1. Home
  2. 社会・教養
  3. 現代アートは本当にわからないのか?
  4. 「STARS展」を最大限に楽しむ5つのポ...

現代アートは本当にわからないのか?

2020.09.23 更新 ツイート

「STARS展」を最大限に楽しむ5つのポイント #現代アート入門の秋 村上由鶴

村上隆
展示風景:「STARS展:現代美術のスターたち―日本から世界へ」森美術館(東京)2020年 
撮影:高山幸三 画像提供:森美術館

こんにちは!
今回は「入門の秋」特集ということで、「現代アートを楽しむための5つのポイント」という視点から、森美術館で開催中の「STARS展」をご紹介します。
現代アートはときに、ぱっと見るだけではなにを伝えたいのかわからないことがとてもとても多く、わたしもしょっちゅう美術館で混乱させられています。ですが、いくつかのポイントをおさえることで、その作品の意味が大きく広がって見えることもあるのです。

「STARS展」を構成する、日本が世界に誇る6人の現代アートのスーパースターがなぜ超重要アーティストなのか?ということをひもときながら、現代アートのおもしろがり方を提案していきたいと思います!

→「入門の秋」特集の他の記事も読む

 

ポイント1 「不快!」だからこそ意味がある

今回の「STARS展」のトップバッターである村上隆は、最近ではYouTuberのヒカキン氏が作品を購入したり、ビリー・アイリッシュとコラボレーションしたりと、話題がつきない人気アーティスト。SNSでは、アベノマスクをリメイクしたレインボーのお花マスクが女子高生の間で大人気となりましたが、かつては「なんだこの不快なアートは!」とか「下手くそ!」などと、めちゃくちゃに批判されてきました。

 

そんな彼を現代アートのスーパースターにのし上がらせたのは、まさにオタク文化を象徴するフィギュアを等身大にしたことで批判を浴びた立体作品です。等身大になったフィギュアは、それが高度な技術で精巧に作られていることに加え、性的な欲求を喚起するものであることを強調します。

とくに《ヒロポン》や《マイ・ロンサム・カウボーイ》は過剰に性的で、エロというよりもはやグロ。でも、このグロテスクさを不快に思うことこそが、これらの作品を見るときのポイントです。彼のこのような一見して激烈な反応を引き起こすような作風は、もともとは子ども向けと理解されているアニメに大人が夢中になり、性的な消費がおこなわれている日本独特のオタク文化のいびつさを、視覚的に表現しているといえるでしょう。

村上隆《ヒロポン》(左)1997年 《マイ・ロンサム・カウボーイ》(右)1998年
展示風景:「STARS展:現代美術のスターたち―日本から世界へ」森美術館(東京)2020年 
撮影:高山幸三 画像提供:森美術館

「心地よく、美しいものこそアートだ」という考え方が根強い日本ではとくに、「なんでこんなに不快なの?」という疑問を巻き起こす表現に出会ったとき、その疑問こそが作品理解への近道になるなんてことがしばしば起こるのです。

ポイント2 見えないものに目を向ける

とはいえ現代美術を見ていると、怒りがわいてくるほどではないけど、なにがすごいかわからないという作品にもよく出会いますよね。ひょっとすると、今展では李禹煥(リ・ウファン)の作品にそう感じる人がいるかもしれません。
李禹煥は、韓国で生まれ日本を拠点に活躍するアーティスト。「もの派」という日本発の芸術運動を支える理論を構築しました。

李禹煥の展示室には丸石が敷かれ、他の部屋とはまったく違う雰囲気。唐突に置かれた大きな岩やステンレスの棒、そしてグラデーションの抽象絵画。静謐な空気が漂っていてなにやら高尚っぽいですが、「で、なにをどう見ればいいの?」と面食らってしまうかもしれません。
それもそのはず。他の作家たちが積極的に「描き、作ること」に取り組むのとは対象的に、李禹煥たちが行ったのは、作品に「作らない要素」を持ち込んだことだったから。つまり作品内に「見るものがない」という状態を作っていたと言えるのです。

たとえば、「STARS展」に出展されている作品《関係項》は、めちゃ重い岩を大きなガラスの板に置いて割った作品。ガラスに入ったひび割れは、たしかに人の力ではコントロールできない痕跡であり、目に見えない岩の重みを可視化しています。このように李禹煥の作品は、絵を書いたり彫刻を作ったりするのではなく、作りすぎないことによって「見えないものに目を向けさせるための装置」として機能するのです。

