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オオカミ少女に気をつけろ!

2020.12.04 更新 ツイート

「後遺症」はコロナだけじゃないんですけど…4つの身近な「後遺症」を調べながら考えた 泉美木蘭

ワンパターンでくり返される“不安の煽り芸”報道

「がまんの3週間」という言葉を聞いて、戦時中のスローガン「欲しがりません、勝つまでは」や「ぜいたくは敵だ」などが頭に浮かんだ。日本人はなにも変わっていない……というよりは、人間は恐怖の感情やショックにとらわれると、いつでも戦時中の人々と同じモードに切り替わってしまう不安定さや不完全さを抱えているということなんだと、最近思う。

 

専門家が解説する以前から、「インフルエンザや風邪がそうであるように、寒くなれば新型コロナにかかる人も増えるだろうな」という庶民としての感覚を持っていた人も多いと思うのだが、テレビをつけると連日「第3波」がやってきたとして、「感染者数過去最高」「重症者数急増」「死者最多」「医療のひっ迫」と切迫感と不安のみが煽り立てられている。

(写真:iStock.com/Javier Conejero)

同じことをインフルエンザの流行期にやっていたら「日本国内で1日で100人死亡!」「過去最多1日で200人死亡!」「感染者1000万人突破!」という話になる年もあり、現在の比ではない恐怖を味わうことになると思うのだが。

医療現場がひっ迫しているのは、日本が世界一の病床数(人口あたり)を誇る医療大国であるにも関わらず、政府が、新型コロナを「指定感染症2類相当(一部1類相当)」の感染症に指定して、一部の指定医療機関にのみ患者を集中させ、実際には入院の必要のない患者も受け入れながら、厳重な感染防御態勢のなかで治療をしなければならないという仕組みの中に医療を閉じ込めつづけているからだ。

そして、保健所を介して感染者が全数報告され、インフルエンザではしばしば起きていた「院内感染」もマスコミが大々的に報じてしまうので、ますます医療現場に圧迫を加えることになっている。はっきり言って「人災」の状態が続いていると思うのだが、そこはマスコミがなかなか検証しない。

そんな中で「経済に急ブレーキをかけるしかない」という強硬な意見も出て、札幌や大阪、東京で「GoToキャンペーン」の一部見直しが相次いでいるが、そもそも「GoToキャンペーン」は、大打撃を受けた観光業や飲食業、それに連なるさまざまな産業で生計を立てる人々を救うために始まったものだ。

すでに新型コロナの影響で失業を余儀なくされた人々が大勢いて、社会不安は増大、精神科や心療内科には患者が殺到していて、自殺者は急増中だ。2020年10月の自殺者数は2153人、昨年同月より40%増加している。一方、新型コロナの死者は、2020年1月に国内最初の感染者が発見されてから12月1日現在までの10か月間で2118人だ。それも、「死因はウイルスか、持病か、それとも……?」に書いたように、「PCR陽性だったが新型コロナが原因ではない死者」まで含んだ人数である。新型コロナに罹患した人の話だけに報道が重点を置くのは、どう考えたってバランスがおかしい。

他の病状でここまで「後遺症」が報道された例はないような…

このような状況のなか、現在「コロナ怖い」を一層盛り上げているのが、数々のテレビ番組、雑誌、ネット記事で取り上げられている「コロナ後遺症」である。

PCR検査で陰性となった後も、倦怠感や胸の痛み、息苦しさ、咳、味覚障害などの症状が長く残り、ほかにも、毛が抜けた、歯が抜けたなどの報告があるという。海外からは、発症140日後まで、肺や心臓など臓器になんらかの損傷が見られるという報告もある。

(写真:iStock.com/Rawpixel)

「臓器の損傷」なんて表現されると怖い感じがするが、コロナ以前に時を戻すと、「治ったんだけど、咳だけがしつこく残ってるんだ」「熱は下がったのに、すっきりしなくて、もう2カ月ぐらい体がだるいままだ」というような話は、体調不良にまつわる日常会話のひとつだった。

