1. Home
  2. 社会・教養
  3. オオカミ少女に気をつけろ!
  4. PCRサイクル数は40と回しすぎの秋。検...

オオカミ少女に気をつけろ!

2020.10.14 更新 ツイート

PCRサイクル数は40と回しすぎの秋。検査拡充・隔離を続けますか問題 泉美木蘭

9月28日の東京・世田谷区議会で、PCR検査の「いつでも・だれでも・何度でも」をうたっていた「世田谷モデル」を含む補正予算が可決成立した。保坂展人区長は、当初は、街頭で大量検査を行っているニューヨークを目指すと言っていたが、実際には規模を大幅に縮小して、介護施設や保育園、幼稚園で働く職員を対象に、症状がなくても定期的にPCR検査を行うという形で、約4億1000万円を計上することになったようだ。

(写真:iStock.com/unoL)
 

NY市のPCR検査数と陽性者数の推移を見ると……→関係なさそう

保坂区長が目指そうとしたニューヨーク市は、感染者数25万人以上、死者数23,800人以上(10月8日現在)という深刻な感染爆発が起きた地域だ。一方の世田谷区は、感染者数2,291人、死者数20人(10月8日現在)。人口比を考慮したとしても、ニューヨーク市よりも世田谷区のほうが安全と言えると思うのだが、なぜ、わざわざニューヨークをお手本にするのか、不思議でならない。

 

それに、ニューヨーク市で新型コロナの感染爆発が起きてから、希望者全員に無料のPCR検査を実施するようになった頃の「検査数」と「陽性者数」の推移に注目すると、次のようなグラフになる。

ニューヨーク市の新型コロナ検査数と陽性者数推移(筆者作成)

3月中旬から4月いっぱいにかけて、一日数千人単位の陽性者が出ていたが、4月6日にはピークとなり、その後はなだらかな右肩下がりで減少していったのだ。クオモ・ニューヨーク州知事は、4月19日の記者会見で「感染のピークは過ぎた」という認識を明らかにしてもいる。

検査を増やしたことが、感染を抑えることに影響するというなら、少なくともピークである4月6日の2週間前、3月30日頃には、猛烈な数の検査が行われていなければならないということになるが、そのような様子はない。

その後、抗体検査の結果が発表され、4月27日時点の抗体保有率は、ニューヨーク州全体で14.9%、ニューヨーク市内では24.7%にも達していたこともわかっている。そして、PCR検査の体制が拡充されて、希望者全員が無料で受けられるように拡充されはじめたのは、グラフを見ておわかりのとおり、その後、5月以降のことなのだ。

このグラフと抗体検査の結果からは、ニューヨーク市において感染爆発がおさまった主たる要因は、いわゆる「集団免疫」の状態を得て、ウイルスがそれ以上感染しづらくなったことではないかという可能性が見えてくるし、その後、9月下旬から再びじわじわと陽性者が増えて騒ぎになってもいるのだ。本当にPCR検査の拡充と隔離で人為的に封じ込めることなどできていたのか、かなり疑わしい。

付け加えておくと、日本では「隔離」とは、指定医療機関やホテルの一室に隔離することを言うが、人権感覚の強いニューヨークでは「自己隔離」、つまり「自宅療養」だ。日本ではマスコミが正確に報じてこなかったが、根本的に、患者に対する対応も違うのである。

「陽性」の基準が高かった米国のPCRサイクルは「37~40」

さて、PCR検査が超拡充されているニューヨークだが、実は大問題が報じられてもいる。8月29日、ニューヨーク・タイムズ紙がPCR検査の「感度」に関する衝撃的な記事を掲載したのだ。

「Your Coronavirus Test Is Positive. Maybe It Shouldn't be(あなたのコロナウイルス検査結果は、陽性。ではないかもしれない)」と題された報告によると、アメリカで行われているPCR検査は、伝染性のない、取るに足らない量のウイルスしか持たない数の人々を、膨大に「陽性」として判定しているという。

特に、マサチューセッツ、ニューヨーク、ネバダの三州当局者によってまとめられたデータを分析すると、「陽性」と判定された人の最大90%が、ほとんどウイルスを持っていないことが明らかになったというのだ。これらの人々は、他人に感染させる可能性もかなり低かったという。これは一体どういうことなのか?

