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現代アートは本当にわからないのか?

2019.12.14 更新 ツイート

宇宙につながる「鏡と窓」――東京都写真美術館「至近距離の宇宙 日本の新進作家 vol.16」村上由鶴

齋藤陽道《星の情景》〈せかいさがし〉より 2019年 発色現像方式印画

 

こんにちは!
TOP MUSEUM(東京都写真美術館)で開催中の「至近距離の宇宙 日本の新進作家 vol.16」展を見てきました。

突然ですが、こちらの山の写真をご覧ください。

 

濱田祐史〈Primal Mountain〉より 2011-2019年 発色現像方式印画

 

ごつごつした山肌。断崖絶壁。光が強く当たっていることから、かなり太陽が近そう。標高が高く、険しい山に見えます。
風景写真には、その現場まで足を運んだ写真家自身のガッツも写り込んでしまうもの。きっとこの写真家も、危険を乗り越えてここまでたどりついたのでしょう。

……と、大げさに見ることもできますが、実はこれは、作者の濱田祐史が自らアルミ箔で作った架空の山。〈Primal Mountain〉は、空を背景にその山を撮影した作品です。わたしたち鑑賞者は、この作品のなかで写真の「切り取る」力や、わたしたちの持つ「山に対するイメージ」が出会うことで、単なるアルミ箔のとんがりに、荒々しい大自然を見出してしまったことに気付かされる、というわけです。
一本とられた気分ですね!

今回の「至近距離の宇宙」展では、このように身近なものや親しみのある対象をジャンプ台にして、宇宙や生命といった大きな問いにアクセスする作品が多数展示されています。
本展で見ることができる写真たちは、いわば即・宇宙へと続く「窓」のようなものであり、わたしたちの生命を映し出す「鏡」のようなものなのです。

さて、濱田の作品が「窓」だとすれば、「鏡」のように写真を用いたのが、藤安淳の作品です。
往年の写真家たちの作品にも繰り返し登場してきた「双子」というモチーフに対して、自身も双子である藤安は、双子を1組で同じ画面におさめることはせず、1人1枚撮影することをルールとしているそう。これは、双子を「組」としてではなく、きちんと個人として扱いたい/扱われたいという思いが投影された作品だといえるでしょう。

 

藤安淳〈empathize〉より 2011年 発色現像方式印画

 

さて、このように写真を「鏡と窓」というふうに区分することを考えたのは、MoMA(ニューヨーク近代美術館)で1962年から1991年まで写真部長をしていたジョン・シャーカフスキーでした。彼は「写真とはなにか?」を考え、それを展覧会の構成によって表現してきた人で、彼が作り上げた「写真とは〇〇である」という考え方はいまでも写真芸術のなかに脈々と受け継がれています。1978年に彼がディレクションした「鏡と窓」展は、まさに写真を「鏡と窓」に分ける考え方を打ち出した展覧会でした。

とはいえ、「至近距離の宇宙」展の写真に見出すことができる「鏡と窓」が、かつてシャーカフスキーが唱えた「鏡と窓」と同じ、というわけではありません。

1978年の「鏡と窓」展における分類での「窓」的な写真は、報道写真に代表されるような、外の世界へ飛び出した写真家がある出来事に立ち会うことで撮られた写真であり、一方の「鏡」的な写真は、自己を探求し表現する写真とされていました。

しかし、1978年から現在2019年までの間に、写真とわたしたちの関係は大きく変わりました。例えば、スマホを持ち歩く現代のわたしたちのてのひらには、鏡と窓がいつもある。つまり、この展示を見る2019年のわたしたちは、1978年よりも明らかに過剰に「鏡」や「窓」としての写真に日々接しています。

こうした写真とわたしたちの関係の変化を経て、「至近距離の宇宙」展の写真家たちは、被写体での分類だけでなく、「どのように写真(術)を使うか?」という方法までを含む「鏡と窓」を展開します。それが、現代の写真家としての矜持なのかも。