いつもの風邪を引いたと思ったら、思わぬ長患いになることもそこまで衝撃的な話でもなかったし、それがつらい人はまた医者にかかり、「リハビリしなければ元気になれない」と考える人は、基礎体力をつけようという感覚で日常に戻っていたと思う。大々的に注目されていないだけで、病後何か月も体のつらさや痛みを抱えていた人だって、身近にいたのではないだろうか。

もちろん、新型コロナに感染して症状が長く残り、つらさを感じている人がいるのはわかるし、お大事になさっていただきたい。ただ、世の中には数々の病気や事故があるなかで、「コロナ後遺症」ばかりがあまりにもくり返し報じられている、この状態はどうなのか。

患者の予後について、医師や専門家があれこれ解説し、キャスターやコメンテーターらが深刻な顔で怖がったりする。それを見ていれば、新型コロナだけが、なにか特別にひどい後遺症を引き起こす恐ろしいウイルスであるかのようにイメージしてしまうだろう。だが、ほかの病気にだって「後遺症」はあるはずだ。そこで、新型コロナ以外の病気の後遺症について調べてみた。断っておくが、他の病気の後遺症の怖さを煽りたいわけではもちろんない。

成人の9割が感染している帯状疱疹ウイルスの後遺症

子ども時代に感染して「水ぼうそう」を発症する水痘・帯状疱疹ウイルスは、治癒したあとも神経節に潜んでいる。大人になってから、疲労やストレスなどが原因で再び活性化し増殖することがあり、それが「帯状疱疹」となって猛烈な痛みと水ぶくれの症状を引き起こすのだ。

日本人の成人の約9割がこのウイルスに感染しているとされるが、体内で活性化すると、神経網に沿って神経を破壊しながら増殖し、その一帯に帯状疱疹を発症する。破壊された神経は完全には修復されないので、目や耳などの神経で起きると、視力低下や難聴などの後遺症が残ってしまうおそれがある。

水ぶくれが引いたあと、その場所に神経痛だけが残ることもある。痛みがひどいと、神経ブロック注射を打って対処することもあるほどだが、この「帯状疱疹後神経痛」という症状は、50歳以降の発症者の約20%に発生するという。

ちなみに、2014年から子どもに「水痘ワクチン」を定期接種するようになったが、それと引き換えに、20代~40代の子育て世代で帯状疱疹の発症率が急激に上昇している。子どもがウイルスに感染して発症した際、周囲の大人の体の中では、免疫が再活性化する「免疫ブースト」という現象が起きて、帯状疱疹の発症を抑制するはたらきを担っていた。ところが子どもにワクチンを打ったために、その機会が失われたのである。

インフルエンザの後遺症

インフルエンザウイルスは高熱と体の痛み、咳などがポピュラーな症状だが、肺炎や心筋炎などの合併症を起こすこともあるし、ウイルスによって抵抗力が落ち、細菌などの二次感染を許した場合、敗血症になって多臓器不全を招くこともあり、それが原因で死亡したり、後遺症が残ったりすることがある。

たいていの場合は、免疫細胞がウイルスと戦って治癒するのだが、免疫が暴走する「サイトカインストーム」が起きると、血栓ができて、心筋梗塞、脳梗塞、肺血栓塞栓、下肢動脈塞栓などが起き、死亡したり、後遺症が残ったりしてしまう。

また、脳細胞が障害を受けて、けいれんや意識障害などの「インフルエンザ脳症」と呼ばれる重篤な症状に陥ることがある。特に小さな幼児に多く、脳症が回復せず、気管切開をして人工呼吸器を装着し、生命を維持する状態になるなど、重篤な身体障害や知的障害という後遺症を背負う話も実はめずらしいものではない。

厚労省の人口動態統計によれば、1~9歳児の死因第5位は「インフルエンザ」だ。新型コロナでは「高齢者の命を守るために自粛しましょう」と言われるが、インフルエンザで「幼児の命を守るために自粛しましょう」とは誰も言わない。幼児の命のほうが軽いのか?

