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オオカミ少女に気をつけろ! ~欲望と世論とフェイクニュース

2019.02.28 更新

SNSにはまっていった私のイタい体験記(5)

フォロワー獲得の努力に飽きた頃、震災がきた泉美木蘭

「SNSにはまっていった私のイタい体験記(1)〜(4)」を初回から読む

 

「1万7000人!?  こんなにもすごい数の人が、きみに注目しているのか! すごいじゃないか! 愛されているんだなあ!」

最初の頃は身のまわりでツイッターを利用している人はほとんどいなかったが、時を追うごとに増え続け、メディアでもたびたび話題にのぼるようになっていった。「最近ツイッターをはじめてみたんだ」という60代会社経営者の男性は、私がマニアックすぎる方法で無意味なフォロワーを増やした実態など知る由もなく、「1万7000人」という数にただただ驚愕するばかりだった。

 

「彼女は、泉美木蘭さん。大変な著名人なんだよ。ツイッターでは2万人ぐらいの人が彼女の発言に注目しているんだ」

「ほおお! それはそれは、お会いできて光栄です。最近の世情にはすっかり疎いものでして、なにも存じ上げず大変失礼をいたしました」

 

経営者仲間に誇大に紹介されて、過剰に丁重な挨拶までされてしまい、顔から火が出る思いだった。いち早く忘れてもらえるようにと、「名刺を切らしておりまして」とごまかした。同時に、この状態を恥ずかしく思えなくなったら、そのとき私は立派な詐欺師に変貌しているのではないかとも思った。

 

お金を出してでもフォロワーを買いたい人がいるなら、私の努力も商売にすればよかった

ツイッターのフォロワー数に威力を感じる人はやはり多く、特に企業などはイメージや「信頼性」に直結するという面(錯覚にすぎないと私は思うが)もあり、需要に応じてフォロワーを金で販売する業者も存在する。日本最大級とされるフォロワー・アカウント販売サイト『ツイッターズ』の商品メニューによると、「アニメ・写真アイコンの日本人フォロワー:2000人/価格11,000円、納期11日」「外国人フォロワー:300人/価格6000円、納期4日」(いずれも返品不可)。

 

フォロワー・アカウント販売サイト『ツイッターズ』。インスタグラムのフォロワーや『いいね』、Youtubeの再生回数、チャンネル登録者数なども購入することができる。

外国人300人で6000円? 私、「レディ・ガガ商法(前回参照)」で少なくとも7000人、自力で外国人を増やしたんだから、単純計算で14万円ぐらいの仕事をしたってこと? ああ、あのトチ狂った努力をこういう商売に変換していれば、いまごろ“ツイッター成り上がり”としてかなり余裕のある生活を送っていたのでは……なんて薄っすら考えてしまう。

 

 

ちなみに、『ツイッターズ』では、ツイッターフォロワーのほか「10万人へリツイート/価格3000円」「日本人ツイッターからの『いいね』300個/価格5400円、納期10分後~24時間以内」「Youtube再生回数10万回/56,500円、納期7日」など、SNS上で求められるニッチな商品が多数用意されているようだ。3000円で10万人へリツイートされるとは、「虚構」はずいぶんお財布に優しい価格で手軽に販売されている。

 

大震災で正気に戻る

さて、レディ・ガガ商法によって、ほぼコミュニケーション不能な外国人たちとガンガンフォローしあっているうちに、私はすっかり英語スラングや英語顔文字満載のEnglish Twitter userに変貌していたが、それもたちまちのうちに飽きてしまった。

一体、なにが楽しくてこんなことをやっているのか、自分でもよくわからない。面白いネタを思いついても、所詮、英語では凝った言い回しで表現することができないし、そもそも見知らぬ外国人フォロワー達をネタで楽しませたいとも思えない。文化も日常生活もまるで違うのに、なにをどんな感覚で笑わせられるんだ?

それに大体――すごくいまさらだが――フォロワーを増やしたところでなにがどうなるというのだろう。「そういうゲーム」と思えばコツコツ続けられるのかもしれないが、私にはゲームの趣味もない。血迷ったものの、もうつまらない。ああ、仲の良い友人3人だけで身内ネタを披露しあってゲラゲラ笑っていた「ミクシィ」が懐かしい……。

 

こうしてすっかりツイッターへの興味を失くした頃に起きたのが、2011年3月11日、あの東日本大震災だった。電話回線が不通になり、連絡手段としてインターネットが役立ち、大勢の人がツイッターなどSNSを使って家族や友人らと連絡を取り合い、また、避難先やけが人の情報を伝え合ったというのは周知の事実だ。

