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オオカミ少女に気をつけろ! ~欲望と世論とフェイクニュース

2019.05.15 更新

詐欺に騙されやすい人=デマに踊らされがちな人?泉美木蘭

(写真:iStock.com/whyframestudio)

オレオレ詐欺、還付金詐欺、融資保証金詐欺、キャッシュカード騙し取り詐欺など特殊詐欺の新たな手口が、頻繁に報道されるようになって、もう何年経つだろう。これほど長期に渡って、電話音声や実際の被害手口が報道されているのに、一向に収まる様子はない。

警視庁発表によれば、平成30年中の特殊詐欺の認知件数は16,493件、被害総額は356.8億円、かなり深刻な状況にあるようだ。特に、親族をかたる「オレオレ詐欺」は平成15年ごろから目立ちはじめ、この15年間でかなり一般に知れ渡るようになったが、それでも平成30年の被害件数は前年比22.7%増の4,560件、被害額9.6億円以上となっている。
 

騙されやすさは年齢に関係ない

被害者のほとんどが高齢者だから、ワイドショーなどお昼の番組では、おじいちゃんおばあちゃんに語り掛けるような口調で、繰り返し注意喚起や防止法が解説されている。私自身「高齢になると目も耳も悪くなるし、注意力も判断力も鈍って、どうしても被害に遭いやすくなるんだろう。田舎の母も注意してやらないとな」と思いながら眺めていた。

最近では、NHKの番組アンケートをかたって、一人暮らしであることや、動ける体力があること、貯金が一定額以上であることなどを聞き出す「アポ電」の音声が公開されたが、80代の女性が見破って通報したというので、「80代なのに見破るなんて、凄いな」と感心する気持ちを持った。

 

 

だが、よくよく考えてみると、あの巧妙な電話には私だって簡単に騙される気がする。「NHKから電話だ」と思えば好奇心もうずくし、私なんかは「ネタを提供したい」という貪欲なサービス精神を持っているから、無駄にフレンドリーな会話をしてしまいそうだ。果たして、詐欺と気づいて警察に通報できるかどうかわからない。「80代なのに凄い」というのは、ずいぶん短絡的で失礼な感想だったんじゃないか? 

 

もちろん、詐欺師にとって認知能力や記憶力の低下した高齢者をターゲットにしやすいのは確かだろう。現金やカードを直接引き取りに現れるケースでは、仮に不信に思われても、相手が高齢者なら身体能力の差があるから有利だという思惑もあるに違いない。

しかし、やはり最近、「高齢者だから騙される」とは言えない報道があった。国民生活センターによせられた相談の内訳によれば、マルチ商法でお金を騙し取られるなどの相談件数は、20代の若者が全体の40%もの割合を占め、突出しているというのだ。(「必ず儲かる」借金し契約 マルチ商法、20代相談突出 朝日新聞 2019.5.11

オレオレ詐欺では、預金額が多く現金主義の高齢者がターゲットになりやすいが、マルチ商法では、社会経験や知識が乏しく、ローン契約等で使えるお金が一気に増える20代が狙われる。「騙されやすさ」「判断力のもろさ」は、年齢の問題ではなく、誰しもが持ちうる危うさだということだ。
 

私、マルチ商法に引っかかりかけました

こんなことばかり毎回書いてると、こいつどんだけ隙だらけの女なんだって感じがしてくるが、何を隠そう、私自身、大学生の頃に危うくマルチ商法に騙されそうになった体験がある。

大学生になってはじめて親元を離れた私は、最初のうちは何となく楽しそうだったバスケットボールの同好会に入って、長かった黒髪をパツパツに切って金髪にしたりして、「いえーい!」と我を忘れて遊んでいたが、もともと体育会系ではないからゲームにはついていけないし、メンバーと話も合わず、すぐに輪を離れてしまった。我に返ってみると私には友達もおらず、いつも一人で歩いている。バイトして、本を読んで、「ジャパネットたかた」で買ったパソコンでGIF動画を見ているぐらいだった。そのまま学生の身分として引きこもって生活していても別に何ら問題なかったと思うのだが、なんだかふわふわしてストイックに「学生」に徹することができなかったのが、私の隙だった。
 

