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オオカミ少女に気をつけろ!

2020.11.13 更新 ツイート

「20ミクロン以下の飛沫に対する効果は限定的」…正直モヤモヤしたままのマスクの話 泉美木蘭

政府の新型コロナウイルス対策分科会の尾身茂会長が、11月9日に記者会見のなかで、現在、北海道などの寒冷地で感染が広がっていることに触れ、「気候が感染の広がりに関連する要素はあるが、それ以上に、それぞれの人の行動を変えることが感染拡大を防ぐために重要になってくる」と述べた。

 

私はこの「行動を変える」という言葉が本当に不愉快で、ストレスに感じている。インフルエンザの流行時のような、手洗いやうがいなどの基本的な対策を心掛けましょうという注意喚起なら自然に受け入れられるが、「新しい行動様式」などと称して、人の正面に立って話すな、食事中は料理に集中しろ、通販を利用しろ、キャッシュレス決済しろなど、本来は個人が考えて個人の判断として行うはずのことにまで口を出されても、とても順応できない。それに、そんな計画された「行動変容」に慣らされるのは危険だとも感じるのだ。

政府や政府関係の専門家の言うままに「人の行動を変える」ということは、つまりは「政府が国民の自然な行動を制限する、自由を奪うことに賛成する」ということだ。しかも、日本の場合は、強制でもないのにみずから従うべきだという空気が作られ、「自粛警察」や「マスク警察」のように勝手に自由の剥奪を代行する人間も現れるのだからすごい。ここは中国でも北朝鮮でもない、個人の自由も尊厳も人権も認められている日本で、「リベラル」と名乗る思想信条を持つ人々だって大勢いたはずなのに、こうも易々と個人の領域に踏み込んでもいいということに流れてしまったのが、恐ろしいと思う。

(写真:iStock.com/Okusana Chaun)

このように、新型コロナ対策に異を唱えると、「お前は専門家ではないくせに」という苦情のメールが個人ブログ経由で届いたりするのだが、では、そもそも専門家が間違ったことを言っていた場合は、一体どうなるのだろうかと疑問がわく。

専門家と言っても本当にさまざまな意見があるのに、何を根拠に、一つの意見を無条件で信じるべきだという態度をとるのだろう? 日本には「忖度」の空気が、官僚のみならず企業にも学術界にもあると思うが、もしその「忖度」のために正常な批判が起きていなかったらどうなってしまうのだろう? それに、一人の専門家においても、徹頭徹尾、正しいことのみを発言しているとは限らないのだし、その真逆だって当然あると思う。

例えば、私は、政府分科会・尾身会長が過去に、ワクチンについて「安全性および有効性の両面で理想的なワクチンが開発される保証はない」と述べ、国民やマスコミの過度な期待に警鐘を鳴らしたのはとても冷静だと感じ、その通りだなと思って聞いていた。同じく、アメリカのファイザー社が開発中のワクチンについて「臨床試験で9割以上に予防効果がみられた」というニュースが駆け巡った11月10日、東京都医師会の尾崎治夫会長が「欧米人に打って安全性に問題ないと言われているが、どの程度の副反応が出ているのかもはっきりしない」「9割にどういう効果があったのかも分からないうちから『これは素晴らしい、ぜひ打ちたい』とは早計に言う話ではないのではないか」と懸念を示したのも、非常に冷静だなと思った。

しかし、その東京都医師会・尾崎会長が、7月30日に、アイボに自身のピースサインの写真を撮らせたあと、記者会見で「このままでは日本全体がどんどんどんどん感染の火だるまに陥っていく」と言って、法的拘束力のある補償を伴う休業要請を出すべきだと主張しているのを見たときは、「無症状者ばかり見つけ出して、この真夏に熱中症で倒れた重症者のほうが多いのに、一体どこが感染の火だるまなの?」と首をかしげたし、店というものはそれぞれランニングコストも利益率も負債もまるきり違うのに、どうやってそれぞれの補償額を法的に定められるというのか、その財源はどこにあるのか、まったく非常識なことを堂々と言ってしまう人がいるものだと思いながら聞いていた。

そして、今回の政府分科会・尾身会長の記者会見では、マスクの着用について、「会食時に、食べるときだけマスクを外し、会話をするときはマスクをする」という提言があり、ギョッとした。尾身会長は、右手で箸を持って、左手でマスクを外し、右耳にマスクをつるしたまま口に食べ物を入れ、飲み込んだらまたマスクをするという動作をしてみせたのだが、私は「うわ、汚い……」と引いてしまった。

YouTubeより https://youtu.be/k55jvP4e0BY?t=1076 ←衝撃の「マスク食い」の指導場面はこのあたりから

神奈川県の黒岩祐治知事が提唱している食べ方らしいが、こんなことをしていたら、マスクの内側が食べカスや油やソースなどでベタベタになるし、口のまわりもぐちゃぐちゃになって、不衛生きわまりないと思う。食事というのは、「食べ物を食道に運ぶ作業」などではなく、香りを楽しむこと、そのときの情景、お洒落をして、席を囲むことで向き合って語れること、それらを含めた「食文化」でもあるのに、こんな不潔で異様な食べ方を発表できる思考回路がよくわからない。

専門家というのは、「感染対策」のみを頭のなかで組み立てるあまり、いとも簡単に常識を踏み外して、変なことをやらかす「専門バカ」になってしまうのだなとしみじみ思ったのだった。

 

そもそも、マスクについては本当に不思議に思うことがある。「マスク、マスク」と長期にわたって着用が呼び掛けられ、飛行機を降ろされたり、傷害事件が起きたりする事態にもなっているが、日本人はほとんどの人が猛暑のなかでもマスクをしていたし、自転車をこいでいるときでも、たった一人で車を運転しているときでも、生真面目にマスクをしている人が街にはあふれている。

それでも現実には、新型コロナは人々の間を感染しつづけていて、はっきり言って「マスクなんておかまいなし」という状態にしか見えないのだが、専門家の間には、マスクの着用率と感染者の増減の確実な相関関係を証明するようなデータが存在しているのだろうか?

