放り出したら、この人は生きていけなくなるだろうと不安になり、結婚しました」

田中さんは4年前に5歳年上の女性と再婚しているが、その理由は「金銭的にも精神的にも支える必要がないから」。再婚相手の収入は田中さんより上だそうで、ふたりの間に子供はない。

 

家族が得意じゃない夫

橋本亮太さん(仮名、39歳)の場合、結婚願望も子供願望も皆無だったが、大学時代から8年付き合った2歳年上の優子さん(仮名)を「30歳手前で放り出すなんて、さすがにひどいなと思って」結婚。優子さんの望みに応じて子供も作るが、「いくら子供の顔を見ても、前向きな責任感や沸き立つような愛情が生まれてこなかった」という。

橋本さんが小さい頃、両親は不仲で、父親は外に女を作っていたが、母親は黙って我慢していた。それを目の当たりにしていた橋本さんは、「無理に結婚を続けても、いいことなんてひとつもない」と胸に刻みつけた。

また、橋本さんは中高一貫校の寮生活時代に人間関係の軋轢で悩み、人間不信になってしまう。そして18歳にして、「他人と交わった気になっても、本当に交わることなんてできない。人は結局ひとり」と悟ったそうだ。

橋本さんに離婚の理由を聞くと、「家族が得意じゃないから」と即答。「“ささやかな日々の幸せ”とか“家族と一緒にいて、なにげない時に幸せを噛みしめる”みたいな感覚が、わからない」と、終始繰り返していた。

赤ちゃんが壊れそうで抱っこできない夫

吉村健一さん(仮名、38歳)は、「たまに人からアスペ(アスペルガー症候群)っぽいって言われるんです」と自己紹介した。「理論的なアドバイスをして嫌がられる」「意味もなく相槌を打つのが苦痛」「論理的じゃないことが耐えがたい」という。

一流大学を出て大学院にまで進学した吉村さんは、学生演劇に没頭し、一時は芸能事務所にまで所属してTVドラマの端役などを得る。が、売れることなく役者を諦めて就職。大学時代から付き合っていた奈美さん(仮名)と結婚した。吉村さん自身に結婚願望はゼロだったが、「長く付き合っていて情が湧いたから」結婚を承諾したそうだ。

しかし奈美さんが妊娠した頃から、吉村さんは「もう一度役者をやりたい」という気持ちが抑えきれなくなる。結局、仕事と二足のわらじで舞台に立つが、家庭はないがしろに。産前産後の奈美さんのケアも、子供の世話も、一切やらなかった。

そればかりか、吉村さんは生まれた子供を抱っこできなかったそうだ。理由は「赤ちゃんが壊れそうだから」。やがて別居し、離婚した。

“男をこじらせて”離婚

以上のケースを読んで、どんな感想を持つだろうか。30歳、40歳にもなった男の人間的未熟に呆れるだろうか? ただ、このように“男をこじらせて”離婚するケースは、それほど珍しいものではない。

元来争い事を好まず、優しい気質の高偏差値な文化系男子たる彼らは、女性に強く出ることも、女性に自分の主張を押し付けることもない。だからこそ、その“優しさ”によって、女性の希望を叶えるべく、結婚願望がなくても結婚し、子作り願望がなくても子供を作ってしまう。女性からの過度な依存も――時にモラハラすら――受け入れてしまう。

しかし、彼らはさまざまな意味で未熟だ。「守ってあげたい」がわからず、「家族が得意じゃない」と言い放ち、父親になっても自己実現を捨てきれず、「壊れそうだから」赤ちゃんを抱っこできないほどに。彼らは人一倍繊細で、器が小さい。だから、一旦はパートナーの要望を受け入れたはいいが、すぐにつらくなる。キャパオーバーなのだ。

妻のモラハラに5年も我慢した夫

最後に、妻からの5年間にもわたるひどいモラハラに苦しめられ、最終的には心療内科に通う羽目になった河村仁さん(仮名、43歳)の事例を紹介したい。

河村さんの妻は異常な情緒不安定で、ちょっとしたことでも気分を害し、手がつけられないほど荒れる人だった。夜通し人格を否定されたり、土下座を求められることもしばしば。束縛もひどく、5年間の結婚生活中、河村さんが週末に友人と会えたのは、冠婚葬祭を除けば5回もなかったそうだ。なお、ふたりの間に子供はいない。

