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現代アートは本当にわからないのか?

2020.05.09 更新 ツイート

3密が新しい贅沢になる?「密です!」なアート村上由鶴

緊急事態宣言が出されて1ヶ月。そしてさらに5月末まで延長となりました。
世界が同じウイルスへの対策をさまざまに講じるなか、日本では密閉・密集・密接の「3密」が独自の合言葉になっています。
諸外国が「ソーシャル・ディスタンスをとっていこうね」という行動要請であるのに対して、日本は「『3密』を避けよう!」という「禁止」の要請が標語になっているわけで、国民性が出てるなと思います。

さて、この1ヶ月のうちに、テレビ番組の再放送や映画、YouTubeの動画などで人が触れ合ったり、集まったりしているのを見て、「近くない?」「人多くない?」「密です!」と突っ込みそうになってしまう、不思議な身体感覚が身についちゃった人、多いのではないでしょうか。

というわけで、今回はいまだからこそ尊く思える「密です!」なアートをご紹介します。
本来作家が目指した意図とは異なっているけれど(だって誰もこんなの予想してなかったし)、「密(close)」を避けなければいけないいま、あらゆる美術作品はこれまでと違った響き方で、わたしたちを感動させてくれることでしょう。

 

 

まずはボストンの写真家、ペレ・キャスをご紹介します。

 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

One more from Mission Viejo (detail) Thanks to @victoryjournal @ssense

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アクロバティックな身体の動きが過剰に重なった、「密です!」な写真たち。スポーツシーンでのコマ撮り(連写)を、Photoshopを用いて合成したものです。
プロのスポーツカメラマンは、選手などを撮影するときにはカメラの連写モードを使うのが鉄則。キャスは、アスリートたちのプロフェッショナルな技を、アート作品に転じて見せているのです。

 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

Toronto Raptors at Atlanta, 2015 (detail).

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オリンピックが延期となった時勢とも重なり、「密」な「スポーツ」シーンは日本人が想い焦がれる風景かも……!

 

ベルリンを拠点に活動するジェレミー・ショウの《Best Minds》は、ストレート・エッジ・ムーブメント(ドラッグやアルコール、ニコチンの過剰摂取を批判するムーブメント)の若者たちが踊る様子をスローモーションで捉えた映像作品。

2012年頃、風営法の取締りが強化され、それまで朝まで踊れていたクラブが24時までしか営業できなくなるなんてことがありました(いまでは法改正によって、また朝まで踊れるようになったそう)。
当時クラブに遊びに行って踊っていたわたしは、この取締り強化の影響で仕方なく終電で帰った経験が……。ショウの映像作品を見て、踊れない国に住む日本の若者として、「ただ踊る」ことの喜びを感じたものです。

新型コロナウイルス関連では、感染者のなかにクラブやライブハウスの利用歴がある人がいたとして大きく報道されました。
たしかにクラブやライブハウスは「3密」が揃ってしまう環境。多くのお店が営業自粛を余儀なくされ、わたしたちは「踊る」ことから再び遠ざかっています。
いま、「ただ踊る」ことの喜びを全身で表現する若者たちの映像作品は、より切実なものとして映るのではないでしょうか。

 

そして、アーティヴィズムの実践のなかでいま象徴的に見えるのが、2017年、G20サミットに抗議するためにドイツで行われたゾンビ・プロテストです。
アーティヴィズムとは、アートとアクティビズムを合わせた造語。アーティストが政治や社会の変革を求めてデモや抗議活動に参画することを言います。

ゾンビ・プロテストは、普段は演劇をしている1000人の俳優が、全身に粘土を塗ってゾンビとなって街を歩くパフォーマンスを通した抗議活動です。パフォーマンスの最後には、ゾンビたちがグレーの上着を脱ぎ捨て、カラフルなインナー姿になって歓喜するのが印象的。

パフォーマンスのなかでゾンビが表現するのは、行きすぎた資本主義の下で利己的な利益追求と不寛容の思想で自分自身を汚染し、凝り固まってしまった人間や国家です。
最後にゾンビは汚染された皮膚を脱ぎ捨てて人間に戻り、抱き合って歓喜し、寛容さと思いやりを表現します。

ウイルスへの対応を巡る国家間の対立や、世界各地で広がる人種差別などを頻繁に目にするいま、ゾンビの姿にいろいろなものを投影してしまいます。
「喜んで抱き合う」ことができる日は果たして戻ってくるのでしょうか……。

 

最後にタイのアーティスト、リクリット・ティラヴァーニャの作品《untitled (free/still)》を紹介します。
こちらはアート・ギャラリーで「無料でタイカレーを振る舞う」という、ただそれだけの作品。

そのギャラリーには、普段のように絵や彫刻やダンスはなかったけれど、多くの人が集まり、談笑し、展示期間中は毎晩そのようなコミュニケーションが続いたのだそうです。
この作品については当時、美術批評家のニコラ・ブリオーが、「展示空間において特別に心を傾ける『対象』(典型的な美術作品)の代わりに、新たに鑑賞者と鑑賞者、そして鑑賞者と作品という『関係性』が生まれていることが新しい!」として評価しました。

さて、意識を現在の「3密自粛」状態へ戻すと、《untitled (free/still)》は、密閉・密集・密接なコミュニケーションを生む、感染リスクが高い作品ということになるでしょう。しかし、いまこの作品を見返すことで感じるのは、「3密」の贅沢さと尊さです。
この作品は「集(つど)って食べる」ことをギャラリーに持ち込むことで、素朴な行為の価値を転換しました。新型コロナの影響で世界のルールが変わったことで、図らずも、素朴だった行為に新しい意味が生まれてしまったといえるでしょう。

 

新型コロナウイルスに心身ともに揺さぶりをかけられまくっている人類、とくに日本のわたしたち。
しばらく「3密」はお預けですが、ご紹介した作品を見てみれば、この異常事態のなかで「密」が新たな意味を持つことに気づけるはず。
とりあえずまた1ヶ月、感染拡大を防ぐべく「3密」を回避して、手洗いうがいをしっかりしながら過ごしましょう。

あの素晴らしい「密」をもう一度! ではまた!

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