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サムライブルー 酔いどれ観戦記

2022.12.03 更新 ツイート

FIFA ワールドカップ カタール2022 グループE VSドイツ_コスタリカ_スペイン ヤシキケンジ

ワールドカップは人を駄目にする。

ワールドカップが始まってしまうと、もう他にはなにもできなくなる。

仕事はしない、飲みにも出かけない、試合開始1時間前にはテレビの前で入念なウォーミングアップをしなくてはいけないので、うかつに人と会うこともできなくなる。

思い返せば、2002年ワールドカップの決勝戦。

 

その日、当時働いていたアルバイトのシフトが入っていたが、ブラジル対ドイツの決勝戦が観たくて無断欠勤をした。

テレビで観戦中、ケータイには何度もバイト先からの着信があったが、当然無視を決め込み、そっと優しく電源オフ。

何件もの留守電が入っているようだったが、聞くのも億劫なので再生せずに全消去。

その頃よりすこしは利口になったのか、サッカーがある時はハナから仕事の予定など入れないようにはなった。

 

カタールワールドカップが始まってからの生活は、サッカー観戦だけになる。

ただひたすら夜から朝まで放送されている試合を観戦する。観戦の相棒に、焼酎、ウイスキーのボトルも新調した。

1試合が終わると、次の試合までの時間に飯風呂など最低限の用事を済ませる。

試合がない時間は、日本に限らずいろんな国の選手のインタビューや試合考察などワールドカップ関連の膨大な記事をネットで読み続ける。

明け方にその日の試合がすべて終わってしまうと、一仕事を終えたような充足感を感じながら、ダイビングヘッドのごとく布団に飛び込んで、即就寝。

昼すぎにのそりと起きると、夜から始まる試合に備えて足りなくなったつまみや酒類などを補充しに出かける。

最近お気に入りは、さけるチーズだ。試合中シュートが外れたりして苛立つと、八つ当たりして裂きまくる。

べつに買い物なんてネット宅配でも良いのだが、買い出しに出かけることが滅多にない外出なので重い腰を上げて外に出る。

いや、嘘を書いてしまった。

サッカーばかり見ているせいで、運動不足のこんな生活ではいかんと思い、一度だけ友人を誘ってスポーツバーに出かけ、アルゼンチンとサウジアラビアの試合を観に行った。

とくにどちらを応援するわけでもないが、メッシも最後のワールドカップだろうし、ちょうどいい時間帯の試合がその試合だった。

店内の9割は日本人客だったが、店の一角には中東系男子グループの姿もあった。

おそらくサウジアラビア人同士で観戦に来たのだろう。

後半アディショナルタイムになる頃には、店内がザワつき始めた。

そして、サウジアラビアが2-1で歴史的勝利を収めると、店のいたるところからサウジアラビアの大金星を祝う拍手が湧き起こった。

中東系男子グループに向けて拍手をする日本人客たちもいたので、私も彼らの方を向いて拍手をした。素晴らしい勝利だ。おめでとう。

中東系男子たちは喜びを爆発させるでもなく、ひっそりとしたままで、勝利の余韻に浸る間もなく帰り支度をはじめたその背中をよく見ると、「MESSI」と書かれたクラブチームのユニフォームを着ていた。

「ややこしい、紛らわしい」と思うのはこちらの勝手な思い込みだ。メッシのユニホームを着ているのだから、当然アルゼンチンを応援していたのだろう。たぶん。

 

 

ドイツ戦での勝利に酔いしれて、コスタリカ戦の敗退に落胆し、来るべきスペイン戦に大きな不安とわずかな希望が入り混じり、明らかに情緒不安定な日々が続いているのは私だけではないだろう(現時点で、第二節終了時)。

森保監督は、もはや何を考えているのか全然分からない。

ドイツ戦まで隠していたような秘策を繰り出したかと思えば、コスタリカ戦では本来の自分を思い出したかのような切れ味悪い采配で連勝のチャンスを逃してしまった。

結果に一喜一憂していても仕方がない、と以前は思っていたのだが、いまは襟を正してこう思う。

一喜一憂するのが正しい見方であり、一喜一憂することが楽しいのだ。

喜んだり不安になったり感情の起伏があるから面白いのである。

ドイツ戦後には称賛の言葉が並び、コスタリカ戦後には待ってましたとばかりと、ダメ出しという名の文句の嵐。

一円の得にもならないのにそんなことをネットに書きこんでいるいる人も自らの感情の起伏を表現して「楽しんでいる」のだ。

森保JAPANの集大成となる決勝トーナメントをかけたスペイン戦。

ドイツに勝てたのは奇跡だったのかも知れないが、スペインを負かせて決勝トーナメントに進出すれば奇跡では済まされないだろう。

 

と、ここまで書いた時点でグループリーグ2戦目を終えたところだった。

そしてグループリーグ第3戦。

スペインに先制されたときに、「やっぱ無理かあ」と誰でも思うだろう。

しかし、0-1のまま前半をしのいだときには「あれ? ドイツ戦と同じ?」となるが、疑心暗鬼な我々日本人は「ないない。ドイツ戦のようなラッキーがまた起きるワケないじゃん」と自嘲したはずだ。

そんな日本が後半開始早々にスペインから逆転。Eグループ1位突破を果たした。

ドイツとスペインに勝ってEグループを首位で突破。なにがなんだかわからないことになっている。

森保監督の采配が怖いほど当たっている。

試合後のインタビューを見ていると、悪魔に魂を売ったんじゃないかと思うほどバッキバキの顔だった森保監督。

あと何回、あんなに高揚した表情の森保監督を見れるのだろうか。

ジャイアントキリングが多い今大会。日本がその先陣を切っていることは間違いない。

スペイン戦が終わり、カーテンの隙間からは薄明かりが見えた。

勝利を祝う騒がしいテレビは消して、すっかり飲むことを忘れていたビールグラスに手を伸ばすと、指先が小刻みに震えていた。

この狂乱が続くかぎり、酒浸りの駄目人間まっしぐらになっていってしまうが、それは仕方がないことなのだと思う。

ゆっくりとグラスを傾けると、すっかり気の抜けたビールでさえ、格別の味がするのだった。

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