彼に「なぜ5年間も我慢していたのか」と聞いたところ、「プライド」という答えが返ってきた。文化系男子の権化、マッチョイズムのマの字も見えない草食系な見た目の河村さんだが、言い分はこうだ。

「家庭内の悩みを外に言うのは恥ずかしいことだと思っていました。それくらい黙っててめえで解決するのが男だ、ここらで男の度量を見せやがれ、みたいな。世代なのかもしれません。僕の親は昭和的価値観にどっぷりの団塊世代ですから、家庭とは男親がドーンと構え、愚痴ひとつ言わずすべてを飲み込む。そういうものだという認識を、小さい頃から刷り込まれていたんです」

実力がないのに「理想の家族像」を追い求めた夫の末路

妻のモラハラに対してすぐに匙を投げなかった夫のケースは、河村さん以外にも複数聞いた。皆、3、40代の柔和で優しそうな文化系男子である。なぜ彼らは我慢してしまうのか。理由はふたつある。

ひとつは、両親を夫婦のロールモデルとして育っているから。彼らの両親世代が作り上げた「昭和的な理想の家族像」では、離婚や家庭内別居は忌むべきご法度。離婚は落伍者がするもの。“家長”たるもの、鉄の意志をもって家庭を堅持すべし。彼らにはその考え方が、まるで呪縛のように刷り込まれている。

もうひとつは、生真面目で偏差値の高い優等生だから。彼らは「夫婦を円満にキープできないのは、自分のがんばりが足りないからだ」と口をそろえる。それまでの人生、たゆまぬ努力によって受験戦争も就職戦線も社内競争も勝ち残ってきた彼らにとって、結果が出ないのは「努力が足りないから」でしかない。しかし、夫婦関係は受験や就職と違って「相手」がいる。自分だけが頑張ったところで、どうにもならない。

少年の心をひきずる器の小さい未成熟おじさんが、己の実力不足を棚に上げて、旧来的な理想の家族像を追い求めたはいいが、結局は音を上げてしまい、破綻する。それこそが、「東京圏在住の30代後半〜40代で、知的職業に従事する、比較的高偏差値・高学歴の男性」が直面する、意外と典型的な離婚のかたちなのかもしれない。

イベントのお知らせ

11月21日(木)20時〜、下北沢B&Bで開催される稲田豊史さんの新刊『ぼくたちの離婚』刊行記念に、幻冬舎plus連載でもおなじみの宮崎智之さんが登壇します。タイトルは「ぼくたちは『いい夫婦の日』をどんなメンタルで迎えればよいのか」。詳細、申し込みは下北沢B&Bのサイトからどうぞ。

関連キーワード

{ この記事をシェアする }

いま気になること

各界の最前線でアンテナを張り、独自の視点で切り込んで新たな形で発信する仕事師たちに聞く「いま気になること」。胎動する“何か”が見つかる!

バックナンバー

稲田豊史

1974年、愛知県生まれ。編集者、ライター。映画配給会社に入社後、キネマ旬報社でDVD業界誌編集長、書籍編集者を経て2013年よりフリーランス。著書は『セーラームーン世代の社会論』(すばる舎リンケージ)、『ドラがたり のび太系男子と藤子・F・不二雄の時代』、『ぼくたちの離婚』(角川新書)。編集担当書籍は『押井言論 2012-2015』(押井守・著/サイゾー)、『ヤンキーマンガガイドブック』(DU BOOKS)、『団地団 ~ベランダから見渡す映画論~』(大山顕、佐藤大、速水健朗・著/キネマ旬報社)、『全方位型お笑いマガジン「コメ旬」』(ラリー遠田・責任編集/キネマ旬報社)など。「サイゾー」「SPA!」等で執筆中。

この記事を読んだ人へのおすすめ

幻冬舎plusでできること

  • 日々更新する多彩な連載が読める!

    日々更新する
    多彩な連載が読める!

  • 専用アプリなしで電子書籍が読める!

    専用アプリなしで
    電子書籍が読める!

  • おトクなポイントが貯まる・使える!

    おトクなポイントが
    貯まる・使える!

  • 会員限定イベントに参加できる!

    会員限定イベントに
    参加できる!

  • プレゼント抽選に応募できる!

    プレゼント抽選に
    応募できる!

無料!
会員登録はこちらから
無料会員特典について詳しくはこちら
PAGETOP