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オオカミ少女に気をつけろ! ~欲望と世論とフェイクニュース

2019.03.29 更新

フェイクニュースを脊髄反射でリツイート…で起こった悲惨すぎる事件の数々泉美木蘭

深く考えずにリツイート――その行為が、人を殺すことがある。「フェイクニュース」と聞けば、まずはトランプ大統領とメディアの攻防を思い浮かべる人は多いと思うが、もっと生々しい脅威が世界各地で広まっている。特に新興国ではフェイクニュースに惑わされた人々が暴徒と化し、無実の人を殺害する事件が相次いでいる。

スマホで回ってきたウワサが恐怖を呼んで…

スマホなんて、なんとなく先進国の贅沢品のようなイメージがあったが、実際にはその普及率は先進国も新興国もあまり変わりがないようだ。固定電話を引けない地域でも、無線アンテナなら安価で立てることができ、グーグルなどは早くから「アフリカ開拓」に乗り出していた。中南米、東南アジアなどもかなりの高普及率で、日本よりもキャッシュレス化が進んでいる地域もある。しかし、同時に普及してしまったのが、メッセージアプリやSNSによる「フェイクニュース」だ。

インドでは、「児童誘拐犯がこの地域に侵入した」というフェイクニュースがメッセージアプリによって大拡散され、自警団や恐怖におびえた群衆が、見知らぬ人を犯人と勘違いして集団リンチを加えるという事件が頻発。日本に伝わっているだけでも数か月のうちになんと20人以上が殺害されているという。2018年5月には、バイクに乗った男性が子供をさらう動画が拡散され、路上で子供にお菓子をあげていたなんの罪もない男性が、犯人と勘違いされて殺害されてしまった。出回った動画は、隣国パキスタンで制作された「児童誘拐に注意せよ」という啓発動画の一部だったという。同様の事件が、ミャンマー、スリランカ、エクアドル、コロンビアなど各地で報告されている。

 

 

なかでも衝撃をもって報じられたのは、2018年8月にメキシコ中部の小さな町・アカトランで起きた事件だった(BBC 2018.11.12 Burned to death because of a rumour on WhatsApp)

その日、郊外からたまたまアカトランへ買い物に来ていた男性2人が、アプリによって拡散された「どうか皆さん気をつけて。子供誘拐犯が大勢、この国に入った」というフェイクニュースに恐怖した人々から「見慣れない顔だ」という理由でリンチを受け、路上でガソリンをかけられ焼き殺されたのだ。しかも、この模様は現場に集まっていた群衆によってスマホで撮影されていた。

メキシコ・プエブラ州アカトランで起きた悲劇。群衆がスマホをかざして動画撮影、生放送をする中で犠牲者に火が放たれた。

当時の映像は凄惨極まるものだ。100人近い群衆が四方八方からスマホをかざし、無実の人が殺害されてしまう。しかも、映像はフェイスブックなどでライブ中継されて拡散し、被害者の母親と妻のもとにまで届いた。戦慄した母親はフェイスブック上で息子を擁護するコメントを書き込んだが、なすすべはなかった。

無実の男性たちを死に追いやったメッセージには、尾びれ背びれがつき「犯人たちは、臓器売買に関わっているようだ。この数日で、4歳、8歳、14歳の子供たちが姿を消した。死体になって見つかった子もいる。内臓が抜き取られた形跡があった子もいる。腹部が開かれ、中は空っぽだった」などと書かれていた。しかし実際には、アカトランで行方不明になった子供などおらず、警察に訴え出た親もひとりもいなかった。

台風21号関空フェイクニュース事件

メキシコの事件は「魔女狩り」そのものだが、これを「新興国の出来事」などと馬鹿にすることは絶対にできない。2018年9月には、大阪府内で、フェイクニュースによって一人の駐日外交官を自死に追い詰めるという痛ましい事件が起きた(産経新聞 2018.9.22)

関西地方に台風21号が襲来、関西空港の連絡橋にタンカーが衝突して空港が閉鎖され、多くの人が足止めされた日のことだ。空港では混乱が起きたが、この時、ある中国人旅行者が空港からバスで移動する映像と共にSNSにこんな内容を投稿した。

「中国の大使館が専用のバスを手配し、空港から連れ出してくれた。強い中国、いいね!」

別の中国人旅行者も、中国大使館のバスで助けられたという内容の書き込みをしており、「中国の在大阪総領事館がバス15台を手配し、中国人を優先的に退避させている」などの情報とともに、中国を賛美する投稿が1日で500件近くあったという。この時、同時に書き込まれていたのがこんな内容の投稿だ。

