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衰えません、死ぬまでは。

2026.08.13 公開 ポスト

対談その1(全4回)

体力の衰えを感じる47歳のスズキナオさんと、還暦後の”体力の壁”に愕然とする宮田珠己さんの、後ろ向き対談⁉スズキナオ(ライター)/宮田珠己

今年の夏に、『衰えません、死ぬまでは。』を上梓した宮田珠己さんと、『このロボで、行けるところまで行くしかないのだ。』が8月19日に発売となるスズキナオさん。なんとなく気が合いそうな二人に、編集部からお互いの新刊を肴に対談のご依頼をしてみたところ、すでに”共鳴”していました――!

撮影:菊岡俊子

一見、後ろ向きには見えない二人ですが……

*   *   *

45歳くらいで、衰えを感じる”第1の崖”。そして還暦あたりで、”第2の崖”。

宮田このロボで、行けるところまで行くしかないのだ。』を読み始めた時には、自分とはトーンも違うし、見てるものも違うのかなと思ったら、読んでるうちに、全然スタイルは違うんだけど、結構同じようなこと考えてるんだなと思って。

スズキ  そうですね。でも、宮田さんの『衰えません、死ぬまでは。』を読むと、例えば体力のことでも、自分は47歳なんですけど、まだまだ今の段階では甘いんだなと。宮田さんは衰えが崖のように来ていると書いていらして、自分が感じてるのは、まだ崖に比べたら小さな段差みたいなものなのかなって。体力の衰えは感じてるんですけど、もっと、そんなもんじゃない世界があるのかなって、拝読して思いました。

 

(写真:編集部)

宮田 病気かなと思ったぐらい体力落ちましたよ。45歳ぐらいで。

スズキ そうですか、たぶん45歳ぐらいに一度、変化のポイントがあるんですよね。私はお酒よく飲むんですけど、分解能力が一気に落ちた気がします。

宮田 そんな冷静にいられる感じじゃなくて、もう本当大丈夫かな俺、って思ったぐらい。病院行かなきゃって思ったぐらい落ちましたけど。

スズキ そうなんですか。多分私は若い頃からそんなに別に元気な方でもなくて、まあ、外を歩くのも好きだし、まだ元気な方だとは思うんですけど、これまで特に体を使ってこなかったので、割と衰えも激しくないというか、平坦なのかもしれないです。

宮田 そうですか。いや、そうか。みんな来るんだと思ってたけど、違うのかな。

スズキ その45歳の崖の、さらにその先はどうなったんですか。

宮田  一旦ガクッと落ちてからは、またゆっくり下がっていって、それはわかるんですよ、ちょっとずつ落ちていくのは。で、また60ぐらいになって、もう次のが……最近もう足が上がらなくなってきた。中途半端に足上げてるからつまずくんですよ。何にもないところで。だからもっと足上げて歩かないとなと思って。2回目の崖に来てますね。

スズキ でも宮田さん、ジムもすぐにやめたりしながらも、やっぱりちゃんと行ってるし。

宮田 いや、行ってないですね。

スズキ 自分はそこまで踏み切る前の段階で、やんなきゃいけないんだろうけどな……と、言ってるだけな感じなんです。

宮田 いや僕も40代の頃はそうでした。やっぱりそこまで真剣にビビってないっていうか、病気かなと思った時ありますけど、この間、還暦になる前ぐらいまでは、まあそこまでビビってなかったんですけど。本当に足が上がらなくなってきたから、これはまずいって思って、行きたくないのに、ジムに無理やり行って、でもやっぱり行きたくないからサボって、ズルズル行かない。だけど気持ちはずっと焦ってるみたいな感じです。

スズキ  なるほど。読みながら、「やってみてはすぐやめる」というところにすごい励まされてたんですけど。次の章を開くと、あれっ、また行ってる、って、驚かされました。

宮田 ちゃんとやろうと思うと、続かないんで。好きにやめられる形にしとかないとモチベーションが、保てないです。やらなきゃっていうノルマになったらもう続かないなと思って。

スズキ ちゃんとそうやって運動してないと健康を保てなくなるという感じですか。

宮田 そうなんですよ。体力が……。サッカー(W杯)やってたじゃないですか。あの90分間、もう応援する体力がないんです。ハラハラドキドキして、他のチームなら見られるんだけど、日本代表とかやってるともうドキドキしちゃう。しんどい、しんどいってなってやめちゃうんです。もうダイジェストでいいやみたいになっちゃうんですよ。

スズキ 集中力も衰えますか……。でも、自分もそうかもしれないですね。長めの映画に、しんどさを感じたりする。

宮田 長めの映画観るときは、おむつ買わなきゃならない(笑)。

バブル世代でラクしてきたので、氷河期世代を前に「苦労してきた」と言えない…?!

