パリ五輪　サッカーヤシキケンジ

オリンピック開催期間中は、人と会うと挨拶がわりに「あの競技見た？」「見たみた。あれ惜しかったよね」なんていう会話を交わすのが常だったりする。

私のようにサッカーしか興味がないというのもいれば、バスケバレー柔道に卓球と、そのときに放送してるのはほとんど見ているような人もいて、暇なんだろうかとすこし疑ってしまう。

しかし、オリンピックに微塵も興味がないという人がいるのも事実だ。

その人になにか競技を見ましたか、と話を振ると「なにも見ていないし、見る気もない」らしい。

なんなら普段の生活で、テレビでスポーツニュースが流れるだけでも嫌ですぐにチャンネルを変えるかテレビを消してしまうほどらしい。

試しに、自分が知っている日本人選手の名前を知っているかと訊いてみた。

「八村塁は知ってます？」「知らないです」

「じゃあ阿部兄妹は？」「知りません」

「何の競技の選手かも知らない？」「まったく分かりません」

「じゃあ大谷は知ってる？　ほらこれ」とオリンピックとは関係のない大谷翔平の画像まで出して見せてみた。

「あ、これは知ってます。CMに出てる人ですね。野球選手ということはわかります。バット持ってるから」

その人の過去になにかスポーツ的なトラウマがあったとしか思えないほどの忌み嫌い様には、どんなアスリートの眩いプレーも功績もまったく視界に入っていないようで、清々しさすら覚えてしまうほどだった。

ちなみにその人は、スポーツの祭典にはまるで興味がないようだがお祭りには興味があるらしい。

「べつに浴衣とか着るわけじゃないんですけど、盆踊りを見るのは好きなんです。なんか踊りしながら矢倉のまわりをぐるぐる回っている人たちを見ると泣けてきちゃうというか、感動しちゃうんです」

そう言いながら脳内で盆踊りが再生されているのか、じわりと目を潤ませていた。

 

 

8月に入りオリンピックも半ばを迎えた頃、グループリーグ無失点の3連勝という好成績で決勝トーナメントに進んだ日本代表は、ベスト8でまたしてもスペインに敗れてしまった。

VARで取り消されたゴール、与えられなかったPK、ポストに嫌われた2つのヘディングシュート、そして判定が不可解な審判。

この日の日本は持っていなかった、としかいいようがなかった。

惜しい場面もいくつかあったが、悔しいかな実力で上回られていたのも事実。

 

「選手の成長があるからこういう難しい状況になった反面、嬉しくも思うし、日本サッカーの正しい成長なんだろうなとも思っている。我々に求められているハードルも上がってきている」

オリンピック代表メンバー発表の場でOA（オーバーエイジ）がゼロだったことについて山本昌邦ナショナルチームダイレクターはそんなことを言っていた。

「がんばって交渉してみたけど誰一人呼べませんでした」と言ってるようにしか聞こえなかった。

OAを呼べなかっただけでなく、久保やその他新天地に移籍するからという理由で招集できなかった23歳以下の選手が何人もいた事実。

本来、そういう「呼びたいけど事情があって来れない選手がいるからOAを使って補う」のではないのか。

今回、OA（オーバーエイジ）が行使されなかったというのが、喉に引っかかった小骨のように開催前からずっともどかしかった。

OAで誰を呼ぶのかというのも、オリンピックサッカーの楽しみのひとつだったのに、その楽しみを奪われたような気持ちになっていた。

それに日本だけOAを使っていない（呼べなかった）というのも不可解な現象である。

フランスやアルゼンチンやスペインなどの強国も有力な選手をOAとして招集しているというのに、どうして日本だけが呼べなかったのか。

噂に挙がっていた、冨安や遠藤などのビッグクラブ所属の選手はクラブが承認してくれないというのなら、他にも誰かいただろうよ、と思わずにはいられない。

「これまで予選を戦ってきたメンバーで一丸となって本大会に臨んでもらうべく、OAは行使しないことに決めた」とハッキリ言うのならまだ納得もできたのに。

もうそのあたりから不完全燃焼なまま、早々とオリンピック（男子サッカー）が終わってしまい、まだこんなうだるような暑さのなか、森山直太朗の「夏の終わり」の幻聴が聴こえてくる切ない夏。

9月からワールドカップ最終予選がはじまるというので、残夏は気持ちを切り替える準備期間だと思いながら過ごすしかないのだろう。