電話がつながらず心配する田舎の両親とEメールでやりとりをしつつ、テレビで津波被害や原発の状況に注視しながらツイッターで個々の情報を見ていると、日本人は震災の話題で一色、そして外国人は、誰がはじめたのか「pray for Japan(日本のために祈ろう)」という文言であふれていた。少し前の私ならば、外国人に向かって感謝の言葉と、震災の説明を英語で書き綴っていそうなものだが、こんな状態になっては、祈りより体力と食料のほうが必要だと思った。あまりに圧倒的な非常事態を目の当たりにして、私の脳にはぼんやりとした暇つぶしを欲する部分は一回路もなくなり、シナプスというシナプスに電気信号が駆け巡っていた。

 

ツイッターで被災者と連絡を取り、取材に向かう。連絡ツールに

そう言えば、よくコメントをくれていたフォロワーのなかに、仙台に住んでいるという女性がいた。彼女は無事だろうか。同年代で、私の本を買って読んでくれていて、きっちりとした感想を送ってくれていたので、親しみを持って名前を覚え、何度かやりとりしていたのだ。

気になって彼女のツイッターを見てみると、幸いにも怪我なく無事だったようだが、勤務先から帰宅できなくなり、避難所でひとり不安に過ごしている様子が書き込まれていた。最初は淡々と状況を説明していたが、時間が経つと少しずつ感情があふれてくるようで、文章も変化していった。お見舞いのメールを送ると、精神的にも体力的にもかなりつらいという言葉と、避難所の状況を説明する返事があった。混乱のなか、配られる食料はわずか、女性ならではの困った事態も起きているようだ。

スマホのバッテリーを不要に使わせては悪いと思い、その後しばらく静観することにしたが、彼女はそれからたびたび、困っていること、足りていないもの、徐々にうつろう被災者の心境などを細やかにツイッターに書き込んでいく。報道と合わせて注目せずにはいられず、そして、これはもうパソコンにはりついていたのではダメだと思い至った私は、原発の状況などが刻々と報じられて騒然としていた2011年3月末、登山リュックに寝袋と着替えと非常食、バッテリーなどを詰めるだけ詰めてバスに乗り込み、まずは仙台へと取材に向かったのだった。

 

それから数か月間、東京と東北を往復しながら取材をつづけることになるのだが、時折、現場の様子をツイッターに投稿しては、それを見た被災地の読者の人から情報を受け、時には連絡先が送られてきて、避難所を訪ねたりもした。そこで知り合った人から、また情報を得たりもした。いま思えば、「ツイッターで連絡を取り合っていたなんて」と危険性を思わなくもないし、平常時ではとても考えられないが、全員が被災状況を次々と発信しているという非常事態の中にあって、「日本人同士」という信頼が大きく物を言って人々があちこちで結びついて助け合っていたように思う。

ただ、女性が歩道を歩いていたら、他県から車でやってきたボランティアの人に、「良かったら送りますから乗って下さい」と声をかけられたという話を2度聞いた。親切心だとは思うが怖かった、と。それは私も怖いし危険だと思う。

朝日新聞で連載された「木蘭@東北 縁をつむぐ」では、ツイッターで連絡を取り合って取材した被災者の人々を紹介。人は変貌し、そしてツイッターの使い方も突然変わるのである。

 

のちにこの時の取材の様子を連載した朝日新聞『木蘭@東北 縁をつむぐ』では、ツイッターで最初に連絡を取り合った被災地の女性が、「まさか、こんな芸風の人が来るなんて」と語ってくれている。

そりゃそうだろう。この頃の私は、とにかく取材することに必死で、ツイッターのアイコンは、レディ・ガガの体に自分の顔を合成した「半ガガ人アイコン」(前回を参照)のままだった。「半ガガ人アイコン」の人が気仙沼市役所を訪れて物資提供の模様を報じたり、「半ガガ人アイコン」の人が南三陸町長の定例会見でメモをとり、いち早く情報を流したり、「半ガガ人アイコン」の人が原発30km付近で硬派なブログ記事を書いたりするのだから、ツイッターって不思議なサービスだ。

なにしろ、私のツイッターは、またもや振り切れまくって変貌した。フォロワー数増やしに素っ頓狂な実力を発揮していた私は、血道を上げているようで、惰眠をむさぼっていただけだったと気が付いた。そしてそれは、「ツイッターのせい」ではないと思う。
 

(次回へ続く)

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オオカミ少女に気をつけろ! ~欲望と世論とフェイクニュース

嘘、デマ、フェイク、陰謀論、巧妙なステマに情報規制……。混乱と不自由さが増すネット界に、泉美木蘭がバンザイ突撃。右往左往しながら“ほんとうらしきもの”を探す真っ向ルポ。

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泉美木蘭

昭和52年三重県生まれ、作家、ライター。日々、愛しさと切なさと後ろめたさに苛まれている不道徳者。社交的と思わせて人見知り。日頃はシャッターをおろして新聞受けから世間を覗いている。趣味は合気道、ラテンDJ、三浦大知。

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