「台湾の旅行者が『バスに乗れるか?』と尋ねると、『自分が中国人だと認めるならバスに乗ってもいい』と言われた」

中国による台湾実効支配と同化政策を背景にした内容だが、これが台湾の人々のなかで怒りと不満をもって大拡散。ネット上には「中国はあんなに人々を助けているのに、台湾はなにをしているのか?」という怒りが溢れ、矛先は駐日台湾事務所に向かい、「台湾の外交官はクズばかり」「駐日事務所なんかなくしてしまえ」などの罵詈雑言が大爆発した。

そしてこの現象はネットを飛びだし、メディアにも波及。テレビではコメンテーターが外交官を大バッシングし、ますます火がついて、ついに国会でも野党議員から駐日事務所の責任を追及する声があがった。この国民・メディア・政治家による大糾弾の矢面に立たされたのが、大阪の駐日台湾事務所所長だった蘇啓誠氏だった。蘇氏のもとには猛抗議の電話やメールが1000件以上押し寄せた。

蘇氏と連絡をとっていた友人は、関空への道路は封鎖されていたのに中国大使館のバスが派遣されるなどおかしい、「これはフェイクニュースだ」と気が付いていたというが、もはや「バッシングは正義」と化した国内では外交官の言い分に耳を傾けようという者はおらず、台風から10日後、蘇氏は首を吊った姿で発見されることとなった。学者肌で非常に真面目な人物だったという。

 

すべてがフェイクニュースだったと明らかになったのは、蘇氏が自殺した翌日のことだ。ファクトチェック団体を通じて事実確認をすると、やはり当時、関西空港に中国領事館が手配したバスが乗り入れた事実はなく、中国人観光客を優先して避難させた事実もなかったのだ。バスはすべて関西空港が手配したもので、中国人ガイドが案内して中国人が寄り集まって乗った車両はあったものの、国籍関係なく取り残された旅行客を乗せたという。

ここに至るまでに、メディアも国会議員も真偽検証をしておらず、ただネット世論に乗せられただけということに戦慄するが、「正義の群衆」となった人々は、こうしてネット越しに人をリンチし、ガソリンをかけ、火を放って、死に追いやってしまうのだ。

同様のことは日本でも…?

大正12年の関東大震災では、混乱のなか「朝鮮人が略奪強姦を画策している」「朝鮮人が井戸に毒を投入した」などのデマが広まり、武装した民間の自警団らによって朝鮮人やそれと間違われたまったく無実の人々が多数虐殺されるという事件が起きた。

そして日本人は現在でも、大規模災害などに見舞われ混乱に陥ると、恐怖を増長させるようなデマに振り回され続けている。

 

「工場勤務の方からの情報。先ほど石油コンビナートの爆発が起き、有害物質が散らばったそうです。外出に注意して、肌を露出しないようにしてください! この事実を多くの人に知らせて下さい!」

「地震で近所の動物園からライオンが放たれた!」

 

チェーンメールだけで済むなら良いが、手のひらのスマホの中で巻き起こる見えない集団ヒステリーが、どこかの誰かを吊し上げることにつながっていたら? 多くの人を、武器になるものを手に握りしめさせるような精神状態に向かわせてしまったら?

社会不安に覆われた人々がぐらついて、まるで液状化現象のようにひとつの群衆と化し、ゆらゆらと扇動されるがまま、いとも簡単に残忍な事件に加担してしまうことは、歴史上、何度も何度も経験してきたことだ。人は進歩なんてしていない。せめてそう自覚して、自分を疑っておきたいと思う。

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オオカミ少女に気をつけろ! ~欲望と世論とフェイクニュース

嘘、デマ、フェイク、陰謀論、巧妙なステマに情報規制……。混乱と不自由さが増すネット界に、泉美木蘭がバンザイ突撃。右往左往しながら“ほんとうらしきもの”を探す真っ向ルポ。

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泉美木蘭

昭和52年三重県生まれ、作家、ライター。日々、愛しさと切なさと後ろめたさに苛まれている不道徳者。社交的と思わせて人見知り。日頃はシャッターをおろして新聞受けから世間を覗いている。趣味は合気道、ラテンDJ、三浦大知。

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