尊敬する先生と知り合いだと言われて舞い上がる

ある日、キャンパス内で見知らぬ女性から声をかけられた。20代後半ぐらいだったろうか、おぼろげだがなにか世間話をした。私は自分からあれこれ質問するタイプではないから、相手が私のことを聞いてきたのだと思うが、小説家のS先生の講義をとっているというような話をしたら、女性は「私はS先生の知り合いなの」という風に答えた。それで急に「ええー、そうなんですか! 私、S先生の小説が好きで講義が毎回楽しみなんですよ」などと盛り上がり、女性から「面白い話があるし、友達がもうすぐ来るから、近くの店で話そう」と誘われるまま、大学からやや離れた場所にある喫茶店へ連れて行かれた。
 

いきなりカネと「未来の世界」の話をされる

結末が見えているから書いておくが、この女性はS先生の知り合いでもなんでもない。ただ自分に興味を持たせて信用させるために、言葉巧みに会話の中で私の日常をさぐっただけだ。

(写真:iStock.com/Anchiy)

喫茶店では、一番奥の壁際の席に座るように促され、女性はそこで「せっかく仲良くなったから、いい話を教えてあげる」と言ってバッグからA4の資料の束を取り出し、自分は「ホームページ」を売って年間600万円稼いでいると話し始めた。

今となっては、ブログもSNSもWordPressも当たり前に無料で使える時代だが、当時はまだそんなものは存在せず、骸骨がひょこひょこ動くだけのGIF画像を見て喜んでいたレベルで、大学生になって初めて「ジャパネットたかた」でデスクトップパソコンを買って、超低速のアナログ回線でネットに接続するのが普通だった私からすれば、「ホームページ」なんて海の向こうの特別なものに見えていた。

「自分のホームページが持てるって、すごいことだと思わない? まだ多くの人は気づいていないけど、これからの世界はホームページの時代になると言われているの。自分の名前のついたホームページを世界中に発信しながら、人にもホームページのスペースを売って儲けられるのよ。この指輪も、それで買ったの」

女性は、キラキラした太いプラチナの指輪を、チラリとこちらに見せた。
 

ワールドワイドな三文芝居に圧倒される

そこへ男性がやってきた。香水をぷんと香らせ、派手な柄のネクタイをしていて、女性と親しげに話しながら、テーブルの上に、ルイ・ヴィトンのモノグラム柄のアタッシュケースを置く。

(写真:iStock.com/g-stockstudio)

「遅れてごめん。昨日までローマだったんだよ。明後日からカリフォルニアさ」

「あらあ、忙しいわね。私、先週までサイパンで遊んでたのよ」

「いつも遊びっぱなしで羨ましいよ。お、その指輪いいね、ブルガリだな?」

「60万円ぐらいしたけど、思い切ったの。あら! そのロレックス、買ったの!? ずっと欲しいって言ってた500万ぐらいする、あれでしょ!?」

「うん。もうお気に入りだよ」

既にここから金の匂いをぷんぷん嗅がせる芝居がはじまっていた。田舎から出てきた私は、ルイ・ヴィトンのアタッシュケースなんて持ち歩くビジネスマンははじめて見たし、「ローマ」「カリフォルニア」「サイパン」と世界規模のキーワードが飛び交う会話に右往左往させられた。ブルガリだのロレックスだのやたらと貴金属を自慢しあっているのも、世界を飛び回るお金持ちはこんな会話をしているのか、と、不信に思う前にまず驚いて圧倒されてしまっていた。
 

喫茶店の奥で「すぐに儲かる」と詰められ、脳痺れる

男性はアタッシュケースから当時最新のノートパソコンを取り出すと、「これが今、世界に発信されている僕のホームページなんですよ」と言ってこちらに画面を向けた。

当時見せられたチンケなホームページの再現

 

こんなもんだったと思う。わかる、わかるのだ。いまならば! しかし当時は、大容量のネット回線も、高画質のデジカメも、動画もまだ存在せず、この程度のものでも「へえ!」と見上げられていたのだ。

