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オオカミ少女に気をつけろ!

2020.12.26 更新 ツイート

スウェーデン国王発言と、スウェーデンを叩きたい人たち 泉美木蘭

スウェーデン国王の「失敗」発言報道

スウェーデンのカール16世グスタフ国王が、12月17日、スウェーデン公共放送SVTのインタビューで今年1年を総括しての感想を求められ、「私たちは失敗したと思う」と発言したことが世界的なニュースになった。

ニューヨークタイムズ、ハフィントンポスト、NBC、ガーディアン、BBCなど特に米英のリベラル系メディアのほとんどが「スウェーデン国王が、自国の新型コロナ政策を『失敗』と批判」という論調で報じ、日本のマスコミも「『私たちは失敗した』スウェーデン国王が新型コロナ対策批判」(産経新聞)、「『私たちは失敗した』スウェーデン国王、政府の規制避けたコロナ対策を批判」(毎日新聞)、「独自のコロナ対策『失敗』スウェーデン国王が公言」(テレ朝ニュース)などほぼ同じ論調だ。

 

内容は、おおむね「ロックダウンも飲食店の休業にも踏み切らず、ゆるい政策を続けた結果、スウェーデンの累計感染者数は35万人以上、死者数は7800人を超えた。グスタフ国王はこれらの政策について『失敗』と述べた」というものだ。

第一報を見て、私は驚いてしまった。「スウェーデンが失敗した」ということにではなく、立憲君主制をとるスウェーデンで、国王がこんなに堂々と政治的批判することがあるのか? ということにである。もしそんなことがあれば、明確な憲法違反にあたるからだ。

立憲君主制の国王とは

スウェーデンの国王は、国家元首とされており、スウェーデン軍の儀式には軍服で出席し、特別閣議や情報閣議などを通して国家の中枢にも関わっているが、憲法には「政府が王国を統治し、政府は国会に責任を負う」と記載されている。あくまでも、儀礼的・国家代表的な権能の行使のみが保障された、象徴的な立場だ。

似ているのが、日本の天皇だ。照らし合わせて考えるとよくわかる。天皇は、日本国憲法の第1条で「日本国の象徴であり日本国民統合の象徴」とされており、ある一定の政治的立場をとることはあってはならない。また、第4条でも「この憲法の定める国事に関する行為のみを行い、国政に関する権能を有しない」とされている。

したがって、国民の苦しみや不安に寄り添い、弱い立場の人々への慰めのお気持ちを述べられることはあっても、「多額の税金をつぎ込んだGoToキャンペーンが二転三転した上に、感染拡大も防げなかったことは失敗でした」とか「飲食店を営業禁止しなかった私たちは失敗だったと思います」というような政治批判を述べることは絶対にあり得ない。

グスタフ国王の発言は、それに匹敵するようなものだったのだろうか。そこで、スウェーデン地元メディアによる報道を調べてみたところ、実はスウェーデン国内と、それ以外の世界各国とでは、話の内容が大きく違っていることがわかった。

スウェーデン王室はすでに「非政治的発言だ」と否定してるのに……

国王のインタビューは、SVTが王室の一年間を振り返る恒例の年末番組のなかで行われたものだった。翻訳表現がすこし違うかもしれないが、大意としては次のような内容だ。

「私たちは失敗したと思います。あまりにもたくさんの方が亡くなり、それはほんとうにひどいものです。それは私たち全員が苦しんでいることでもあります」

――今年一年を要約するとどのようでしたか?

「“Annorlunda(異なった)”」それが一番短く、おそらくすべてをカバーするでしょう。亡くなったみなさんのことを考えると、ひどいものだったと思います。そして、多くの家族の悲しみとフラストレーション、また、膝をつき、事業を失うかもしれない多くの起業家もいます。ですから、今年は私たちにとって大変な一年でした」

――陛下はすべての家族のことをご存じなのですか?

「もちろんです。困難な状況下で多大な被害を受けているのはスウェーデンの人々です。その上で、家族のことや起こったことを考えるのです。家族に別れを告げることができない……それはとても重く、トラウマになる経験だと思います」

これらの発言を、スウェーデンの一部コメンテーターが、「国王がスウェーデンのコロナ政策を叱責した」と解釈。さらに、「国王が政治的発言をしていいのか」と批判する人物も現れて、物議をかもしたらしい。そこに、海外メディアが便乗して、そのまま報じたわけだが、実は、コメンテーターたちの解釈そのものが間違っていた。

すでにスウェーデン王室から、国王の発言は「非政治的」なものであり、政治批判ととってはならないと強調するコメントが出されているのだ。宮廷の広報・報道官であるMargareta Thorgren氏は、AFP通信に対して

「国王はスウェーデン全体、社会全体について述べておられるのです。国王のなさっていることは、さまざまなかたちで影響を受けたすべての人々、そして、パンデミックで亡くなった人々に共感を示すことなのです」

と述べている。

つまり、国王が「ロックダウンすべきだった」とか「飲食店を営業禁止にしないから失敗した」というような政策批判をすれば、その政策によって職を失う人々にとっては、「自分たちは見捨てられた」という話になり、国王は象徴的存在ではなくなり、国内に分断を生む恐れさえある。

だから立憲君主国の国王の発言は、あくまでも、新型コロナによって身体的、経済的、精神的に影響を受けたスウェーデン全体を思い、そして、スウェーデン社会全体が共有している問題について、共感の意を示したものなのだ。では、2020年のスウェーデン社会は、なにが「失敗」だったと共有しているのか?

