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カラス屋、カラスを食べる

2019.02.20 更新

東京都心にハシブトガラスが多い理由松原始

なにかを一途に愛するのは、そう簡単なことじゃない――カラスを研究しつづけて25年。東京大学総合博物館の松原先生が、その知られざる研究風景をつづった『カラス屋、カラスを食べる 動物学者の愛と大ぼうけん 』から一部をご紹介します。愛らしい動物たちとの、ちょっぴりクレイジーなお付き合いをご賞味ください。
京都から新宿へ降り立った若き日の松原先生。カラスを求めて次に向かったのは…?

▲歌舞伎町の次はいよいよ聖地に(写真:iStock.com/theendup)

カラス朝ごはんタイム終了

靖国通り近くで、前方からグオーンという音が聞こえて来た。ゴミ回収車にゴミを詰め込んでいる。しまった、早く見ないとカラスのお食事時間が終わってしまう。

通りに出ると、目の前を回収車が走り去るところだった。周辺の電線や看板に5、6羽のハシブトガラスが止まり、「カア」「カア」と声を上げている。次の瞬間、1羽、2羽、3羽……と次々にカラスが飛び立ち、まだ残ったゴミを求めて歌舞伎町に飛び込んで行く。

私もその後を追って走る。仕事上がりの派手めなお姉さんやお兄さんたち、一晩じゅう過ごしたらしい酔客、ちょっとヤバそうな人たち、様々な人が歌舞伎町から新宿駅に向かって歩いて来る。それに逆行して、カラス屋が歌舞伎町の奥へと向かう。

ああ……ダメだ、このへんもゴミがなくなっている。カラスたちはビルの窓に影を映しながら通りを飛び抜け、ビルの上に止まって嘴を磨いている。もうお食事タイムは終了、休憩時間になってきたのだ。

さらに30分ほどあたりをうろついたが、さて、カラスも大方引き上げたようだし、自分の飯を考えねば。この時間だから閉まっているが、この面白そうな店は沖縄料理なのか。次は開いている時間に来てゴーヤーチャンプルー定食食ってみようか……え、950円?! そんなに高いの? じゃあソーキそばにしたいが、これも800円もするのか。安い沖縄そばは650円だけど、あまりにシンプルだ。ならばせっかく東京に来た記念に、東京タワーから飛び降りる覚悟で950円出して定食にするか。

まあ、貧乏学生の金銭感覚はこんなものである。

ちなみにこの店は今もある。のみならず隣にも店を広げたようだ。店の名誉のために言っておくが、定食は確実に、値段以上の価値がある。

代々木公園はハシブトガラスの聖地

新宿駅から山手線に乗って、原宿へ。もちろん原宿に用があるわけではない(今は東京に住んでいるが、「東京の右半分」の住民としては、やはり原宿には縁がない)。お目当ては竹下通りの反対側、代々木公園である。

代々木公園でカラスの「ラインセンサス」をやる。ラインセンサスというのは、決まったルートを歩きながら、両側25メートル以内(あるいは50メートル以内)に出現する鳥を記録する調査法だ。出現するのは当然、ハシブトガラスばかりだ。山手線の内側には、まずハシボソガラスはいない。ここはハシブトガラスの聖地なのだ。

ハシブトガラスはハシボソガラスよりも樹上が好きだ。そして、木の上から餌を発見すると下りて来る。ハシボソガラスは地面を歩きながら草むらを覗き込んだり、落ち葉をかきわけたりして餌を探すのが得意だ。だが、都会のような、ゴミ漁あさりが採餌の中心となる場所では、ハシボソガラスの細やかな採餌行動は、特にメリットがない。

一方、ハシブトガラスはハシボソガラスよりも少し大きく、攻撃的なので、ゴミを見つければ独占できる。結果として、カラスが都市部でゴミに依存すればするほど、ハシブト有利になる。これが、東京都心にハシブトガラスが多い理由だ。

公園を歩きながら、ハシブトガラスを探す。地上/高所の比率を見ると、高所が圧倒的に多いものの、京都よりは若干、地上が多いかもしれない。地上に滞在する機会が多いのか。そのまま、カラスの地上滞在時間、歩数などをノートに書き付けて行く。

代々木公園はランナーでいっぱいだ。外国人の若いパパが、赤ん坊を乗せたバギーを押しながらジョギングしてゆく。その横のトイレで、ホームレスのおっちゃんが歯を磨いている。芝生に片かた膝ひざをついてカラスを観察していると、時折、地面が震動するのに気付く。地下鉄が通るたびに土が震えているのだ。

この公園では、いろいろなものが接しながらすれ違って行く。

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関連書籍

松原始『カラス屋、カラスを食べる 動物行動学者の愛と大ぼうけん』

カラス屋の朝は早い。日が昇る前に動き出し、カラスの朝飯(=新宿歌舞伎町の生ゴミ)を観察する。気づけば半径10mに19羽ものカラス。餌を投げれば一斉に頭をこちらに向ける。俺はまるでカラス使いだ。学会でハンガリーに行っても頭の中はカラス一色。地方のカフェに「ワタリガラス(世界一大きく稀少)がいる」と聞けば道も店の名も聞かずに飛び出していく。餓死したカラスの冷凍肉を研究室で食らい、もっと旨く食うにはと調理法を考える。生物学者のクレイジーな日常から、動物の愛らしい生き方が見えてくる!

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カラス屋、カラスを食べる

カラスを愛しカラスに愛された松原始先生が、フィールドワークという名の「大ぼうけん」を綴ります。「カラスの肉は生ゴミ味!?」「カラスは女子供をバカにする!?」クレイジーな日常を覗けば、カラスの、そして動物たちの愛らしい生き様が見えてきます。

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松原始 動物行動学者。東京大学総合研究博物館勤務。

1969年、奈良県生まれ。京都大学理学部卒業。同大学院理学研究科博士課程修了。京都大学理学博士。専門は動物行動学。東京大学総合研究博物館勤務。研究テーマはカラスの生態、および行動と進化。著書に『カラスの教科書』(講談社文庫)、『カラスの補習授業』(雷鳥社)、『カラス屋の双眼鏡』(ハルキ文庫)、『カラスと京都』(旅するミシン店)、監修書に『カラスのひみつ(楽しい調べ学習シリーズ)』(PHP研究所)、『にっぽんのカラス』(カンゼン)等がある。

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