例えば相川勝は、シャーカフスキーと同じように、「写真とはなにか」を問いながら写真と向き合っている作家のひとりです。
彼は今回、カメラを用いず、印画紙の上に物体を直接置いて感光させ、その物体の影を写す「フォトグラム」という手法を用いています。

相川はこの手法にアレンジを加え、「乳剤を塗ったパネルにビデオゲーム内の風景をプロジェクターを光源にして当てる作品」や、「AIが生成した架空の人物の顔写真をiPadに表示させ、そのまま物体と光源を兼ねて印画紙の上に置く」といった、実在しないものを、写真を通して可視化するような作品を発表しています。

 

相川勝〈landscape〉より 2019年 木製パネルにゼラチン・シルバー・プリント

 

刑事ドラマなどで、監視カメラの画像が証拠としてバーンと叩きつけられるシーンがあります。写真にはこのような「証明」の効果があるのです。
相川が行った一連の行為はまるで、存在しないものを写真術を通して存在させるマジックのよう。
あるいは、ビデオゲームのなかに広がる世界や、AIが生み出す顔という無限の可能性にアクセスできる「窓」の作品といえるかもしれません。

また、普段は立体作品やインスタレーションを発表している八木良太の作品が写真の文脈で展示されているのも、今回の展覧会のみどころ。「自分の隣の人は、自分と同じ世界を見ているはず」という考えが錯覚であり、思い込みにすぎないということに気付かされます。写真の枠を飛び越えて、わたしたちの持つ「知覚する能力」そのものを知覚することができる作品は、「知覚を映す鏡」といえるかもしれません。

 

八木良太《On the Retina(E1),(Y),(E2)》〈On the Retina〉より 2019年 発色現像方式印画

 

ここまで展覧会の作品を「鏡と窓」に分けながら振り返りましたが、もちろんすべての写真や作品をバッツリ「鏡」か「窓」かに分類することはできません。
例えば、出生直後の新生児の目と丹念に向き合い記録した井上佐由紀の〈私は初めてみた光を覚えていない〉は、タイトルを見ると作者の光にまつわる経験を反映した鏡のようにも思えますが、実際の作品からは、まさに新生児の目が宇宙に向かってわずかに開かれた窓なのだということが感じられます。つまり、彼女の作品は「鏡であり、窓でもある」ともいえるわけです。確かに窓って鏡にもなるもんね!

 

井上佐由紀〈私は初めてみた光を覚えていない〉より  2014/2019年 発色現像方式印画

 

「至近距離の宇宙 日本の新進作家 vol.16」は、2020年1月26日まで!
この展覧会は、映像や写真の新たな表現に取り組む日本の若手作家を紹介する「日本の新進作家」展の第16回目。今回紹介されているみなさんは国内外で大活躍中です。お気に入りの作家を見つけて、これからの活動にもぜひ注目してみてください。

ググればすぐに何にでもアクセスできる現代、写真術を通して宇宙や生命とつながる体験は、いまだからこその写真の喜びといえるのではないでしょうか!
1月2日、3日、21日はなんと無料で見られるそうですよ。
ぜひ足を運んでみてください。ではまた!

 

至近距離の宇宙 日本の新進作家 vol.16
Close-up Universe: Contemporary Japanese Photography vol.16

会期:2019年11月30日(土) - 2020年1月26日(日)
休館日:月曜日(1月13日は開館、14日は休館)、12月29日 - 1月1日
開館時間:10:00 – 18:00(木・金は20:00まで、1月2日・3日は18:00まで)
*入館は閉館の30分前まで
会場:東京都写真美術館 2階展示室(東京都目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内)
料金:一般 700円/学生 600円/中高生・65歳以上 500円
*1月2日・3日は無料/1月21日(火)は開館記念日のため無料
電話:03-3280-0099
web:https://topmuseum.jp

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