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オオカミ少女に気をつけろ! ~欲望と世論とフェイクニュース

2019.03.13 更新

SNSにハマっていった私のイタい体験記 Final

ツイッターよ、さようなら。憂うつで虚しい退会記泉美木蘭

「SNSにハマっていった私のイタい体験記」を初めから読む
 

東日本大震災の取材を通して、福島県内の避難所を訪ねるなど現地の方々と交流が増えていった私(前回参照)は、「原発」という大問題に強い関心を持つようになっていた。原発作業の最前線施設や除染作業の様子、汚染土の管理所など現場を見てまわるなどし、東京に戻ると反原発デモの様子を取材したりした。取材を通じて震災ドキュメントを撮影していた映画監督の方と知り合い、映画の上映会を手伝ったりもした。

 

(写真:iStock.com/Katjaaa)

絡んでくる「ネトウヨさん」には当初、同情していたのだが…

そんな中、私は書いたブログや記事の宣伝、映画の告知なども含めてツイッターで震災関連の投稿をつづけていたが、つくづくストレスを感じるようになっていた。現地の取材で得た話や、現場の写真などを添えた「ちょっとした現場報告」は、「これは知るべき」という雰囲気でどんどんリツイートされて広まったりするのだが、原発に関する「考え」や政治に対する「意見」を書くと、どこの誰ともわからぬ人が、突然まったく意味不明な罵詈雑言を送りつけてくるのだ。

関心がなくて無視するとか、言い方が未熟だったので指摘するというのはわかるし、意見に対して違う意見を返すというのもとてもわかるが、「バカ発見www」だの「このブスwww」だのなんだのわけのわからぬ嘲笑が飛んでくる。どうやら「『脱原発』を言う女」がとにかく嫌いな人々がいるらしかった。

 

のちに「反民主党・反朝日新聞・反脱原発・嫌韓嫌中」などの“右翼的”思考パッケージがあり、それらをネット上で主張する「ネトウヨ」という人々がいると知った。「そんなネトネトしてウヨウヨと虫がわいてるみたいな気色悪いネーミングが存在するなんて、ネットの世界ってやっぱり不気味だな」と思ったが、自分もそのネットの世界にはまっている一人であり、レディ・ガガを使って「半ガガ・増フォロワー」(前々回参照)のみを考える「ネトガガ」の道を踏んでしまった後なので、最初は「ネトウヨさんって、なんだか淋しくて、誰かに相手してほしくてネット依存しているような、孤独でかわいそうな人なんだろうな」と同情する気持ちも半分あった。

芋づる式に発生するネトウヨに嫌気がさす

社会問題についてたびたび自分の考えを書いたり、自分が賛同できる意見のものをリツイートしたりするようになると、ネトウヨ的な誹謗中傷はどんどん増えていった。なかには、意見とは全く関係のない私のプライベートをほじくって嘲笑するものもあった。そしてやはり、ネトウヨはウヨウヨつるんでいるらしく、一人が絡んでくると、芋づる式にほかのネトウヨが絡んできたりもした。

 

 

フェイスブックのアプリが実はスマホ周辺の音声を盗聴していたなんていうニュースがあったが、もしも「ツイッターで他人を誹謗中傷している時の顔」がスマホやPCのカメラに潜むアプリによって盗撮されていて、それが一気に流出したら、どれほど油断したオカシな顔写真がネット上に溢れることだろう。

道でレディ・ガガの恰好をした人がふらふら歩いていたら「えっ」と二度見するか、スマホで写真を撮るかという程度だと思うが、道ですれ違った赤の他人をいきなり「このブスwww」と誹謗中傷する奴がいたら、それは事件発生の第一歩になり、人々から「オカシイ奴がいるぞ」「あいつか。変な顔つきだな」「警察呼んだほうがいいか?」などジロジロ見られて警戒されるものだと思う。どうもネトウヨというのはそういった客観性=「常識の視線」に欠けており、常に油断しているらしい。

なにをやっても「こいつオカシイな」という視線を浴びることがなく、自分を軌道修正させる機会がない。それどころか、SNSにはそれに同調したり援護射撃したりする「同じオカシイ穴のムジナ」のような仲間が集ってしまう。そして非常識でオカシイ感性は、その仲間内でまるで市民権を得たかのように錯覚し、ますます増長・肥大化してゆく。すると、普通の人からは避けられる。ますますオカシクなる。そんな非常識のスパイラルにはまっている人が増えているように思う。

 