スウェーデンの本当の「失敗」

スウェーデンの死者のほとんどは、介護施設に入居する高齢者だ。3月の時点で、介護施設は閉鎖されており、高齢者には「自己隔離」が勧告されていた。だが、それでも介護施設での感染蔓延を食い止められなかった。その原因として浮上しているのは、コロナ以前からくすぶっていた介護施設をめぐる構造的な問題だ。

スウェーデンは、税金や社会保険料の負担は重いが、福祉や医療制度などが手厚い「高福祉・高負担」の国として知られるが、介護施設に関しては入居者が病気を抱えた人ばかりであるにもかかわらず、常駐の医師がおらず、看護師もわずかだという問題があった。

また、現地メディアの報道や、スウェーデン在住の医師らの報告によると、近年は介護施設の民営化が進められ、施設の経営者は、高額な社会保険料を削るために、正規職員よりも、給料の安いパートタイマーを多く雇うことが一般的だという。パートタイマーの多くは移民労働者で、低所得のために複数の施設や仕事を掛け持ちしているケースもあり、ウイルスを拡散させやすい条件があったとみられる。スウェーデンは移民大国なのだ。

さらに、介護職員がコロナに感染した場合、正規雇用の職員は補償を受けて休養できるが、パートタイマーはそれがかなわず、症状が出ていても勤務しつづける人が多かったという。人手不足になると、さらにパートタイマーを募集する状態にもなり、悪循環が起きた。しかも、移民層にはスウェーデン語が理解できない人も多く、そもそも感染症に関する情報がきちんと伝わっていないという致命的な問題もあったようだ。

このように、移民大国であるがゆえの社会構造の問題、「高福祉・高負担」と「民営化」のひずみ、その中で高齢者をどう支えていくのかという社会課題がもともと存在しており、それがコロナによって一気に露わになってしまった――「ロックダウンか否か」ではない、むしろロックダウンしても起きたであろう、スウェーデンの国情が生んだ「失敗」があるのだ。

介護施設の脆弱さについては、スウェーデン政府もすでに認めており、公衆衛生庁疫学責任者のアンデシュ・テグネル氏も6月に「対策が不十分で、改善の余地がある」と述べたが、「スウェーデンに対してネガティブな新型コロナ報道のこと」で紹介したように、この発言もバッシングに使われた。

今回のグスタフ国王の発言も同じである。ほとんどのメディアは「ロックダウンしなかったこと」だけが攻撃対象で、立憲君主制の仕組みも、スウェーデン王室からの否定コメントも無視している。もはや意図的な誤読報道、デマであると言えよう。

命も経済も家庭問題も考えるスウェーデン王族

そもそも国王だけでなく、スウェーデンの王族には「ロックダウンして経済を犠牲にしてでも生命だけは守るべき」というような考え方はない。

次期スウェーデン女王のヴィクトリア皇太子は、STVの番組のなかで、夫のダニエル王子とともに仮設病院の建設現場を視察し、褒めたたえた上で、ウイルスの影響で、大勢を雇用する大企業が経営悪化するかもしれないことや、乗り越えられない人が出てしまうことについて「深く心配しています」と発言している。

ダニエル王子も、「仕事を失ったすべての人々と同じく、私も不安と絶望を共有しています」「仕事に人生を見出している人が、いま煙につつまれたような状態になっている」と共感を示し、「命を救うことも企業を生き残らせることも両立する必要がある」と発言。

さらに、皇太子の弟・フィリップ王子の妻のソフィア妃に至っては、みずから医療ボランティアを志願して、入院患者への配膳や、病室の消毒・掃除、電話応対などに従事。11月末にフィリップ王子とともにコロナに感染して、夫婦で高熱と関節の痛みで寝込んだそうだが、「自分だけはコロナにかかりたくない」というような姿勢ではないのだ。

アメリカのフロリダ州に住んでいる皇太子の妹・マデレーン王女は、ロックダウンによって学校が閉鎖されたアメリカでは、子どもを見守るために失業する親がいること、家に閉じ込められたまま虐待されている子どもたちが大勢いることを切々と語っていた。いつも通り学校に通えることで守られている、弱い立場の子どもたちがいるのは事実だ。それは日本にも言える。だが、こういった話は徹底して無視されている。

そもそもスウェーデンをバッシングできるのか?