李禹煥《関係項》1969/2020 年
ガラス、石 サイズ可変
展示風景:「STARS展:現代美術のスターたち―日本から世界へ」森美術館(東京)2020年
撮影:高山幸三 画像提供:森美術館

もの派が試みたのは、岩のかたちや金属の棒のわずかなカーブなどの「物」の造形美を称賛するというよりは、言語的な意味を超えて「もの静か」な空間を満たす「もの(のあはれ)」の感性を伝達することでした。
だからわたしにとって李禹煥の作品は、日常普通に暮らしていると見えにくくなってしまう部分に意識を向けさせてくれるカーブミラーみたいなもの。彼の作品と対峙することは、「空気」「重さ」「時間」などといった目に見えないものがふっと感じられるようになる、瞑想のような経験なのです。

ポイント3 「てこの原理」で想像力を広げよう

見えないものに目を向けるカーブミラー的な役割をするのが李禹煥の作品であった一方で、現代アートは鑑賞者の想像力を広げる「てこ」の役割を担うこともあります。

宮島達男は、LEDのデジタルカウンターを使った表現でよく知られていますが、彼の作品もまた「え?どこがすごいの?」と思われがちかもしれません。
宮島は、ランダムにカウントされる数字が水中にゆらめく《時の海》などの作品を通して、ひとりひとりの異なる生が無数に存在すること、そして、それがふと失われてしまう可能性を示してきました。たとえば東日本大震災の発生時や、昨今の新型コロナウイルスの感染拡大のなかでは、死は「数字」として表れ、わたしたちを日に日に鈍感にさせています。

宮島達男《「時の海—東北」プロジェクト(2020 東京)》2020年
防水LED、電線、集積回路、水 サイズ可変
展示風景:「STARS展:現代美術のスターたち―日本から世界へ」森美術館(東京)2020年
撮影:高山幸三 画像提供:森美術館

しかし、宮島が用いる「数字のカウント」という非常にシンプルな機械の動きは、人間の「生と死」や、わたしたちの想像を超えるようなとっっっっても長い時間という大きなテーマを表現しうるもの。
つまり、宮島の作品では、数字が単なる数字以上の意味をもって、巨大なものを想起させる「てこの原理」が働いているように思います。現代アートでは、このようにシンプルな手立てで大きなテーマを表現する「てこの原理」的な方法をとった作品が高く評価される傾向にあるのです。

この「てこの原理」は、草間彌生の作品を見るときにぜひ役立ててほしいポイント。草間彌生は、水玉や網で一面覆われた絵画や、男根を模してソフトスカルプチャーで覆われた立体作品で知られますが、これらの作品では「無限」や「増殖」、「反復」がテーマになってきました。

草間彌生
展示風景:「STARS展:現代美術のスターたち―日本から世界へ」森美術館(東京)2020年 
撮影:高山幸三 画像提供:森美術館

彼女は、幼少期から病気が見せる幻覚や幻聴の恐怖に抗うために作品を作り、ニューヨークで活動していた1960年代には水玉や網などの代表的な作風を確立させています。実は表現方法も多岐にわたり、「ハプニング」と呼ばれるパフォーマンスでは全身に水玉を描き、背景の水玉と同化することで擬似的な「自己消滅」を試みています。

だから、草間作品と対峙するときには、草間と同じように「無限」のなかに没入してみるのがおすすめ。一枚の絵画、そのなかのひとつの水玉や網の目から、草間が幻覚のなかに見たかもしれない「無限」を感じること。これもまた、作品の細部や一枚から、それよりも大きなものの広がりを想起させる点で、現代アート的「てこの原理」と言えるでしょう。

ポイント4 作家が使うトリックにだまされてみる

杉本博司は、写真を使ったコンセプチュアル・アーティスト。今回の「STARS展」では、彼の最も重要な作品である「ジオラマシリーズ」から《シロクマ》が出展されています。

杉本博司《シロクマ》1976年
ゼラチン・シルバー・プリント 42.3×54.6 cm
所蔵:大林コレクション

この《シロクマ》、一見すると「動物写真家が北極で撮ったのかな?」と思わせるような写真ですが、実はニューヨークの自然史博物館のジオラマを撮影したもの。実際は動いていないジオラマが、動かない映像である「写真」になることによってまるで生きているかのように見えてしまう。これは、写真というメディアに対して多くの人たちが持つ「真実を写す」という印象を逆手にとった表現といえるでしょう。

