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カラス屋、カラスを食べる

2018.12.29 更新 ツイート

代々木公園はなぜ「カラスの聖地」なの? カラス研究者・松原始先生に聞いてみた【前編】夏生さえり

4000羽を超えるカラスが明治神宮で眠っている

▲見上げるとたくさんのカラスがいました

あらためて見てみると、代々木公園にはこんなにカラスがいるんですね。じっくり見たことがないので気づきませんでした。

 

はい。隣の明治神宮が、カラスの“ねぐら”なんです。4000羽を超えるカラスが、明治神宮で眠っているんです。朝は餌を取りに出かけ、日が暮れるまではこのあたりで過ごしています。

 

集団で眠る、ねぐらがあるんですね。

 

そう、でも個々のカラスが寝る場所はちょこちょこ変わる、と考えられています。餌を取るための集団も、すぐに組み変わってしまうようですね。

カラスって、付和雷同なんですよ(笑)。何羽かが移動すると、なんとなくそれについていく。でも、ついていかない何羽かを見て、「あれ? じゃあ俺もやめる」「じゃあ俺も」という感じで戻ってくる。それを見て、先に移動したカラスも「え、じゃあ俺も」と戻ってきちゃう(笑)。右見て、左見て、ようやく決めるって感じなんですよ。

 

意外と優柔不断なんですね。

 

1羽が水浴びをはじめれば皆もやってきたり、1羽が土をガサガサ漁っていると、なにをやっているのかわからないくせに同じようなことをはじめたりします。「よくわかんないけど行列をみたら何かいいことがあるのかな」って並んじゃう人たちと同じですね。

 

なんだか、かわいい。まわりをよく見ているんですね。

▲地面にいるカラスを見て、続々と集まってきた。

なわばりに他のカラスが入ることは許されない

 

どのカラスも必ずどこかのねぐらで眠るんでしょうか?

 

いえ、若い時は“ねぐら”で寝るのですが、そのうちペアになると“なわばり”を作るようになります。繁殖のためになわばりをつくり、巣もその中にあります。なわばりの大きさは1ペアにつき、300m四方くらいでしょうか。ゴミステーションがあったり、飲食店があったりして、餌をとるのに困らないくらいのスペースを確保しています。そこには他のカラスが入ることは許されないんです。

 

えっ、入ることも許されないんですか?

 

はい。高度をうんとあげればOKですが、高度が低ければ通過もダメです。入ったら、ものすごく怒られて、ときには追いかけられることもあります。

▲上空で遊んでいるカラス。喧嘩になると、血を流すことも。

じゃあ、カラスには「入っちゃいけないゾーン」がたくさんあるということですか?

 

そうです。カラスの目でみると東京って、自由に入れる地面なんてほとんどないんですよ。しかも、子どもを育てている時期だけではなく、1年中ですからね。

 

でもさっきからこの公園には自由にカラスが出入りしていますが……。

 

あぁ、公園にはなわばりがないんです。いわゆる“フリーゾーン”と言いますか。ここにいるのはすべて「繁殖する前の独身カラス」ばかりです。ねぐらの近くで、みんなでタムロしている感じです。たとえば原宿の竹下通りのように、若い人がうじゃうじゃいて騒がしいところには人間も家を建てないですよね。それと同じで、環境が悪いからペアのなわばりはないんですよ。

 

カラスにもフリーゾーンが! なわばりを、カラスたちはどうやって把握しているんですか?

 

「目に見える線」で区切っていることが多いです。たとえば、川の堤防、道路、橋、ビル……。「このビルから、あそこの道路まで」とか「川沿いからあの店まで」という感じです。僕たちが調べるときには、喧嘩した場所をプロットしていくのですが、だいたいは航空写真に映るような「目で見てわかるもの」を目印にしているようですね。

 

カラスの卵はチョコミント色

 

ということは、東京のいたるところに卵を隠した巣があるってことですよね。

 

いっぱいありますよ。上手に隠しているのでなかなか見つかりませんが、丸ビルの真ん前とか、ハチ公の上とかにもありますよ。ハチ公の真上に木がありますよね。あそこのヒナは、今年はきちんと巣立ちまでしていました。

 

ハチ公の上にも!? いつも通っていますが、巣なんて見つけたことありませんでした。

 