下痢や嘔吐を引き起こす腸管感染症ウイルスの後遺症

シーズンになると流行しはじめ、下痢や嘔吐を引き起こす腸管感染症ウイルスは、一般的には「後遺症はほとんどない」と言われるが、小さな子供にとっては命を脅かすこともある。

例えば、ノロウイルスに感染した乳児が、下痢と嘔吐、高熱のあと脳浮腫を起こし、そのまま回復することなく、インフルエンザ脳症と同様、生涯にわたる重い後遺症を背負うケースもある。また、胃腸炎を発症するロタウイルスは、感染力が非常に強く、5歳までに世界中のほぼすべての子どもが感染するとされているが、これも脳炎を発症する場合があり、ロタウイルス脳炎患者の38%には後遺症が残るとされている。

熱中症は、脳の中枢機能に後遺症を残す

後遺症が発生するのは、なにもウイルスの感染だけではない。今年も7月~9月の間に大勢の熱中症患者が救急搬送され、死亡したが、熱中症にも後遺症がある。

2006年と2008年に日本救急医学会熱中症検討特別委員会が実施した調査によると、高次脳機能障害、嚥下障害、小脳失調、失語症、植物状態など、脳の中枢機能に障害が起きる後遺症が数々報告されている。これらの後遺症に侵された人の平均年齢は62.9歳で、新型コロナで重症化する患者よりもずっと若い。

(写真:iStock.com/miharayou)

熱中症への注意喚起は、「水分をしっかりとりましょう」「ビールはだめです」など、比較的のん気だ。「脳の中枢機能に後遺症が」「植物状態になる」などガンガン恐怖を煽ることもない。しかし、その年の気温によって、熱中症は3~4か月足らずで数百人から千人以上の死者を出し、後遺症に苦しむ人も出ているのだ。

日本人の三大疾患にも後遺症がつきもの

そもそも、日本では年間21万人が「心疾患」で死亡している。患者には後遺症も多い。心筋梗塞によって心臓の細胞が壊死して、心不全や不整脈などの合併症が起きると、回復した後も息切れや食欲不振、呼吸困難などの症状が長く残るなどとよく聞かれる。

また、年間11万人が「脳血管疾患」で死亡しているが、こちらも身体に麻痺が残ったり、言葉が出なくなったりなどする人が大勢いて、それは常識のひとつとして知られていることだ。長期間のリハビリが必要になったり、リハビリをしても完全には機能が戻らない人も少なくない。

ほかにも、年間38万人が死亡する癌では、治療のために手術を受けることで、術後の後遺症を抱える人も大勢いる。以前の半分くらいしか食べ物を食べられなくなった、咳が半年ほどつづいている、倦怠感や冷や汗がある、自分が体験したことではなくとも1つや2つは聞いた話があるだろう。
 

新型コロナだけでなく、数々の病気や、治療の結果として、後遺症が残ってしまうことは普通にあることだ。そして、それが重度の障害としてその人やその人の家族の生涯に影響を及ぼし、宿命的な後遺症として受け止めなければならないことだって、誰にでも起きうる。だが、それを専門家が延々と解説したり、テレビ番組がインタビューをしてくり返し放送したりすることはない。

「コロナ後遺症」のみにスポットを当てて「コロナ怖い」を強化し、社会不安を増幅させた先にあるのは、子どもを含む多くの人々の精神に及ぼす後遺症、そして経済破壊による後遺症だ。それは、日本における新型コロナの被害よりもはるかに甚大で、そして長期に渡って暗い影響を残すものとなってしまうだろう。

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オオカミ少女に気をつけろ!

嘘、デマ、フェイク、陰謀論、巧妙なステマに情報規制……。混乱と不自由さが増すネット界に、泉美木蘭がバンザイ突撃。右往左往しながら“ほんとうらしきもの”を探す真っ向ルポ。

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泉美木蘭

昭和52年三重県生まれ、作家、ライター。日々、愛しさと切なさと後ろめたさに苛まれている不道徳者。社交的と思わせて人見知り。日頃はシャッターをおろして新聞受けから世間を覗いている。趣味は合気道、ラテンDJ、三浦大知。

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