男性は、私を誘い込んだ女性よりもランクが上らしく、かなり忙しいが年収まもなく2000万円に迫るところだと説明した。まず自分で1万5000円程度のホームページ加入契約をして、その上で、友人などを勧誘して契約が成立すると、報酬が支払われるらしい。将来は「ホームページの時代」になるから、どんどん契約者を増やしていくことができ、報酬は右肩上がりで、バイトなどする必要はなくなり、あっと言う間に月収50万円だと言う。

「1口1万5000円だけど、もっと自分のホームページを豊富にするなら3口、僕なんかは、ビジネスとして一気に儲けるために10口から始めたんですよ」

超典型的なマルチ商法だ。

「まずは1万5000円からはじめて、あとから5口、10口と増やす方法もあるよ」「世界の流れを先取りできるし」「すぐに儲かるから」「いまはじめるから莫大に儲かるわけで、1年先には半減するんだ」「1口ぐらいならバイト代でなんとかなるでしょ?」

ギラギラした男女二人組に延々と喫茶店の奥の席で詰められた私は、カネとホームページの時代が支配する未来の別世界に吸い込まれたような感覚になり、脳が痺れていた。自分の欲にも負けて、思考回路が「契約できるかどうか」になっていった。

(1万5000円くらいなら時給850円のハンバーガー屋のバイト代3日分だ……)

すっかり心が傾いていたが、お金もカードも持ち合わせていなかったので、あとで返事すると言って、女性に連絡先を教えてその日は帰ることになった。そもそも初対面でビジネスの話をされること自体がおかしい、というところに、思考を巻き戻すことができなかった。
 

母と仲が良くて助かる

幸いしたのは、田舎の母と仲が良かったことだ。もともと母と電話で話すのが習慣化していたため、その日の夜もこの件について早速相談したのだ。すると、一言。

「そんな簡単に儲かるわけがないやろ! あんたは世間知らずやから、騙されとるんやわ!」

もちろんイメージです(写真:iStock.com/Bojan89)

デスヨネー……。翌朝さっそく女性から電話がかかってきたが、きっぱりと断った。すぐに電話は切られて、二度とかかってはこなかった。ダメならダメで、即座に次のターゲットを探すのだろう。

田舎の母と電話で話す習慣があったから助かったようなもので、世間知らずのまま、はじめての一人暮らしになり、大金ではないが小遣いが少しあって、そしてなにより学生としての本分がわきまえられていなかった私。友達がいないさみしさにつけこまれて、「その先生の知り合いだ」という未確認情報に無条件に喜び、初対面からカネの自慢話ばかりするという下品さに不信感を持たず、よく知らぬ「世界発信」の「ホームページの時代」に簡単に揺さぶられてしまったわけだ。

オレオレ詐欺に騙されてお金を振り込む寸前の高齢者が、通りすがりの人やコンビニの店員などに声をかけられて救われたという話がたくさんあるが、20代だった私も、母に叱られなければ大変なことになっていた。まったく恥ずかしい限りだ。

 

内閣府の調査によれば、この30年間で一人暮らしの高齢者は162万人(平成2年)から592万人(平成27年)と激増し、今後も増えていくと予測されているから、「町の第三者」による声かけ防犯は本当に重要なものになっていくのだろう。一方で、家族や友達といてもスマホの中の一人の世界を満喫しがちな世代は? 詐欺に騙されそうになった自分の心理は、いま世の中に蔓延するデマやフェイクニュースに踊らされ、騙される人々の様子と重なるところがいくつもある。次回はその共通点を分析してみたい。

 

 (参考資料)

 ◯警視庁捜査第二課広報資料「オレオレ詐欺被害者等調査の概要について」

 ◯内閣府 平成30年版高齢社会白書
 

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幻冬舎plus  これも、まさか自分が!? の世界、と思ってまじめに読みました。海外で騙された経験ありなので。〔相〕 詐欺に騙されやすい人=デマに踊らされがちな人? オオカミ少女に気をつけろ! ~欲望と世論とフェイクニュース|泉美木蘭 - 幻冬舎… https://t.co/kYTcyjgcma 5日前 replyretweetfavorite

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昭和52年三重県生まれ、作家、ライター。日々、愛しさと切なさと後ろめたさに苛まれている不道徳者。社交的と思わせて人見知り。日頃はシャッターをおろして新聞受けから世間を覗いている。趣味は合気道、ラテンDJ、三浦大知。

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