また写真は、一瞬を凍結させるメディアであることから、たびたび「死」と結びつけて語られてきました。かつては、「写真機(カメラ)に撮られると魂をぬかれるぞ!」なんてことを言われたほど。しかしこの作品では、もとから「死んでいる」ジオラマが、写真を介することで、そこに生きているように見える。写真(カメラ)は逆に、生命を与えるものとして機能しているのです。

このように、わたしたちが作品に対して抱く第一印象を「裏切る」のも、アーティストが使うトリックのひとつ。作品解説を読むと思いもよらなかった素材や制作手法を用いていることがわかって、「やられた!」という驚きと感動に出会うことができるかも。そういう意味では、いったんだまされてみるのも現代アートの楽しみ方といえそうです。

ポイント5 素朴に圧倒されるだけでもいい!

ここまで、「作品と対峙したとき、どのように考えるか?」という視点でポイントを挙げてきましたが、「考える」前に、まずはその大きさや技術力に圧倒されてみることだって、十分現代アートを楽しんだといえます。

たとえば、村上隆の立体作品《阿像》《吽像》は、東日本大震災に応答した結果うまれた宗教的なモチーフを扱った作品のひとつ。長らくアニメ風の作品に対して「下手くそ!」などと批判を受けていた村上が、それを腕力で封じるかのごとく、近年の作品では持てる画力・造形力を文字通り最大級に発揮しています。批評的な意味を読み取ることもできますが、素朴に作品を見て「すごい!」と楽しめる作品ですね。

村上隆《阿像》《吽像》2014年
展示風景:「STARS展:現代美術のスターたち―日本から世界へ」森美術館(東京)2020年 
撮影:高山幸三 画像提供:森美術館

また、奈良美智の作品たちも、そんなアートの素朴な楽しみ方を提供してくれます。こちらをジロっとにらんでくるみたいな、かわいいけど少し不気味な女の子の絵画は、「こども」をモチーフにして無垢と残酷を表現したことや、サブカルチャーと現代アートを融合させたという点で高く評価されました。奈良が描く少女たちのアンビバレントな魅力は、不思議とわたしたちを惹きつけるのです。

奈良美智
展示風景:「STARS展:現代美術のスターたち―日本から世界へ」森美術館(東京)2020年
撮影:高山幸三 画像提供:森美術館

今回は「STARS展」を題材に、現代アート入門として鑑賞のポイントを5つご提案してきました! 見えないものに目を向けてみたり、だまされてみたり、不快な表現がなぜ不快なのか考えてみたり……。今回の6人の作品だけでもそれぞれの見方が必要で、一筋縄ではいかないなあと感じてしまうかもしれませんが、ここで提示したポイントは、他の現代アートの作品を見るときにも応用できるはず!

「STARS展」は、2021年1月まで開催中。感染症対策にも心を配りながらぜひ足を運んでみてください! ではまた!

 

STARS展:現代美術のスターたち―日本から世界へ
STARS: Six Contemporary Artists from Japan to the World

会期:2020年7月31日(金)- 2021年1月3日(日) 会期中無休
開館時間:10:00 - 22:00(火曜日のみ17:00まで、11月3日(火・祝)は22:00まで/入場は閉館の30分前まで)
会場:森美術館(東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー53階)
料金:一般2000円/学生(高校・大学生)1300円/子供(4歳~中学生)700円/シニア(65歳以上)1700円
電話:03-5777-8600(ハローダイヤル)
web:https://www.mori.art.museum

※チケットのご購入の詳細は、ウェブサイトでご確認ください。

*   *   *

→ストアでも「入門の秋」特集を展開中です!

{ この記事をシェアする }

この記事を読んだ人へのおすすめ

幻冬舎plusでできること

  • 日々更新する多彩な連載が読める!

    日々更新する
    多彩な連載が読める!

  • 専用アプリなしで電子書籍が読める!

    専用アプリなしで
    電子書籍が読める!

  • おトクなポイントが貯まる・使える!

    おトクなポイントが
    貯まる・使える!

  • 会員限定イベントに参加できる!

    会員限定イベントに
    参加できる!

  • プレゼント抽選に応募できる!

    プレゼント抽選に
    応募できる!

無料!
会員登録はこちらから
無料会員特典について詳しくはこちら
PAGETOP