欧州では、ロックダウンして、マスクを義務化し、本物の警察官が人々に手錠をかけてでもマスクをつけさせるという状態に陥った国がいくつもあるが、それらの国でもまったく感染はおさまっていないのだから、不思議でならない。

日本では、理化学研究所がスパコン「富岳」を使って、まるでエクトプラズム現象のような飛沫のシミュレーション映像を何パターンも公開しているが、この結果にしても、「マスクを着用することで、飛沫の拡散を7~8割防ぐ効果がある」ということまでしか言えていない。2020年8月24日に記者勉強会で配布された資料によれば、不織布マスクで鼻まで覆った場合でも、隙間や、マスクの表面から飛沫が漏れ出ているというデータとともに、フェイスシールドで顔を覆った場合も「50ミクロン以上の大きな飛沫については捕集効果は見込めるが、効果は限定的である。エアロゾルについてはほぼ漏れている」と書かれている。

「室内環境におけるウイルス飛沫感染の予測とその対策」(2020.8.24記者勉強会配布資料)より。フェイスシールド内が地獄絵図にしか見えない。

さらに、現状で最新のものである2020年10月13日の配布資料には、マスクの感染防止効果についてさらなる検証が行われているが、ここには「マスクあり」で「吸う・吐く・吸う」の6秒間の呼吸を行った場合、「マスクを着用することで上気道に入る飛沫数を3分の1にすることができる。特に大きな飛沫については侵入をブロックする効果が高い。ただし20ミクロン以下の小さな飛沫に対する効果は限定的であり、マスクをしていない場合とほぼ同数の飛沫が、気管奥にまで達する」と書かれているのだ。

「室内環境におけるウイルス飛沫感染の予測とその対策」(2020.10.13記者勉強会配布資料)より

これには驚いてしまった。「飛沫」というのは、咳やくしゃみをした時に目に見えるようなつばきのことだけではなく、医学的には「5ミクロン以上のもの」とされており、数多の感染症対策マニュアル、医師の執筆した文書などにそう書かれている。そこに、0.1ミクロンの新型コロナウイルスが含まれているというのが大前提なのだ。

ところが「富岳」は、5ミクロンよりはるかに大きな20ミクロン以下の飛沫が、マスクをしていても気管奥にまで達するという計算結果を弾き出している。つまり「マスクをしていても、マスクをしていない時と同じように感染する」ということになってしまうのである。

マスクをしていても漏れているし、マスクをしていても吸い込んでいる。一体、なんのために「マスク、マスク」と圧力をかけられているのだろう? どこまで正しい解釈が専門家からなされているのだろう? 腑に落ちないことばかりだ。

 

メディアには日々さまざまな専門家が登場し、発言しているが、「専門家」とは一体どういうものなのかということを冷静に考えたい。「テレビに出ているから」正しいのか?「政府に起用されているから」正しいのか?「専門家」という肩書ゆえに正しいのか?

テレビに登場する人物だけが専門家ではないし、その専門家の意見が学術機関・研究者の総意というわけでもない。科学者にも医者にもさまざまな意見を持つ人々がいて、なかには日本の新型コロナ対策は間違っているという意見や、マスクには意味はないという意見もあるのだが、そういった意見の専門家には、まったくスポットが当たらない。

誰かの発言をすべて妄信したり、反対に気に入らない意見をすべてを排除したりして「0か100か」と短絡的に決めつけるのではなく、個々の話を聞いて、それらを参考にしながら、最終的には、自分の体感や自分の常識と合わせて考えてみて、どのように行動するかを自分で決める。それが本来の大人の姿だと思う。個人の判断の結果ならば、「心配だからマスクをしておこう」と考える人もいて自然だし、そうでない人もいて自然なのだ。それが多様性を認める寛容な人間社会だとも思っている。

*   *   *

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コメント

yuki  「20ミクロン以下の飛沫に対する効果は限定的」…正直モヤモヤしたままのマスクの話|オオカミ少女に気をつけろ!|泉美木蘭 - 幻冬舎plus https://t.co/lExUW64jSk 4日前 replyretweetfavorite

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嘘、デマ、フェイク、陰謀論、巧妙なステマに情報規制……。混乱と不自由さが増すネット界に、泉美木蘭がバンザイ突撃。右往左往しながら“ほんとうらしきもの”を探す真っ向ルポ。

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泉美木蘭

昭和52年三重県生まれ、作家、ライター。日々、愛しさと切なさと後ろめたさに苛まれている不道徳者。社交的と思わせて人見知り。日頃はシャッターをおろして新聞受けから世間を覗いている。趣味は合気道、ラテンDJ、三浦大知。

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