
定年退職後に長野県安曇野市に移住した、元『装苑』編集長の德田民子さん。初のエッセイ『80歳、私らしいシンプルライフ』では、四季のはっきりした安曇野での暮らしやおしゃれの工夫、毎日をごきげんに過ごす秘訣など、80歳を迎えた德田さんの心豊かな日々をご紹介しています。本書より、一部をお届けします。
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足りないものをどうするか。好きなものをどう使うか。あれこれアイデアを考えるから面白い
移住前に、田舎暮らしに合わないもの、不要なものは整理し、同時に田舎暮らしに合ったものを揃える準備をしていきました。マッチ箱のように装飾のないシンプルな家です。家具については、あまり最初からここに置こうと、用途や配置場所を決めずに、ゆるく夫婦で相談しながら好きなものを揃えていきました。自然素材や手触りのいいもの、自分たち好みの味のあるビンテージのもの。本当に感覚的にですが、16年たった今でも、どれも変わらずスタメンとして活躍し続けています。
例えば、ミシン仕事をするコーナー脇のブルーの木のオープン棚や、オーディオセットを置いているテーブル棚、電話を置いている小さな机と黒板など。移住前の週末になると、ビンテージショップを夫と巡って、意見が一致するものを探し、揃えていきました。引っ越し後に家具をどこに置いてどう活用しようとか、あれこれ考えはしましたが、全部、自分たちが「いいな」と思ったものだから、迷うことなく楽しみながら配置していきました。このテーブル棚にオーディオセットを置いてみたらかわいいね、という風に。ダイニングテーブルを囲む木の椅子も、あえて不揃いなビンテージの椅子だったりします。
そう、用途に応じてものを揃えると、ものがどうしても増えてしまいませんか。私たちの場合、まず好きなものであることを優先し、どうそれを活用するかは後付け。そうしたことが、実はけっこう多いんですよね。また、使ってみると、ほかの用途を思いついたり、別のアイデアも浮かんできたりします。例えば、台車の上にパソコンやコピー機を置いています。「好き」から入ると、ものの用途に余白というか、いろんな可能性が生まれます。
また、移住したばかりの頃は、都会のショップでないと手に入れられないものがまだまだたくさんありました。安曇野ですと、近くても車で30分ほどかかる松本市などに行かないと買えない不便さがありました。ここ数年のうちに安曇野にも大きなショッピングモールや無印良品の大型ショップなどができて、昔ほど不便ではありません。ただ、移住当初の、身近にあるものをいかに活用して楽しく暮らすか、というアイデアや知恵を絞ることは、振り返れば大事なことだったかもしれません。
移住してまもなく、夫が庭先のススキを冬に刈り取り、タコ糸でくくったミニほうきを手作りしました。ご近所にもお渡ししたら好評で、今でも毎年のように手作りしています。このほうきは、我が家ではちょうど土間の隅の掃き掃除にぴったりなんです。身近な素材で必要なものを手作りすることはとても面白い。ものを増やさずに今あるもので工夫して暮らしの不便さを解消すれば、毎日がより楽しく充実したものになります。

中央右が庭先のすすきから、その左は庭先のほうきの木から。
80歳、私らしいシンプルライフ

定年退職後に長野県安曇野市に移住した、元『装苑』編集長の德田民子さん。初のエッセイ『80歳、私らしいシンプルライフ』が8月6日に発売となりました。本書より、試し読み記事をお届けします。