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オオカミ少女に気をつけろ!

2020.06.03 更新 ツイート

学校の子供にフェイスシールド、の怪泉美木蘭

(写真:iStock.com/Topuria Design)

5月25日、福岡県粕谷町の小中学校で、すべての児童生徒と教職員にマスクとフェイスシールドを装着させた上で、授業を再開したという(「フェイスシールドで授業で授業再開 福岡・粕谷町の小中学校」FNN/2020.5.25)。校内では給食と体育の授業以外は原則装着するらしい。

 

私は映像を見てギョッとし、常識を逸脱しているとしか思えなかったのだが、教育委員会の大人たちは、これを異常とは感じなかったのだろうか。

文部科学省が定めた新型コロナ感染に伴う学校の衛生管理マニュアルを確認してみたが、フェイスシールドについての記載はない。専門家は、飛沫はマスクで防げると考えており、このマニュアルを作る際にフェイスシールドについて言及されることはなかったようだ。

だが、大阪市でも、松井一郎市長が市内の小中学校に通う全児童生徒と教職員にフェイスシールドを装着させる考えを明らかにし、すでに対象約17万5000人分の発注を指示したらしい。ほかの自治体からも、同じような「感染対策」が発表されている。

どう見ても異様としか思えないのだが……。(大阪日日新聞 2020.5.24)

フェイスシールドを装着したままインタビューに答えていた福岡の男子生徒は「息苦しい」と言っていた。私は、ヘアバンドやカチューシャをつけると頭痛を起こす子どもだったので、フェイスシールドによって具合が悪くなったり、授業が頭に入らなくなったりする子もいるのではないかと思えてならない。

だが、学校は「生徒や保護者の安心につなげていきたい」とのことだが、これからの季節、熱中症の原因になるのではないかと心配だ。現に、NHKの報道によれば、すでに熱中症の疑いで病院に搬送された人が、5月中、東京都内だけで128人にのぼるという。

第一、元気なさかりの子どもたちが、視界の自由も行動の自由も制限されて過ごさなければならないなんて、問題だろう。「友達は感染者かもしれない」という猜疑心を植え付けるようなものでもあり、精神衛生的にも健全とは言えないと思う。

科学的根拠より「安全に見える」というイメージに頼る人々

学校以外でも、営業を再開した百貨店やホームセンターなどの店舗で、従業員がフェイスシールド姿で接客するケースが全国で見られる。いずれも「安心・安全」が名目だ。5月16日には、大分県から、感染防止に取り組む飲食店を支援するという名目で、フェイスシールドを装着した「新しい飲み会」が発信され、度肝を抜かれた。

大分県と大分県酒造組合が編み出した「新しい飲み会」だが……(2020.5.16読売新聞)

だが、その効果について調べてみると、販売業者が「飛沫を防止できます」「この材質はウイルスを通しません」と説明しているものはあっても、「フェイスシールドを装着すれば、感染症を予防できる」という科学的データを示した論文は見つけられなかった。医療現場では、あくまでも医療用マスクや防護衣、手袋などと併用されているものだ。それでも、至近距離で咳き込んだ患者の飛沫が耳や髪に付着したという報告もあるほどだった。

厚生労働省のガイドラインによれば、フェイスシールドは、主に眼の結膜からの感染を防ぐために用いるという。医療現場などで感染者に直接接するリスクの高い場所で使用するものであり、「一般の企業で使用する場はそれほど多くない」とされている。学校や一般企業で中途半端に使用することは、科学的根拠よりも「ここまでしていれば安心・安全に見える」というイメージの問題に過ぎず、過剰対応ではないのだろうか。

「若い人でも重症化し、死亡する可能性がある」という呪文

そもそも、新型コロナは、高齢者や基礎疾患のある人が重症化しやすいというのが基本的な情報だった。それなのに、なぜここまで子どもに感染対策を強いる必要があるのだろう。

自粛要請が出されていた4月から5月の間、「フランスで9歳児死亡」「ベルギーで12歳少女の死」「韓国で17歳高校生が死亡」など、たびたび若者や子どもの死亡は報じられたが、いずれも海外の事例だった。

各マスコミで報じられたのは、海外の子どもの死亡ばかりだった

日本では、大相撲の若手力士が死亡した際に「20代以下で初めての死者」という部分が強調された。そして、こういった報道の際は、必ず「若い人でも重症化し、死亡する可能性がある」という言葉がくり返された。

この言葉は市中でも使われており、40代の私に対しても、よほど危機感がなさそうだから言ってやらねばならないと思われたのか、真顔で「若くてもコロナで死ぬ人はいるんですよ」と言う人もいた。同じく、SNS上にも似たような言葉は無数に確認され、まるで呪文のように広がっていった。

この呪文によって委縮してしまった人は少なくないだろう。「あなたも死ぬ可能性がある」と言われたら、怖いと感じるのは自然な反応だと思う。けれども、あくまでも稀なケースだ。

