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オオカミ少女に気をつけろ! ~欲望と世論とフェイクニュース

2020.01.30 更新 ツイート

SNSでのバッシング好きを瞬間沸騰させる3ステップ泉美木蘭

1.わかりやすい“社会正義”のエサが撒かれる

3年ほど前のことだ。コメンテーターとして出演した関東ローカル局の朝のニュース番組で、その日、宅配業界における人手不足の話題が取り上げられた。ネット通販が日常化して荷物が増え続けていることと、折からの人手不足とが重なって、配達員の作業が激増しているという話だった。最近も郵便局の土曜配達の廃止が話題になったが、民間の宅配業者はかなり大変な状況だろう。

共働きの核家族世帯や一人暮らし世帯も多いから、誰かがいつも留守番しているという家が減り、せっかく配達されても持ち帰られるケースが多い。また、特に一人暮らしの女性などは、いろいろな事件を想像する恐怖から、在宅していても突然の訪問者には玄関を開けないというケースもある。

番組では、女性の生活者のひとりとしてどんな体験があるかを話して欲しいと言われていたので、私はかなり正直に、「『玄関を開けるのが怖い』と感じる気持ちがわかる」ということと、「自分も配達のときに居留守を使ってしまい、再配達の伝票を見て、本物の配達だとわかれば、連絡をして再配達をしてもらうことがあった」というようなことを手短に話した。

すると、すぐに視聴者からツイッターに「居留守を使うとは何事だ!」「許せない!」と怒り散らす書き込みが投稿された。「居留守を使ってしまう気持ちがわかる」というような感想の人ももちろんいたが、私を「キチ〇イ」と罵る書き込みもあった。どうやら、日々熱心に他人の発言を罵ったり、揚げ足を取っている人々のようだった。

(写真:iStock.com/Deagreez)
 

もちろん毎回居留守を使っていたわけではない。通販は配達日時の指定をするし、お店から発送連絡もあるから普通に受け取るし、知人なども「荷物を送った」という連絡があるので、普通に受け取る。ただ、まったく予期せぬ訪問に、怯えたことがあったのだ。

実は、以前住んでいた部屋で、玄関の外に段ボールに入ったドリンク剤一箱を置かれたり、ドアポストにアクセサリーや、知らない人の写真を入れられたりしたことがあったのだ。相手はわかって解決したのだが、引っ越したあともまだ尾を引いていた。

番組ではこの話はしていない。そこまで話すのはちょっと違うし、あくまでも「このご時世、都市部に暮らす女性が、どんな風に感じることがあるのか」を話しただけのつもりだった。ただ、舌足らずではあったので、もっと丁寧にコメントできれば良かったと思う。「許せない!」と激怒した人にも納得してもらえるよう、考えていることをすべて話すならば、こうなる。

「私は荷物が届くことがわかっている時は、在宅して受け取っていますし、ネット通販で物を買う際は、配達日時を指定するようにしています。でも、予期せぬ荷物の配達があった時に、思わず息をひそめて居留守を使ってしまったことがありました。
実は以前、ちょっとした行き違いからストーカーまがいの行為を受けたことがありまして、反射的にその時の心境を思い出して、恐怖を感じたのです。

その時は、あとでポストに再配達票が入っているのを見て、本当の配達員の方だったとわかりました。誤解して、二度手間をおかけすることになったわけですが、その瞬間の私は、どうしても思い出される恐怖に勝てませんでした。

都会部に人口が集中し、隣近所との交流もほとんどない生活形態が増えている状態ですし、孤独感を感じやすい日々のなかで、つい恐ろしいことを思い描きがちな方は多いと思います。ですから、どうしても『突然の訪問者に、思わず息をひそめてしまう』という心理を体験する女性は少なくないと思っています。

ひとえに宅配業界の業務過剰と申しましても、このニュースの中には、ネット通販の発展、労働者不足、日本の人口動態、大家族から核家族、単身世帯への家族形態の変化、共同体の崩壊、人々の孤立化、そして脆くなった人と人との信頼感など、時代を象徴するキーワードが如実に反映されているのではないかと思います。

しかも、アマゾンなどの巨大IT企業にパイを総取りされそうだというなかで、各社必死ですから、今後も宅配業務は過剰な状況が続きそうですね。なんでも自宅にいて完結させるという感覚を考えるべき時もいつか来るのかもしれませんね」

長い。長すぎる。生放送のニュース番組には秒単位のスケジュールがあり、指定の時刻になると問答無用で画面が切り替わるような制約もある。スタジオの床には、ストップウォッチを持ったスタッフが座っていて、常に秒数を確認しながらボードに指示を書いて出しているし、他にも扱うべきニュースがたくさんあるので、コメントと言っても十数秒ぐらいしか時間がなかったりする。考えていることをすべてわかりやすく説明するなんてことは、私の能力では不可能だった。

2.勝手な“思い込み”を自分で投入

放送が終わって自宅に帰ると、ツイッターへの書き込みと同一人物かどうかはわからないが、わざわざ私の個人ホームページのメールフォームから、追加の罵詈雑言メールを送ってきた人がいた。とても長かったが、要約するとこうだ。