 

PCR検査(新型コロナの場合はRT-PCR検査)とは、検体に含まれている極めて微量なウイルスの遺伝子を、2本から4本へ、4本から8本へと複製させるサイクルをくり返すことで、検出可能な数にまで増幅させて、陽性判定を行うものだ(参考:大阪大学微生物病研究所)。

大阪大学微生物研究所の解説をもとに、筆者作成

ウイルスの量が多ければ、少ないサイクル数で検出できて、逆にウイルスの量が少なければ、多くのサイクル数が必要になるという反比例の関係になっている。そして、何回目のサイクルで「陽性」と「陰性」とを区別するのかという基準値(Ct値)は、検査機器や国によって異なるという。

例えば、台湾の基準値は「35サイクル」だ(中央感染症指揮センター公表値)。したがって、35回未満のサイクル数で検出されるウイルスの量であれば、「陽性」と判定されている。しかし、日本の基準値は台湾よりも厳しく、国立感染症研究所が各検査機関向けに作成した「病原体検出マニュアル 2019-nCoV Ver.2.9.1」によれば、「40サイクル」となっている。同じ人でも、台湾では「陰性」だが、日本では「陽性」ということがあり得るのだ。実際に、台湾から帰国した日本人が、日台両国でそれぞれ違う判断を受けたケースも起きている。

 

ニューヨーク・タイムズ紙によれば、アメリカでは、PCR検査機の製造メーカーや、検査機関が独自の基準値を設けており、37~40サイクルに設定されているという。ところが、このサイクル数でウイルスの遺伝子の増幅をくり返してしまうと、感染後、すでに体内で退治されたあとのウイルスの残骸までをも検出してしまい、「陽性」として判定されることが発覚。これは、「人が立ち去ったあとの部屋のなかで、その人の髪の毛を拾うような話だ」という。

また、米国疾病予防管理センター(CDC)が行った独自の計算では、33サイクルを超えたサンプルからは、生きたウイルス、つまり、感染力のあるウイルスを検出することはほぼ困難だったこともわかった。

ニューヨーク・タイムズ紙の要請を受けて、陽性者のデータを分析したニューヨーク州立ワーズワース研究所では、7月に40サイクルで872人を「陽性」と判定していたが、基準値が35サイクルであれば、そのうちの約43%が「陰性」に、30サイクルであれば約63%が「陰性」であったという。同様の分析をマサチューセッツ州で行うと、7月に「陽性」と判定された人の85~90%は、基準値が30サイクルであったならば「陰性」だったという。

カリフォルニア大学のウイルス学者ジュリエット・モリソン氏は、「40サイクルで『陽性』と考える人々がいることにショックを受けた」「合理的な基準値は30~35サイクルだろう」と述べている。

40サイクルの日本で「陽性」と出たら? その後も含めた全体像をいま誰が把握しているのか

40サイクルで「陽性」と判定され、無症状であっても、仕事や文化活動を急に制限されてしまう事例が相次いでいる日本人としてはショックな話だが、PCR検査のサイクル数と、患者が持つウイルスの量の関係についての検証は、実はすでに4月ごろから言及されていた。

例えば、フランス・マルセイユのメディテラネ感染症大学病院研究所が、入院患者の検体を培養して分析した研究論文によれば、サイクル数が34以上になると、その患者からは感染性のあるウイルスは検出されなくなり、「退院させることが可能」と報告されている。

横軸がサイクル数、縦軸がウイルスの培養陽性率。34サイクル以降は、ウイルスはゼロになっており、感染性は認められなくなる。
出典:“Viral RNA load as determined by cell culture as a management tool for discharge of SARS-CoV-2 patients from infectious disease wards”

日本では、民間の大企業が「格安PCR検査」事業を立ち上げるなど、どんどんPCR検査の増強に力を入れる一方だが、大丈夫なのだろうか。

冒頭の「世田谷モデル」では、介護施設や保育園、幼稚園の職員に検査を受けさせるという。症状もなく、感染性のあるウイルスも持っていないのに「陽性」と判定された場合、今の日本では、その職員は働くことができなくなるし、施設を一時閉鎖するという話にもなってしまうだろう。そうなれば、その施設にお世話になることで日常生活が成り立っている利用者にも多大な影響が及ぶし、なにより施設で働く人々に対して、過大な圧迫感や緊張感を強いることになるだけではないだろうか。