それに、少し視野を広げてみれば、例えば私のまわりには、10代から40代までの間に、すでにがんや心疾患、脳腫瘍、くも膜下出血、不慮の事故などで亡くなった人が何人もいる。2日前に会う約束をしていたのに、急に心臓が止まって死んだ友人もいる。その時はひどくショックを受けたが、そのたびに「こうやって老人になる前に死んでしまうことがあるんだ」「自分だって絶対に死ぬのだし、それがいつ訪れるかはわからないんだな」と考えなおしてきた。それを思うと、コロナで云々と強調されること自体がおかしいと感じるのだ。

ただ、親という立場になれば、子どもに対しては心配がつのるものだろう。私には喘息を患う中学生の息子がいるため、10代以下の子どもの感染状況については最初からとても気になって注視していた。

年齢別の状況をまとめたデータを自分で探してチェックしていたのだが、まず10代以下がどうなのかという前に「80代以上でも、軽症・無症状で済んでいる人がこんなにいるの?」ということに驚いてしまい、そして、10代以下の状況を見て、ますます子どもに対して心配しすぎることは不健全だと思いなおした。

年代別の感染状況(厚労省データより筆者作成)

それに、子どもであっても、小児がん、小児白血病、その他さまざまな病気によって、毎日どこかで死を迎えている人生が存在するのだ。コロナの死者だけが「コロナの恐ろしさ」というイメージを盛り立てるために特別に扱われており、人々を怯えさせているように感じられてならなかった。

学校ではクラスターはないか、稀なもの

5月31日に北九州市の児童1人に感染が確認されたことから、濃厚接触者であるクラスメイトの子どもたちを全員検査して、新たに児童4人の感染を確認し、「クラスター(小規模の集団感染)が発生した」と発表した。

その児童が高熱や肺炎に苦しんでいるなら危険な状態だと思うが、全員が無症状だという。それなら、ひとつ免疫が増えて良かったねという話でしかないと思うのだが、なぜこうも問題視するのだろう。インフルエンザでも、無症状の感染者は大勢いるとされているが、それをわざわざ検査して見つけ出すことなどしてこなかったし、そもそも無症状ならば、その子どもは「健康」と見なされていたはずだ。

5月20日に日本小児科学会から公表された医学的知見によれば、やはり10代以下の感染者が全体の中で占める割合は世界的にも少なく、成人と比べてほとんどが無症状か軽症であることから、感染したとしても「経過観察または対症療法で十分である」とされている。過剰な対策は医師も薦めてはいない。

そもそも、学校では新型コロナのクラスターはないか、あるとしても稀なものとされている。日本小児科学会によれば、オーストラリアにおいて、15の学校で18人の患者が発生し、863 人の濃厚接触があったにもかかわらず、その後に感染が確認されたのは2人だけだったという。また、ヨーロッパでは、9歳の患者が、症状が出たまま3つの学校やスキー学校で112人と接触したにもかかわらず、誰にもうつしていなかった事例もある。

もちろん今後も感染例は出るとは思うが、10代以下にとっての新型コロナは、この程度のものなのだ。それに引き換え、はるかに多数の死者数を出してきたインフルエンザにおいては、毎年のように、学校、幼稚園、保育園を中心にクラスターが多発している。

例えば、東京都感染症情報センターの報告によれば、2018-19年に東京都内で発生し、臨時休校になったり保健所に報告されたりしたインフルエンザの集団感染事例は、小学校1,807件、中学校454件、高校75件。保育園、幼稚園、医療機関などを合わせて全体で4,575件だ。2017-18年は全体で5,298件、2016-17年は4,363件にものぼる。他にも学校では、感染力が極めて強い麻しんや、ノロウイルスなどの流行が何度も起きていたはずだ。だが、フェイスシールドを装着させるようなことなどなかった。

自治体や教育委員会は、あまりにも「新型コロナが怖い」という感情だけに引きずられて、冷静な判断はもとより、去年までどうだったかということすら忘れてしまったのだろうか。実態と解離した「感染対策」を子どもに強いて、「安心・安全」などと標榜するのは、事実やデータよりも感情にとらわれた末に「やってる感」をイメージ的に演出したいという大人のエゴイズムであり、それは、責任逃れの体質から生まれるものではないかと私は思っている。

「アフター・コロナ」とは、コロナ以前のことを忘却して、トンデモを乱発するという意味なのだろうか。大人ならば、事実、実態に即した冷静な判断で、社会を健全に引っ張っていきたい。

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オオカミ少女に気をつけろ!

嘘、デマ、フェイク、陰謀論、巧妙なステマに情報規制……。混乱と不自由さが増すネット界に、泉美木蘭がバンザイ突撃。右往左往しながら“ほんとうらしきもの”を探す真っ向ルポ。

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泉美木蘭

昭和52年三重県生まれ、作家、ライター。日々、愛しさと切なさと後ろめたさに苛まれている不道徳者。社交的と思わせて人見知り。日頃はシャッターをおろして新聞受けから世間を覗いている。趣味は合気道、ラテンDJ、三浦大知。

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