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本屋の時間

2019.02.01 更新 ツイート

第54回

本の賞味期限 辻山良雄

(写真:iStock.com/Sean_Kuma)

本屋と他の業種を比べたとき、「本は腐らないからいいね」と言われることがある。賞味期限のある生鮮食品とは異なり、紙でできた本は腐ることがないので、扱いやすい商材だというのだ。

確かに物体としての本は腐らないが、その中身のほうはどうだろうか。少しまえに話題になっていた本が、古書店の店頭で百円均一の棚に並べられているのを見たとき、わたしたちは自然とその本の存在が「古くなった」と感じてしまうだろう。同じように古書店に並んでいても、より熟成されたように見える本もあるので、古びる速度はその本次第としか言えないが。

 

 

多くの新刊書店で、売上における〈新刊本〉の割合が、年々増えていると聞く(ここでの〈新刊本〉とは、発売後1~2カ月しか経っていない本のことを指す)。書店店頭の売上は落ちているにも関わらず、毎日出版される本の点数は変わらないので、少しまえに出た本であっても新しい本が入ってくれば、平積みからは外され、あっという間に棚に収められるか、そのまま返品されてしまう。そこでは本の内容は問題にならず、新しいものほど価値があるかのように取り扱われる。

Titleには自分で注文した本しか入ってこないので、そうした状態には陥っていない。もちろん最近発売になった本ほど売れる数は多いが、その本が魅力的に映るのだとすれば、それは同じジャンルの定番や古典の本が、あるべき場所にしっかりと収まっているからだと思っている。客として安心できる本屋の本棚では、昔に発売された本であっても「いま、読まなければいけない本」として、本のほうから語りかけられている気にさせられる。

 

そう考えると本の真価は、発売後すぐにわかるものではない。本屋として大切なのは、それがいつ発売になったものであれ、自分の店に合った本を常に探し続けて、それを自店の変わらぬ定番として育てていくことだ。そうした賞味期限のない定番を増やすことが店の魅力を高め、〈新刊本〉だけに頼らない経営を支えていく。

 

今回のおすすめ本

『世界のはじまり』 バッジュ・シャーム作・絵 ギーター・ヴォルフ文 青木恵都訳 タムラ堂

一冊ずつハンドメイドで作られた本自体が、インドの神話的な世界からそのまま産み落とされたようだ。手で漉いた紙の手触り、匂い。インド・ターラーブックスの定番書籍の日本語版。

◯連載「本屋の時間」は単行本でもお楽しみいただけます

連載「本屋の時間」に大きく手を加え、再構成したエッセイ集『小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常』は、引き続き絶賛発売中。店が開店して5年のあいだ、その場に立ち会い考えた定点観測的エッセイ。お求めは全国の書店にて。Title WEBSHOPでもどうぞ。

齋藤陽道『齋藤陽道と歩く。荻窪Titleの三日間』

辻山良雄さんの著書『小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常』のために、写真家・齋藤陽道さんが三日間にわたり撮り下ろした“荻窪写真”。本書に掲載しきれなかった未収録作品510枚が今回、待望の写真集になりました。
 

◯2022年8月6日(土)~ 2022年8月23日(火) Title2階ギャラリー

校正者の仕事部屋
牟田都子『文にあたる』出版記念展

校正者・牟田都子さんの初めての単著『文にあたる』(亜紀書房)の出版記念展。校正とは「本や雑誌が出版される前に、『ゲラ(校正刷り)』と呼ばれる試し刷りを読み、内容の誤りを直し、不足な点を補ったりすること」。牟田さんは書店や図書館を巡っては資料を集め、ファクトチェックをし、一文字一文字を見逃さないようにして読み込みます。今回の展示では『文にあたる』で紹介する校正の仕事現場を再現。校正ゲラを広げる「見台」や辞書、文房具などの仕事道具や、『文にあたる』著者校正ゲラの実物の一部を展示します。

 

『すばる』で新連載が始まりました
連載タイトルは「読み終わることのない日々」。本の一節から自由に想起したエッセイです。『すばる』4月号(毎月6日発売)からスタート。どうぞお楽しみに。

◯【書評】
[New!]
こまくさWeb
〈わたし〉の小さな声で歌おう~榎本空『それで君の声はどこにあるんだ? 黒人神学から学んだこと』に寄せて /評:辻山良雄


「波」2022年6月号
『やりなおし世界文学』津村記久子(新潮社)/止まらない「本の話」 評:辻山良雄

見よ、これがブレイディみかこだ―― 評: 辻山良雄
『ジンセイハ、オンガクデアル――LIFE IS MUSIC』ブレイディみかこ(ちくま文庫)

関連書籍

辻山良雄『小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常』

まともに思えることだけやればいい。 荻窪の書店店主が考えた、よく働き、よく生きること。 「一冊ずつ手がかけられた書棚には光が宿る。 それは本に託した、われわれ自身の小さな声だ――」 本を媒介とし、私たちがよりよい世界に向かうには、その可能性とは。 効率、拡大、利便性……いまだ高速回転し続ける世界へ響く抵抗宣言エッセイ。

齋藤陽道『齋藤陽道と歩く。荻窪Titleの三日間』

新刊書店Titleのある東京荻窪。「ある日のTitleまわりをイメージしながら撮影していただくといいかもしれません」。店主辻山のひと言から『小さな声、光る棚』のために撮影された510枚。齋藤陽道が見た街の息づかい、光、時間のすべてが体感できる電子写真集。

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本屋の時間

東京・荻窪にある新刊書店「Title(タイトル)」店主の日々。好きな本のこと、本屋について、お店で起こった様々な出来事などを綴ります。「本屋」という、国境も時空も自由に超えられるものたちが集まる空間から見えるものとは。

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辻山良雄

Title店主。神戸生まれ。書店勤務ののち独立し、2016年1月荻窪に本屋とカフェとギャラリーの店 「Title」を開く。書評やブックセレクションの仕事も行う。著作に『本屋、はじめました』(苦楽堂・ちくま文庫)、『365日のほん』(河出書房新社)、『小さな声、光る棚』(幻冬舎)、画家のnakabanとの共著に『ことばの生まれる景色』(ナナロク社)がある。

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