
日本のグループリーグ突破で歓喜していたが、興奮も冷めやらぬ間に日本が決勝トーナメントで敗退してからは、いろいろと荒む。
酒を残したグラスは数日放置。自炊する気力など湧くはずもなく、食べるものは店屋物が増えるばかり。
Uber Eatsを頼んでも、心が荒んでいるのでノーチップでフィニッシュ。
それから、肌も荒れてくる。
日本が負けたストレスからくるものなのか、ただ単に昼夜逆転と食生活の乱れが続くせいか、とにかく吹き出物が増えるばかり。
このまま家にこもっていてはいけないと思い、とりあえず外に出て、人と会ってみる。
会うだいたいの人がワールドカップの話をするのだが、まれに「ワールドカップなんて見てない。なんか日本負けたらしいね」という人にも出くわす。
しかもその人は、ずいぶんと真面目な顔で「ワールドカップが始まるまで、メッシとかネイマールって、タヒチとかシンガポールみたいなどこか国の名前だと思ってた」と言い放った。
一緒にいた人たちからは、嘘でしょ? と言われていたが、いくらなんでもそれはないだろうと苦笑いしていたが、どうやら本当に知らなかったらしい。
ちなみにそう言い放った人物の友人曰く「この人とこの前ドトールに行ったときにさ、アイスコーヒーのホットくださいって言うの。どっちなのよって聞いたらさ、アイスティーって言葉がひとつの単語だと思ってた、って言ってたよ」らしい。
そんな相手に向かって私は、インタビューを受けている三笘のような憎々しい目つきでガンをとばす。と同時に、その場でまったくサッカーの話題が出ないことで、日頃連戦続きで興奮気味の心が、ゆるく解れていくような気にもなる。
これが普通なのだ、と。
いや、その人はなんならちょっとどうかしてるとも思うが、ワールドカップだからって、なんでもかんでもサッカーサッカー言ってる方が異常なのだ。祭りが催されているからといって、みんなが参加したいわけじゃあない。興味のない人の方が圧倒的に多いという当たり前のことを忘れていた。
ワールドカップに興味がない人と会うことで、すこしだけ心の平穏を取り戻す。
それにしても、どこの国の選手も試合中に誰かれ唾を吐いていた。
サッカー選手にとってピッチは神聖な場所であるはずなのに、唾を吐くというのが、いまいちよく理解できない。まあ、口の中が不快なんだろうけれど。
あれだけぺっぺと吐いているのだから、転んだ選手に誰かの唾が付着したり、下手すると顔に……なんてこともあるはずだが、そこらへんは気にならないのだろうか。
それにしても、映される試合会場でマスクをしている人など、ほとんど見かけなかった気がする。
マスクをせずにあれだけ大きな声ではしゃいでいる外国人サポーターの姿を見ていると、もはやコロナなど気にしていないようで(ワクチン接種しているのだろうか?)、あんなに人が集まっているワールドカップ期間中に蔓延したというニュースも聞かなかったのは何とも不思議であった。
大会前の日本代表への期待は相当低かった。
それを見事にひっくり返した森保監督。本番まで隠していた秘策の数々には驚かされた。
あのドイツ、スペインを相手に後半から撃ち合いを仕掛け、逆転したらすぐ防御一辺倒でやり過ごすという、老獪とも呼べる戦い方でグループリーグを1位突破したりと、「滅多に見れない素晴らしい景色」が見れた。
1ミリのVARアシストを超える日本代表の名場面は、今後5年、いや10年はないのではないだろうというくらいの劇的ですらあった。
こんなにも強かった日本代表は、なかなかなかったのではないだろうか。過去最強と言っても言い過ぎではないだろう。
日本代表はベスト8に及ばず「新しい景色」は見れなかったのは無念としか言いようがない。
「よくがんばった」「お疲れさま」とか、そんな労いの言葉よりも、「面白いものを見せてもらえて興奮した」と思う。
それを一言で表すとやはり「ブラボー」になるのだろう。
日本が姿を消してからのベスト8以上の戦いを見ていると、どこも熾烈な戦いばかり。
こう言ってはなんだが、日本はベスト8を目指してるんですよ、という目標がヌルく感じさせられてしまうような、ちょっとこれまでとは雰囲気がちがうぞ、という試合ばかりが繰り広げられていた。
「アルゼンチン、ブラジル、フランス、イングランド。そこに日本がポンと入るのは『まだ早ぇから』って言われているような気がした」
ブラジルに弄ばれた韓国戦を見た内田篤人はそう言っていた。
日本がクロアチアに敗れたあと、解説の岡田武史が「まだか、我々にはまだ足りないのか……」としぼり出すような声を出していたのが耳に残っている。
ベスト8からの戦いを見ていると、日本にはまだ熱量が足りないのかも知れない、とも思った。
カタールに押し寄せていたアルゼンチンサポーターは、「彼女とも別れ、仕事も辞めて、貯金も底を尽き、借金をして応援しにやってきた」というサポーターや、「アルゼンチンが決勝まで残ったので滞在費がかかり、帰る飛行機代もなくなってしまったが、応援する」というサポーターもいた。
そんな尋常ではない熱量で応援に来ている無謀な人を応援したい。
のんべんだらりと平和に送る日々よりも、生活を犠牲にしてまで熱量を注ぎこめるものがある人生の方が美しいのではないだろうか。
美しいとは思うが、一体どうやって帰国するのだろうか。とても気になる。
まさに「死闘」という言葉が当てはまるような濃厚な決勝戦。
ここぞというときにきっちり得点を挙げるメッシやエムバペのスター性もさることながら、決勝戦を含めた6試合も戦ってきた彼らの体力は一体どうなっているのだろうか。
残念ながらわずか4試合で大会を去ることになった日本の選手たちにも、なにはともあれハードワークするための体力をもっとつけないと、思い知らされたことだろう。
タレント性や監督の手腕をふるった戦術合戦、メッシに勝たせてあげたいというアルゼンチンの気迫と、そのメッシを超えようとしているのではないかというエムバペの怪物ぶり。
これぞ決勝戦、という本義をはじめて堪能したのである。
優勝後、アルゼンチンで凱旋パレード中に、選手たちを乗せたバスに橋の上から飛び降りるファンたちがいたが、見事にタイミングを外してバスの屋根から落ちていた人もいて、タイミングは大事なのだと考えさせられた。
ワールドカップが終わってしまったいま、これからなにを楽しみに生きていけば良いかと路頭に迷ってしまっている。
ワールドカップロスとか、そんな簡単な言葉では片付けられないほど著しく喪失してしまっているのは間違いない。
次のワールドカップまであと4年。ぼんやりと待つには長すぎる時間だ。
そんな虚無な時間を過ごしてしまうくらいなら、ここはひとつ、情熱あふれるアルゼンチンサポーターを見習うべきかも知れない。
女に別れを告げ、仕事も辞めて、借金をして旅に出て……来るべきワールドカップに向けて、どんな風に過ごすのかを考えなければいけない。
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