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#こんな時だからこそ読みたい本 幻冬舎社員リレー

2020.05.14 公開 ツイート

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真似できないファンキーさに胸が熱くなる!ヤバい3冊。(第1編集局・袖山満一子) 幻冬舎編集部

19人目は、第一編集局の袖山満一子より。

*   *   *

不穏な日々が続く中、不安や不信感をバーンと跳ね飛ばすような、強くて潔い存在を欲している。その前で、「参った! 最高!」と両手を挙げて笑顔で降参したい。

そこで、私が胸アツになって胸キュンして、降参した3作。

3人に共通しているのは、「命」に対して、過剰な湿っぽさで語るような“感動ポルノ”感がないところ。無闇にたかぶったり盛り上がったりしないし、大げさな感動もしない。みんな生きるし、死ぬのだ。だから、どんな存在とも常に対等。

で、一番の共通点は、ユーモアだ。ユーモアって、知性そのものだなあとしみじみ思う。

 

 

まず、最近どハマりした『ハイパーハードボイルドグルメリポート』

著者はテレビ東京のディレクター。足を踏み入れたら絶対ヤバいよ、マジでやめたほうがいいよ! ってところばかりわざわざ探して行って、「今日、何食べるか見せて」と言う。で、分けてもらって食べる。「食べるもの」に絶対的にこだわる。食べるものに“人間の芯”が見えることに、びっくりする。

たとえば、大量に人を殺してきた元少年兵(人を喰ったともいわれてる)が、いま廃墟に住んで何を食べてるか想像がつきますか?(リベリア) 悪臭・異臭に満ちた世界最大のゴミ山に住んでる人が、どういう寝床で寝起きし、どこで食料を調達してるかイメージ湧きますか?(ケニア) グーグルマップにも出てこないツンドラの真ん中で、カルト宗教の村人(映画『ミッドサマー』を私は浮かべちゃったんだけど)がどんな生活をしてるか考えたことありますか?(ロシア)

著者は、そこにグイグイ入っていく。次第に、「他人の私的な部分に入っていくことは、失礼じゃなくて敬意の表示なのかも」…って思えてくる。聞かないほうが相手に失礼なのかも、と。結果的に、対象者は、”繊細に図々しい”著者にちょっとずつ心を許す。

ちなみに、上出さんのスタンスを表している一文がこれだ。

死ななくてよかったーーそう思った。なんとか生き抜いてほしいと思った。無責任だけど、そう思う以外に僕に何ができるというのだろう。

とにかく上出さんの文章がめちゃくちゃいいので、同タイトルの番組だけ見てる人にもおススメ。番組とは全く違う世界、もっとディープでダーティでデンジャラスな世界が書かれている。

そうそう、私はGoogle Earthを見ながらこれを読んだ。聞いたこともない土地に飛んでゾクゾクしたし、私の居場所は守られてるなあとしみじみ思った。ロシアのカルト宗教の村は、見つからなかった。

『ハイパー~』の激しさとは真逆の、画家・熊谷守一の静かなエッセイ『へたも絵のうち』

熊谷守一は、晩年「30年間、家から一歩も出なかった」と言われている。コロナでステイホームが叫ばれて、そういえば…と奥から出してきた。

このエッセイの最後の結びが、これだ。ヤバすぎる。

私はだから、誰が相手にしてくれなくとも、石ころ一つとでも十分に暮らせます。石ころをじっとながめているだけで、何日も何月も暮らせます。監獄に入って、いちばん楽々と生きていける人間は、広い世の中、この私かもしれません。

守一が毎日寝転がっていたという数坪の庭は、もはや宇宙だ。

本書は、日経新聞に連載されたもので、彼の語りを文章にしている。幼少期のこと、芸大生時代のことから、没落して田舎で過酷な貧乏生活をしたことなんかも書かれていて、閉じこもりの晩年に関する分量は多くないが、どの時代でも、熊谷守一は熊谷守一だ。彼のファンキーさに、ひたすらキュンキュンする。いちいち、言うことがカッコいい。