よく見ると見つけられるときがあります。巣はだいたい、針金や枝で作られています。街中で一番よく見るのは、ワイヤーハンガーをつかった巣ですね。どこかのベランダからパクってきているのでしょう(笑)。かかっているシャツなどを振り落として、ハンガーだけ持って行くんです。もしベランダに服だけが落ちていれば、カラスの仕業ですね。

 

知らなかった……。そしてその針金の巣の中には、卵があるわけですね。

 

あ、ちなみに、カラスの卵は白ではないんですよ。青ないしはオリーブ色。それに柄がつき、見た目はチョコミントアイスそのものです。

 

▲これがカラスの卵。

独身の気楽さはカラスも同じ

 

それだけ厳しいなわばり意識があるなら、新しいなわばりを見つけるのも大変そうですね。

 

そうですね。彼らはこういう群れの中でペアを見つけ、なわばりを探しにいくんです。

でも、東京はなわばりだらけ。「ここ、空いているかな?」と降りてみると怒られる、という繰り返しです。なので、ちょっと空いているところがあったらねじ込むとか、1羽が死んで手薄になっているところを奪い取るとか、そんな風にしてなわばりを作ります。

 

1羽死んでも、そこに住み続けているんですか?

 

オス1羽であればなわばりを守れますが、メス1羽だと戦闘力が足りずに奪われることもあります。奪われないために、婿を迎えることもあるようですね。

基本的にカラスは一夫一妻制なのですが、「押掛け女房」が観察された例もあります。2羽目のメスが押しかけてきて、本妻がそれを黙認していたと。それで3羽を住んでいたんです。そのうち本妻の方が死んでしまい……論文を読んでいて、なんだか2時間ドラマみたいだな、と思いました(笑)。

 

今見えているカラスたちにもドラマがありそうな気がしてきました……一度ペアになると死ぬまで一緒ですか?

 

離婚したかなっていうのも見たことがありますが、基本的には一緒ですね。どうやら、ペアを得るのもたぶんそんなに簡単じゃないみたいです。

▲優雅に飛ぶこのカラスも、おそらく独身。

なるほど……独身カラスは縄張りをゲットするまではぶらぶら暮らし、その後は家族を守るために必死になる、と。

 

はい。街中の独身カラスは餌にすごく恵まれているので、朝のうちに食事をして、あとはおやつ程度につまみ、時折「遊び」のような姿を見せながら日が暮れるまで暮らしていますね。家族ができるとそうはいかないですからね。

 

(独身の気楽さは人間と一緒なんだなぁ……)。
 

 

* * *


前編はここまで。後編は明日12月30日公開です!

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松原始『カラス屋、カラスを食べる 動物行動学者の愛と大ぼうけん』

カラス屋の朝は早い。日が昇る前に動き出し、カラスの朝飯(=新宿歌舞伎町の生ゴミ)を観察する。気づけば半径10mに19羽ものカラス。餌を投げれば一斉に頭をこちらに向ける。俺はまるでカラス使いだ。学会でハンガリーに行っても頭の中はカラス一色。地方のカフェに「ワタリガラス(世界一大きく稀少)がいる」と聞けば道も店の名も聞かずに飛び出していく。餓死したカラスの冷凍肉を研究室で食らい、もっと旨く食うにはと調理法を考える。生物学者のクレイジーな日常から、動物の愛らしい生き方が見えてくる!

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カラス屋、カラスを食べる

カラスを愛しカラスに愛された松原始先生が、フィールドワークという名の「大ぼうけん」を綴ります。「カラスの肉は生ゴミ味!?」「カラスは女子供をバカにする!?」クレイジーな日常を覗けば、カラスの、そして動物たちの愛らしい生き様が見えてきます。

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夏生さえり

山口県生まれ。フリーライター。大学卒業後、出版社に入社。その後はWeb編集者として勤務し、2016年4月に独立。Twitterの恋愛妄想ツイートが話題となり、フォロワー数は合計15万人を突破(月間閲覧数1500万回以上)。難しいことをやわらかくすること、人の心の動きを描きだすこと、何気ない日常にストーリーを生み出すことが得意。好きなものは、雨とやわらかい言葉とあたたかな紅茶。著書に『今日は、自分を甘やかす』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『口説き文句は決めている』(クラーケン)、共著に『今年の春は、とびきり素敵な春にするってさっき決めた』(PHP研究所)がある。Twitter @N908Sa

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