「居留守を使うとは何様だ! 金持ってるなら宅配ボックスを置けよ! お前みたいな人間が偉そうにのさばってるから困るんだ! 絶対に許せない! このブス!」

本当に驚いた。

どんな人生を送っている人なのかはわからないが、沸点が低すぎると思う。面と向かえば、とても言えそうにないことばかり書いているのだと思うが、「絶対に許せない」って、そんなに簡単にいちいち他人を許せなくなっていて大丈夫なのだろうか。なにより仰天したのは、「金持ってるなら宅配ボックスを置け」という一文だ。

(写真:iStock.com/Deagreez)

この人は、てっきり私を金持ちだと勘違いしているのである。テレビに出ていたから? 著作があるから? 理由はわからないが、メールの文面からは「収入の高い女」というのが前提で憤っていることが伝わってくる。

ものすごく勘違いされていることだが、芸能人でもないコメンテーターが、ニュース番組に出演して高収入を得ることはない。著名なジャーナリスト、弁護士、医者などもともと高収入の職業なら話は違うが、私の場合、番組に出ていた当時は依頼を受けて書く取材記事や専門記事執筆のライター業と、売れない自分の著述や、朗読小説を書いて上演する作家業とをやりながら、さらに夜は7~8時間飲み屋で働いていた。住んでいたのは築40年超の木造2階建て和室アパート。建物が傾いていて、冷蔵庫の扉がすごい勢いで開くという部屋だった。どうせだから、当時の様子を見せておく!


奥のドアが私の部屋だ。手前の隣の部屋の玄関とは壁一枚。宅配ボックスなんて置きようがないことがわかると思う。しかもドアにはドアスコープがなかった。チェーンもなく、電動ドリルで自力でつけた。のちに大家さんがカメラ付きのインターホンを導入してくれたが、それまではドアをノックして呼び出されていたから、アポなし訪問に対してドアを開けて応対するのは、かなり勇気がいることだった。

だが、私ほどの生活でなくとも、緊張感を強いられる女性はやはりいるだろう。高級マンションに住んでいたって、怖さや不安を感じる人だっていると思うのだ。女性宅にはそういう宅配事情もあるんですよ、と言いたかった。

3.ルサンチマンのトッピングを過激に増量

沸点の低すぎる人がネット上ですぐに他人を叩くという光景は、もはや年中行事という状態だが、私の「居留守」に激怒した人ほど極端なケースでなくても、脊髄反射的に他人に罵詈雑言をぶつけたがる人は明らかに増えた。

いつでもどこでもSNSに書き込めるという状況がそうさせるところもあると思うが、居留守を罵ってきた人の文面からは、完全な勘違いではあったものの「金持ってて偉そうなこと言う奴を叩きのめしてやりたい!」というルサンチマンを感じた。

ルサンチマンとは、弱者が強者に対して持つ恨みつらみを表すフランス語だ。ドイツの哲学者ニーチェ(1844-1900)が強く批判した人間の感情だが、ルサンチマンを持つ人というのは、誰かを見て「この野郎!」と思ったとき、「そのうち強くなって見返してやるぞ!」と自分を向上させる方向に歯車が回らず、「強者は悪で、弱者は善だ」という風に考えて自分自身を正当化したり、「正義」という名のもとに復讐願望を持ったりする方向に脳内が暴走してしまう。

社会に格差が広がり、自分の努力ではどうせどうにもならないという虚無感や無気力さが蔓延すると、ますますこのルサンチマンは猛威を振るう。

(写真:iStock.com/Likozor)

近年はタレントの不倫スキャンダルなどがあると、再起不能の追放状態になるまで過剰なバッシングが起きるが、これも「いいご身分だ。引きずりおろしてやる!」というルサンチマンだと言えるだろう。

在日コリアンに対してヘイトスピーチをぶつける人々もそうだ。「在日特権」なるものを指さして、「正義」の名のもとに攻撃している。このごろよく聞く「上級国民」という言葉も、その実態についてはいろいろと語るべきことはあると思うが、言葉そのものにはルサンチマンから生まれた要素を感じる。

前回、SNSで「キラキラした人」を自己演出している他人の写真を見て、「欲望の三角形」が増幅し、どんどん「これが欲しい」「ああなりたい」という欲望を刺激されているのではないか(『その欲しいものは本当に“あなた”が欲しいもの?』2020.1.15配信)という話を書いたが、その生み出された欲望が自分には手に入らないものだと思ったり、嫉妬や憎悪の感情に針が触れたとき、人の心にはルサンチマンが降り積もりはじめるのかもしれない。

ルサンチマンと、脊髄反射で正義の名のもとにすぐ激怒できるネットの融合。この組み合わせはありとあらゆるギスギス感を生み出し続けている。

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オオカミ少女に気をつけろ! ~欲望と世論とフェイクニュース

嘘、デマ、フェイク、陰謀論、巧妙なステマに情報規制……。混乱と不自由さが増すネット界に、泉美木蘭がバンザイ突撃。右往左往しながら“ほんとうらしきもの”を探す真っ向ルポ。

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泉美木蘭

昭和52年三重県生まれ、作家、ライター。日々、愛しさと切なさと後ろめたさに苛まれている不道徳者。社交的と思わせて人見知り。日頃はシャッターをおろして新聞受けから世間を覗いている。趣味は合気道、ラテンDJ、三浦大知。

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