これを読めば何十年も家から出ない秘訣が見いだせるかと思ったけど、彼のような深淵さがなければ無理だというのがよくわかった。

3つめ。写真家・幡野広志さんの人生相談『なんで僕に聞くんだろう。』

ガンを宣告された幡野さんのところに来る相談は、びっくりするようなものも多い。「風俗嬢を好きになった」「売春をやめられない」「虐待してるかも」「自殺したい」「家族を殺した犯人を許せない」……。答えにくい相談に、幡野さんがどう答えるかというと……

社会に出ると気づくことですが、学校の成績がいい人=仕事ができる人ではありません。磯野家の長男を想像してください、勉強できないことで学校でも家庭でも怒られてますが、要領が良くて、アタマがいいってああいう子のことです

ディスる感じになって申し訳ないのですが、ぼくは『うんこ漢字ドリル』が好きではありません。(中略)もちろん国語の成績は上がるかもしれません。でも社会に出たときに役立つのは漢字の記憶力よりも、文章の創造力です。うんこみたいな手紙やLINEでは彼女もできません、うんこではなく詩や文芸にふれたほうがいいです

ぼくに恋愛相談をするのは、野生のクマに恋愛相談することと大差を感じません。

ぼくはいつも、相談者さんの言葉しか読んでいませんし、相談者さんにしか言葉を向けていません。なのにたまーーに、自分のことをいわれたと勘違いして、憤慨しながら自分語りする人もいるのですが、マジで知ったこっちゃないですよ。ガン患者とはおもえない指さばきでブロックします

失敗をさせないことが、子どもの人生を壊す行為だとぼくはおもいます。子どものためをおもってのことかもしれないけれど、とてもやさしい虐待です。

すごくないですか。シリアス100%から、シリアス8%くらいまで、自由自在

実は、私なんかだと、つい感動ポルノ気分で同情しちゃうような相談もある。けれど、幡野さんの回答を読むと、その浅はかさにハッとする。

つい腹が立ってしまう相談もある。でも、幡野さんは、優しく、厳しく、そして可愛く(!)「“出た釘の部分だけ”、”危険だから”、叩く」ので、読み手にとっては欲求不満解消というか、爽快感が残る。この「出た釘の部分だけ」ってのが大事。「出てない部分の釘」はちゃんと認めて、抱擁するんだな幡野さんは。

世の中に絶対的正解なんてないのかもしれないけど、「ここあるのは、間違いなく正解だ」と思った3冊でした。

 

上出遼平『ハイパーハードボイルドグルメリポート』

「ヤバい世界のヤバい奴らは何食ってんだ!?」「食の現場にすべてが凝縮されている」 テレ東深夜の単発番組としてスタートしながら、“他じゃ絶対にありえない"その内容で視聴者に衝撃を生んだ人気番組が書籍化。 人食い少年兵・マフィア・カルト教団……。 何が正義で何が悪か、“ヤバい"と“ふつう"の境界線とは―――。 数多の危険と困難を乗り越えた先の取材で、「食」を通じて描かれる世界のリアルとは。

 

 

熊谷守一『へたも絵のうち』

朝起きて奥さんと碁を打ち昼寝して絵を描いて寝る―。こんな日課がもう何十年も続く。その絵が「天狗の落とし礼」と呼ばれた超俗の画家から紡ぎ出された思い出の数々。やわらかさのなかに鋭く光る、物の核心を見つめる確かな眼差し。日本経済新聞社1971年刊の再刊。

 

 

幡野広志『なんで僕に聞くんだろう。』

ガンになった写真家になぜかみんな、人生相談をした。恋の悩み、病気の悩み、人生の悩み。どんな悩みを抱える人でも、きっと背中を押してもらえる。webメディア・cakes史上最も読まれた連載の書籍化!!

 

 

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