140文字のツイッターの世界には、「議論」も「話し合い」も成立しているとは思えなくなり、なにより面倒くさくなって、自分の意見はブログなどに長文で書くだけにして、ツイッターは遊びと告知に使うだけと決めた。ところが、時がたつにつれて、この「遊び」もできなくなってしまった。

世の中の万人に配慮して冗談書けます??……そして離脱

その頃、暮らしていたアパートの隣の部屋で、たびたび若い同棲カップルの喧嘩が勃発するようになっていた。原因はわからないが、いつも「ヒギャアアアアッ!」という金切り声が聞こえると同時に、「あんたなんかーっ!」「いい加減にしてよーっ!」と女の罵声とともにいろんな物が投げつけられまくる音が聞こえ、そして女が「死んでやるううう! 死んでやるからあああ!」という大声とともに部屋を出てゆき、男が追いかけるというパターンだった。派手な喧嘩だが、男が連れ戻す時にはすっかり仲直りしており、翌日には楽しそうに部屋を出ていく声が聞こえたり、手をつないで歩いているのを見かけたりもする。色白で大人しそうな美女と、気弱そうだが優しい顔をした男のカップルだった。

その晩もいつものようにカップルの喧嘩がはじまった。ガシャーン、ドタンバタンと物音がして、数分すると、水戸黄門の印籠よろしく、「死んでやるううう!」が聞こえ、ドアの開閉、走り去る音。ああ、これで今日の喧嘩は終わりだなと思い、ツイッターにこう書いた。

 

《隣の喧嘩が今日も終わった。いつものパターンで、女がヒステリーを起こして『死んでやるー!』と叫んで玄関を飛び出してゆき、男が追い掛ける――いっぺんぐらい男のほうから先に『死にますか?』ってドア開けてやるパターンにも挑戦してほしい》

 

カップルがまもなく仲直りして帰ってくるのがわかっている状況で、単に自分の頭のなかで浮かんだジョークみたいなものを書いたに過ぎない。ところが、たまたまこれを読んだらしいどこの誰ともわからぬ女性が、突如として私を攻撃してきた。

 

《死にたがっている女性に、よく平気で死ねと言えますね》

《死にたい気持ちと葛藤しながら、引き留めてくれる何かが欲しい…そんな綱渡りの心境に苦しむ人間の気持ちがわからないんですか!? よくそんな無神経な発言ができますね。信じられない!》

 

ええ……!? 「死ね」なんて言ってないのに。この女性のツイッターを見に行くと、プロフィール欄にうつ病や神経症など精神障害の経歴、飲んでいる処方薬の名前などが羅列されていた。みるみるうちに女性のフォロワーたちがコメントにコメントを重ねていく。

 

《鬱病患者を殺す気ですかね。『死にたい』という声が聞こえているのに、死ねなんてどこまで冷酷なんでしょうね》

《女性が死んだら、責任とれるんでしょうか?》

《考えられません。女性の気持ちを思うと胸が苦しい。発作を起こしそう》

《人に生死に関わる問題を、酷い。しかしツイッターは鬼畜のような人間がいる場所だから》

 

やーめーてーー! もともとの私のジョークを最大限誤読して、そしてその誤読をもとにガンガン攻め言葉が重なり、最終的に私は「鬼畜」に……。これはなにをどう書いても泥沼にしかならないと思い、一切反応しないでおいた。日常風景を冗談めかしただけでこんなことになってしまうなんて。ついにツイッターには楽しいと思えることが何一つなくなった。どこの誰がどんな誤読をかましたり、どんな境遇を勝手に重ねて文句を言ってくるかわからないと思うと、気軽に冗談を書こうという気も失せてしまったし、そんな事態を乗り越えてまで「ツイッターをする自由」なんて必要ない。

それでも一応告知をする場所は持っておきたいと思い、しばらくはブログの新着記事や、イベントの出演告知をするために使っていたが、それではさすがに何の面白みもなく、反応する人もいなかった。いよいよ無意味になり、私はツイッターを退会したのだった。

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オオカミ少女に気をつけろ! ~欲望と世論とフェイクニュース

嘘、デマ、フェイク、陰謀論、巧妙なステマに情報規制……。混乱と不自由さが増すネット界に、泉美木蘭がバンザイ突撃。右往左往しながら“ほんとうらしきもの”を探す真っ向ルポ。

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泉美木蘭

昭和52年三重県生まれ、作家、ライター。日々、愛しさと切なさと後ろめたさに苛まれている不道徳者。社交的と思わせて人見知り。日頃はシャッターをおろして新聞受けから世間を覗いている。趣味は合気道、ラテンDJ、三浦大知。

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