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本屋の時間

2019.01.03 更新 ツイート

第52回

「あたりまえ」でいるために辻山良雄

撮影:平野愛

Titleはこの1月10日、開店してから4年目の日を迎える。開店した当時は、前職からの知り合いや、SNSを通じて開店を知った人たちで店内は賑わい、毎日がお祭りのようであった。さすがにその熱はもう残ってはいないが、店を気に入りそれぞれの頻度で足を運んでくださる人の顔、顔はわからないが、全国各地から定期的に本を注文してくださる人の名前が、いまその代わりに思い浮かぶ。

 

 

店をやるものにとって「時が経つ」とは、そのように目のまえにいる人が変わっていくことでもある。その変化は一定しないが、新しい人を迎えているあいだは、店の原動力となる種火が消えることはない。

fcscafeine/iStock

人はスイッチの入った状態になったとき、本に限らずモノを買う。次々とオープンする新しい店、毎日どこかの場所で行われているイベント、スマートフォンに流れてくる誰かの〈バズった〉投稿……。人が本屋に足を運び本を買うには、「それが読みたいから」という理由だけでは、もう足りないのかもしれない。平坦な日常のなかで本は中々売れていかないから、売るものは無理にでもその買うべき理由を作ろうとする。もちろんそれは売るものにとって無理も伴う〈苦しい〉ことであり、知らないあいだに心を蝕むものでもある……。

本屋に流れるほとんどの時間は代わり映えのしない日常で、それは店主にとっても、店に来るお客さんにとっても同じことだ。そのなかで、いかに来る人の手を取って、その生活の中に本をしのび込ませることができるか。「あたりまえ」の時間で培ったものこそ、その人が生きるうえでの「あたりまえ」になる。平坦な日常が、本が生き延びるための主戦場であることに、今も昔も変わりはない。

本屋はいまを生きる人の、多様な声が行き交う場所である。その場所がこれからも存在し、その面白さに目を留めてもらうために、自分がこれからできることは何か。この一年は初心に帰り、そのことをしっかりと考えてみたい。

 

あけましておめでとうございます。今年も「本屋の時間」をよろしくお願いします。

 

今回のおすすめ本

『cook』坂口恭平 晶文社

料理はその栄養のみが、人の糧となるのではない。何を作るかを考え、実際に手を動かすことが、自分を明日へと連れていくのだ。鬱期につけた、毎日の料理の記録。

〈お知らせ〉


◯2020年1月10日(金)~ 2020年1月28日(火) Title2階ギャラリー

鹿子裕文『ブードゥーラウンジ』刊行記念展
~モンドくんの原画展+本づくりの舞台裏~

福岡・天神の一風変わった実在のライブハウス「ブードゥーラウンジ」と、そこに集う本物の〈はみだし者〉たちが日夜繰り広げた大騒動を描いたノンフィクション『ブードゥーラウンジ』。本書は『へろへろ 雑誌「ヨレヨレ」と宅老所よりあいの人々』(ナナロク社/ちくま文庫)で大反響を呼んだ鹿子裕文さんの待望の新作。会場では『ブードゥーラウンジ』のカバー装画をはじめ、たくさんの挿絵を描いてくれたモンドくん(奥村門土)の原画を展示します。「ブードゥーラウンジ」に関するチラシや資料も多数。

 

◯2020年1月31日(金) 19:30〜 Title 1階特設スペース

 季刊誌kotobaプレゼンツ「21世紀に書かれた百年の名著を読む」第4回
仲俣暁生×倉本さおり「阿部和重『シンセミア』を読む」

仲俣暁生さんの連載「21世紀に書かれた百年の名著を読む」とのTitle連動イベント第4回。今回のゲストは倉本さおりさん。とくに「監視社会」を描いたという意味では現代に対して預言的だったという解釈もできる『シンセミア』を、ともに書評家として活躍されるお二人が語らいます。


◯2020年 02月01日(土) 17:30~ 二子玉川ライズ ガレリア 特設ステージ

まちを変える本屋
田口幹人さん(楽天ブックサービス)×久禮亮太さん(Pebbles Books)×辻山良雄さん(Title)

現在、楽天ブックサービスで地域と本をテーマに活躍されている田口幹人さん、リブロから独立後、小石川で「Pebbles Books」を運営している久禮亮太さん、Title店主・辻山の3人のトークイベント。梅田 蔦屋書店の北村知之さんが聞き手となり、それぞれが考える「まちの本屋」のあり方と、その未来を考える。

 


◯『本屋、はじめました』増補版がちくま文庫から発売されました

文庫版のための一章「その後のTitle」(「五年目のTitle」「売上と利益のこと」「Titleがある街」「本屋ブーム(?)に思うこと」「ひとりのbooksellerとして」「後悔してますか?」などなど)を書きおろしました。解説は若松英輔さん。
 


 

 

◯辻山良雄・文/nakaban・絵『ことばの生まれる景色』ナナロク社

店主・辻山が選んだ古典名作から現代作品まで40冊の紹介文と、画家nakaban氏が本の魂をすくいとって描いた絵が同時に楽しめる新しいブックガイド。贅沢なオールカラー。

 

 ◯辻山良雄『365日のほん』河出書房新社

春、夏、秋、冬……日々に1冊の本を。書店「Title」の店主が紹介する、暮らしを彩るこれからのスタンダードな本365冊。

 

 ◯辻山良雄『本屋、はじめました―新刊書店Title開業の記録』苦楽堂 ※5刷、ロングセラー!! 単行本

「自分の店」をはじめるときに、大切なことはなんだろう?物件探し、店舗デザイン、カフェのメニュー、イベント、ウェブ、そして「棚づくり」の実際。

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本屋の時間

東京・荻窪にある新刊書店「Title(タイトル)」店主の日々。好きな本のこと、本屋について、お店で起こった様々な出来事などを綴ります。「本屋」という、国境も時空も自由に超えられるものたちが集まる空間から見えるものとは。

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辻山良雄

Title店主。神戸生まれ。書店勤務ののち独立し、2016年1月荻窪に本屋とカフェとギャラリーの店 「Title」を開く。書評やブックセレクションの仕事も行う。著作に『本屋、はじめました』(苦楽堂)、『365日のほん』(河出書房新社)がある。

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