スズキ 宮田さんの本を読みながら、自分は本当にくよくよしたことをたくさん書いてしまったな、という気持ちがしたんです。宮田さんの本は愚痴がありながらも、全体的に明るい雰囲気があって。いいなというか、元気だなと。

宮田 そういうふうに書くことしか許されてない気がしてるんです。今まで書いてきたのもそうだとか、編集者に言われてるとか、そういうことじゃなくて。僕、バブル世代なんですよ。氷河期世代の人は「苦労してきました」って言う権利があるんですよ。バブル世代は「苦労してきました」って言ったら「お前が偉そうなことを言うな」って言われそうな気がする。お前楽してきたじゃないか」って言われる気がするから、暗いことを書く権利がないっていうか。寂しいとか辛いとか苦しいとか、そういう風にいくのは許されないような気がしてるんですよ。

スズキ そういうものなんですね。世代っていうのもありますね。それこそ私の頃は就職氷河期で、氷河期なんだから、もう頑張ったってしょうがないみたいな。むしろそれを言い訳にすると楽でいいみたいな感じだったんですよ。そういう時代なんだから仕方ないっていうことで、何もしないでフラフラしていました。でも、宮田さんの頃だとそうなんですね……その上向きの時代の上昇気流みたいなものは自分は感じたことはないですね。

宮田 就活とか簡単だったし。会社辞めた時もまだバブルの残り香があって。まあ、なんとか食っていけるだろうと、先の不安も全然なく、会社も辞められたし。そういう意味ではやっぱり全然苦労の度合いが違うなと思ってて、苦労しましたっていう権利がないっていう。

スズキ でも、実際は苦労があるってことなんですか。

宮田 いや、俺、苦労してないと思う。好きなことばっかりやって。だからね、悲しみとか、そういうのを声高に言うと、自分自身に叩かれますね。お前にそれを言う権利はないと。

スズキ なるほど、もう一人の宮田さんが止めてくるというか、抑制している。

宮田 怠け者なんですよ。何にも続かないし、趣味とかも続かないんです。好きなことやっても、何回かやるともう飽きちゃって、他のことやり始めちゃうので。だから、そういう、常にサボってるっていうか、逃げてるというか。キリギリス感が自分にあるんですよ、すごく。ギリギリスが人生語るなって思っちゃうんで。スズキさんの本の中で、町のおっちゃんがいいって書いてたでしょ。そこ読んだ時に、フリーランスでいるのは町のおっちゃんに一歩近づいてるのかもしれないって思ったんだけど。例えば寅さんとかね、「こち亀」の両さんだったら、あの人たちは何かの能力があるんですよ。普通のサラリーマンはできないけど、その代わりすごい遊びに詳しいとか、営業がすごい、口がうまいみたいなもの、いろいろあるわけじゃないですか。そういうのはないんですよ。だから町のおっちゃんにもなれない。知らない子供と近所の子とかに教えられるものがない。劣等感しかないですよ。

スズキ 共感します。私も誰にも何にも教えられない。ちょっとおこがましいけど、こういうふうに生きていられる人もいるよ、ということしか言えない。

宮田 そうね、そのぐらいはあるのか。

スズキ 寅さんまではいかなくても、こんな風に自分がぼんやり生きてこられたってことは……。でも、そんなこと、子供たちも伝えられても困りますね。フラフラしたおじさんにそんなことを言われても。

(第2回へ続く)

関連書籍

宮田珠己『衰えません、死ぬまでは。』

めでたく還暦を迎え、まじめに老化と向き合おうと一念発起! ……したものの。 自分でやろうと決めた筋トレも、始めてみれば愚痴ばかり。毎朝の”バター滲み滲みパン”も、やめられない。 怠け者作家が、老化にささやかな反抗を続ける日々を綴るエッセイ。

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衰えません、死ぬまでは。

旅好きで世界中、日本中をてくてく歩いてきた還暦前の中年(もと陸上部!)が、老いを感じ、なんだか「運気」も下がっている気がして、悶々。
いざ、まじめに老化と向き合おうと一念発起!……したものの、自分でやろうと決めた筋トレも、始めてみれば愚痴ばかり。毎朝の”バターしみしみパン”もやめられない。
はたして、「老い」と戦えるのか?「運気」は上がるのか?
怠け者作家が、老化にささやかな反抗を続ける日々を綴るエッセイ。

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スズキナオ ライター

1979年東京生まれ。フリーライター。WEBサイト「デイリーポータルZ」を中心に執筆。著書に『深夜高速バスに100回くらい乗ってわかったこと』『思い出せない思い出たちが僕らを家族にしてくれる』『家から5分の旅館に泊まる』『新幹線から見えたすき家へカレーを食べに行く』『捨てた紙、捨てられない紙』など、共著に『ご自由にお持ちくださいを見つけるまで帰れない一日』(パリッコ氏)、文通 答えのない答え合わせ』(古賀及子氏)など。

宮田珠己

1995年に『旅の理不尽~アジア悶絶篇』を自費出版しデビュー。以来、紀行エッセイを中心に、日常エッセイ、書評、小説なども執筆。『東南アジア四次元日記』で 第3回 酒飲み書店員大賞、『ニッポン47都道府県正直観光案内』で第14回エキナカ書店大賞を受賞。他にも『ときどき意味もなくずんずん歩く』『いい感じの石ころを拾いに』『だいたい四国八十八ヶ所』『明日ロト7が私を救う』『路上のセンス・オブ・ワンダーと遥かなるそこらへんの旅』などエッセイ多数。小説に、東洋奇譚をもとにした『アーサー・マンデヴィルの不合理な冒険』がある。2作目の小説『そして少女は加速する』で、青春小説に挑戦。賞賛を集めている。
(撮影:干田哲平)

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