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「令和」の心がわかる万葉集のことば

2019.05.04 更新 ツイート

草枕――旅にかかる枕詞の理由上野誠

草枕

「草枕」といえば旅にかかる枕詞。古代において旅は楽しいものではなくて、苦しいものでした。うっかりすると野宿をしなくてはなりません。草を枕にして寝るとは、苦しい野宿からイメージされた言葉なのです。

枕詞というものは、言葉に一つのイメージを与えるものです。旅は苦しいものであるイメージを、草枕という言葉で表しているのでしょう。イメージは、連鎖します。草を枕に寝るなら、寒いはずである。寝られないはずであると。

 

旅の歌の主たるテーマは、ずばり別れです。古典の旅は苦しい旅ばかりですが、そのなかでも一番苦しいのが妻との別れです。ですから、草枕という枕詞が使われると妻との別れが一番はじめに想起されました。当時、女性が旅をすることは、稀まれでしたから、旅立つ男に、家を守る女というかたちで、旅の歌は歌われるのです。

部下の送別会で、こんなあいさつはいかがでしょうか。

「彼がこの本社に来て、五年と聞いて、びっくりしました。私たちは、彼をこうやって、送り出すのだけれど、また次の職場でがんばって、本社に戻ってきてほしい。草枕といえば旅で、旅は苦しいものだけれど、旅を経験して、また大きく成長してほしいと思います。ここを家だと思って、旅立ってください。飛躍のために──」

私はこういって、草枕と書かれた封筒に入った金一封を渡したいと思います。

 

(一四二)

家(いへ)にあれば 笥(け)に盛(も)る飯(い)ひを

草枕(くさまくら) 旅にしあれば

椎(しひ)の葉に盛る

 

家にいれば 器に盛る飯をね

草を枕ではないけれど 旅にあるので

椎(しい)の葉に盛るのだ(あぁ)

上野誠『「令和」の心がわかる万葉集のことば』

万葉集の巻五から採られた新元号の「令和」。そこに込められた万葉ことばの心、おだやかな日を寿(ことほ)ぐ1300年前の先祖たちの思い……。8世紀のことばの文化財・万葉集に使われている「万葉ことば」(古き日本語)を学び、心を磨く日本語練習帳。

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「令和」の心がわかる万葉集のことば

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上野誠

 1960年、福岡県生まれ。國學院大學大学院文学研究科博士課程後期単位取得満期退学。博士(文学)。現在、奈良大学文学部教授(国文学科)。国際日本文化研究センター研究部客員教授。万葉文化論を専攻。第12回日本民俗学会研究奨励賞、第15回上代文学会賞、第7回角川財団文学賞受賞。『万葉びとの宴』(講談社)、『日本人にとって聖なるものとは何か』(中央公論新社)など、著書多数。近年執筆したオペラや小説も好評を博している。

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