実際のデータを見ると、スウェーデンが特別に失敗しているとは言えないこともわかる。今年2月4日から12月22日現在までの陽性者数と死者数のデータを棒グラフで表示するとこうだ。

スウェーデン公衆衛生庁のデータより、筆者作成

夏の間に検査体制を整備したためか、11月以降の検査数が急増して、陽性者数があまりにも多すぎるため、高さを省略した。ご覧の通り、「感染者が急増している!」とは言えるが、死者はそのほんの一部だ。また、3月の時点で現在と同じ検査体制であったならば、もっと陽性者の山は高かったのではないかと想像できる。

スウェーデン公衆衛生庁のデータより、筆者が補足

また、陽性者は増えていても、ICU入室者数、死者数の推移は、3~4月より11~12月時点のほうが低い水準であることがわかる。

感染の広がりは地域によってまちまちだし、1月にかけてさらに寒さが厳しくなると、死者が増える可能性もあるかもしれないが、秋冬の波は、3月の最初の急上昇時点よりもなだらかな角度だ。免疫を持った人がある程度増えた結果ではないかと推測できる。

 

スウェーデン公衆衛生庁のデータより、筆者が補足

年齢別に見ると、ICU入室者は60代が中心で、死者は80歳以上の高齢者に集中している。

高齢者に人工呼吸器を装着して延命することは、虐待とみなす感覚が一般的な国柄でもあり、回復が見込めないとみなせば緩和ケアに切り替えて看取るのが一般的でもあるから、そう不自然な分布とは思えない。

また、スウェーデンの平均寿命は82.56歳だ。「スウェーデンはコロナ対策がゆるかったせいで、国民を寿命よりも大幅に早く死なせた」とは言えない。

Our World in Dataで取得したグラフに筆者が補足

欧米各国とスウェーデンの100万人あたりの死者数の推移も見てみた。赤の太線がスウェーデンだ。なんと、基本的人権を犠牲にしてロックダウンした各国と、スウェーデンとで、波形がちっとも変わらないのである。

米英のメディアは、一体どういうつもりで「スウェーデンは失敗した!」とバッシングしているのだろうか。これなら、欧米各国どこも「私たちは失敗した」という状態だ。

「ロックダウンして経済的大打撃を生んだ上に、大勢が死んだ」という自国の結末がよほどのトラウマになったのか。ロックダウンを正当化するために、スウェーデンをなんとしてでもこき下ろすしかなくなったのかもしれない。それなら、スウェーデン国王のお言葉に、素直に心慰められたらいいじゃないかと思ってしまうのだが。

 

グラフには、日本も入れておいた。他国から見れば「誤差」のようなレベルだ。にもかかわらず、国内では「医療崩壊だ!」という騒ぎになり、「飲食店の営業をやめさせろ」「緊急事態宣言を出すべきだ」と強権発動への期待が盛り上がっている。その一環に、「ロックダウンをしなかったスウェーデンは失敗だった」というデマがある。

他国の対策を見て「ほら失敗だ。だから我々はもっと厳しく規制しなければならない!」と世論を誘導する暇があったら、国内の感染状況、倒産件数、失業者数、子どもへの影響、自殺者数などもっと総合的に見極め、大人として冷静な検証をしてもらいたい。日本には160万の病床があり、人口当たりの病床数は世界一だ。しかし、コロナを2類相当の指定感染症と定めているために、たった2%しかコロナ病床に回すことができず、一部の医療機関をひっ迫させている。一般の病院の医師からは、自分たちも診療できるようにしてほしいという声が上がっているが、マスコミからは無視されたままだ。

そして恐怖と切迫感だけが煽られ、それが、コロナの診療に携わる医療関係者の差別につながっている。このままでは、世界一の医療資源をまったく活かせず、「ただただ怖がっただけ」の日本こそが、一番の“大失敗”ということになる。悪質な報道に振り回されてはいけない。

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コメント

越智 寛之(おち ひろゆき)【N国党】@綺麗な街「倉敷市」を目指します!  @papasan_at_home スウェーデンって立憲君主制だから国王が失敗したと発言するのは日本で言うと天皇が言ったことと同じになります。そんなことを国王が言うと思います?私はこれは完全なフェイクニュースだと信じてます。 詳しい… https://t.co/VENUINMw6h 5日前 replyretweetfavorite

オオカミ少女に気をつけろ!

嘘、デマ、フェイク、陰謀論、巧妙なステマに情報規制……。混乱と不自由さが増すネット界に、泉美木蘭がバンザイ突撃。右往左往しながら“ほんとうらしきもの”を探す真っ向ルポ。

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泉美木蘭

昭和52年三重県生まれ、作家、ライター。日々、愛しさと切なさと後ろめたさに苛まれている不道徳者。社交的と思わせて人見知り。日頃はシャッターをおろして新聞受けから世間を覗いている。趣味は合気道、ラテンDJ、三浦大知。

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