しかも、PCR検査は「治療」ではない。そのときは「陰性」だったとしても、検体を採取し終えた次の瞬間から「陽性」になるかもしれない日常がつづくわけで、決して「陰性」を証明できるようなものでもないのだ。

メディアでは、PCR検査を「安心のために多くの人がやるべきだ」という言説がよく聞かれるが、一体、誰のための「安心」なのか? それは本当の「安心」なのだろうか? そして、政策を立案するリーダーは、ニューヨークにはニューヨークの、日本には日本の状況に即したやり方があるということを、もっと真剣に考えるべきだろう。他国ばかりを見て、自国に不必要な施策を持ち込み、それに巨額の税金を投入されても困る。PCR検査強化一辺倒に向かういま、新しいデータを用いて、現状を検証しなおすべきだろう。

{ この記事をシェアする }

コメント

かすてらP  PCRサイクル数は40と回しすぎの秋。検査拡充・隔離を続けますか問題|オオカミ少女に気をつけろ!|泉美木蘭 - 幻冬舎plus https://t.co/aqtlvQVQfj  東京都のPCR検査陽性者数より、サイクル数を明確にし… https://t.co/dgi6YDjPKp 0時間前 replyretweetfavorite

はんにゃ  そーいえば、池袋北口はトキワ通りにあった衝撃のブツを晒しちゃうZ!! 「PCR検査こそ コロナ退治の 第一歩」 超・洗・脳!! 余りの異世界感に、目を疑っちゃったよNE〜。 推してる検査についての評・例↓… https://t.co/U03uABHqAm 19時間前 replyretweetfavorite

鬼殺隊・乃木柱 乃木トキ⊿⁴⁶林瑠奈第23期乃木恋彼氏  @YahooNewsTopics PCRのやり過ぎで、偽陽性がたくさん出てるんじゃない? PCRサイクル数は40と回しすぎの秋。検査拡充・隔離を続けますか問題|オオカミ少女に気をつけろ!|泉美木蘭 - 幻冬舎plus https://t.co/s0jxI6QrAn 1日前 replyretweetfavorite

絶対大丈夫!  PCRサイクル数は40と回しすぎの秋。検査拡充・隔離を続けますか問題 https://t.co/pJ28g6XsH1 サイクルは国や機械によって異なるらしい。基準が異なる検査結果をもとに、いろんな判断しちゃダメでしょ。 2日前 replyretweetfavorite

鬼殺隊・乃木柱 乃木トキ⊿⁴⁶林瑠奈第23期乃木恋彼氏  @YahooNewsTopics アメリカの研究所がPCRのCt値の違いで陽性者の内、40~60%が実際は陰性の可能性があると指摘。 日本も含めて世界中で偽陽性が多く出ているかも。 ウイルス量が少なかったら、感染させない事を知… https://t.co/hGskxprSw3 2日前 replyretweetfavorite

オオカミ少女に気をつけろ!

嘘、デマ、フェイク、陰謀論、巧妙なステマに情報規制……。混乱と不自由さが増すネット界に、泉美木蘭がバンザイ突撃。右往左往しながら“ほんとうらしきもの”を探す真っ向ルポ。

バックナンバー

泉美木蘭

昭和52年三重県生まれ、作家、ライター。日々、愛しさと切なさと後ろめたさに苛まれている不道徳者。社交的と思わせて人見知り。日頃はシャッターをおろして新聞受けから世間を覗いている。趣味は合気道、ラテンDJ、三浦大知。

この記事を読んだ人へのおすすめ

幻冬舎plusでできること

  • 日々更新する多彩な連載が読める!

    日々更新する
    多彩な連載が読める!

  • 専用アプリなしで電子書籍が読める!

    専用アプリなしで
    電子書籍が読める!

  • おトクなポイントが貯まる・使える!

    おトクなポイントが
    貯まる・使える!

  • 会員限定イベントに参加できる!

    会員限定イベントに
    参加できる!

  • プレゼント抽選に応募できる!

    プレゼント抽選に
    応募できる!

無料!
会員登録はこちらから
無料会員特典について詳しくはこちら
PAGETOP