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衰えません、死ぬまでは。

2026.08.11 公開 ポスト

チロルチョコ3つ分のバターをのせた「バターしみしみパン」が悪いことくらい、わかるでしょ!宮田珠己

本コーナーで展開されていた、作家・宮田珠己さんの人気連載『衰えません、死ぬまでは。』が書籍化されました。

どうやら、一見スマートな宮田さんですが、内臓脂肪がいっぱいついているようで―――。さてどうする⁉ 本文より試し読みでお楽しみください。

*   *   *

第5話 なぜ皮下ではなく内臓なのか

それにしても、どうして私の内臓にそんなに脂肪がついているのだろう。

なぜ皮下脂肪はついていないのに、内臓脂肪がついているのか。

脂肪がつくことについては、もちろん、理由がないとは言わない。

たとえば私はチョコレートが大好物で、何かと言うとチョコを口にしてきた。昔は麦チョコが好きで、スーパーやコンビニで100円の麦チョコ袋を買ってきては、毎日1袋まるまる食べていた。

チョコレートと言えば、ゴディバだの何だの高級品がたくさんあるけれど、私の実感では高級になるほどおいしくない。甘みがまろやかでなく、嫌な後味が残る。

そんなにたくさん高級品を食べたわけではないから、たまたま私が食べたものがそうだっただけかもしれないが、とりわけ海外ブランドのチョコレートは甘さが尖っているというか、口の中につんつんしたねちっこい味が残ってちっともおいしくない。日本の安いチョコレートのほうがはるかにおいしい気がする。

長年安物に慣れ親しんでいるせいで、舌が安っぽい味にチューニングされているのではないか、という声が聞こえてきそうだが、それは否定しない。

私はコーヒーにも砂糖とミルクを両方入れるお子様な味覚の持ち主なので、尖った味があまり好きじゃないのだと思う。チョコレートを食べるなら日本のお菓子メーカーがつくったものと決めており、なかでも麦チョコが一番と認定し、おかげでバレンタインの家族からの義理チョコも安く済んで、家計にも貢献していたのだった。

ところが、あるとき私は、麦チョコをはるかに凌(しの)ぐ最高峰のチョコレートに出会って衝撃を受けたのである。

一口で明らかに世界最高峰とわかった。それほどの絶品チョコレート。

その名は、柿の種チョコ。

(写真:iStock.com/Promo_Link)

あの柿ピーの、ピー(ナッツ)でない柿の種のほう、太ったブーメランのようなあれを、チョコレートでコーティングした商品だ。

こんなうまいチョコある?

と誰彼なしに声をかけたが、声をかけた全員が、あれはたしかにうまい、と答えたのである。 甘みと辛みを合体させた発想がノーベル賞ものだ。海外の高級ブランドなど足元にも及ばない。

あの柿の種はつまり小さな醤油せんべいなんじゃないかと思うが、醤油の国日本だからこそ作ることができた傑作と言える。

柿の種チョコは、麦チョコよりは高価だが、それでもデパ地下でガラスケースの中に陳列されているような高級チョコレートに比べればはるかに安いので、たくさん食べてもそれほど懐は痛まない。

そんなわけで、栄えある第1回宮田チョコレート選手権、優勝は、柿の種チョコに決定!

「いやあ、圧勝でしたね」

「柿の種チョコならやってくれると思ってました」

って解説者も絶賛だが、話を戻すと、私はそのぐらいチョコレートが好きで、アイスを食べるときも必ずチョコ味、ケーキを食べるならチョコレートケーキと心に決めて生きているわけなのだった。

ただ、あまりチョコばかり食べていると、体によくないから、1日に食べる量はそれなりにセーブしてきた。麦チョコや柿の種チョコであれば、1日1袋まで。ただし袋が小さい場合は2袋までは可、ぐらいでそれ以外のおやつはほぼ食べない。 しかも、そんなに好きな柿の種チョコですら、最近は涙を呑んで、カカオ含有量72%以上の糖分の少ないチョコレートに替鞍(くらが)えしたりして、健康に配慮しているのである。

毎日チョコレートを食べているだけで、そこまで脂肪がつくだろうか。

(写真:宮田珠己)

ちなみに、これは声を大にして言っておきたいが、私はお酒は一切飲まない。若いときは多少飲んだが、ここ30年は1滴も飲んでいない。

食事についても、外食は月に1度するかしないか程度であり、暴飲暴食はまずしない。家の食事も肉料理ばかり食べているわけではない。好物といえば冷奴であり、独身の頃から冷奴ばかり食べていた。

そういえば白ご飯も好きで、一時は毎日おかわりしていたから、あれはよくなかったかもしれない。最近は白ご飯じゃなく雑穀米を食べたほうがいいという話をよく聞く。

ともあれ食生活に関しては、もちろん完璧とは言わないが、一般の中年男性に比べてかなりましな状態を保ってきたと言っていいんじゃないかと自負している。

そんな私のどこに、脂肪がつけいる隙があるというのか。チョコと白ご飯がそんなに悪いか! とひとり気炎をあげていたところ、家族から「待った」がかかった。

お前は内臓脂肪が溜まるようなものを食ってる覚えはないと言いたいようだが、敢えて触れないようにしている問題があるのではないか。敢えて隠していることがないとは言わせない。正直に申し述べよ、と告発されたのである。

ん?

自分でも何のことを言われているのかわからなかった。

「バターいっぱい食べてるでしょ!」

え、バターだめなの?

「だめに決まってるだろうが」

と家族じゅうから指摘された。

言われてみれば、たしかにバターは好きだ。

といってもバターなんて、朝食時にパンに塗って食べる程度で、それがそんなに問題だろうか。パンを食べるときは誰だってバターを塗るのではないか。

そう反論すると、その塗る量が問題だという。

パンに塗るバターの量?

いったいパンにはどのぐらいバターを塗るものだろうか。

私の朝食は、和食のときもあれば、シリアルのときも、パンのときもある。比率は和食の日1、シリアルの日1、パンの日2ぐらいだろうか。

で、食パンの日は、6枚切りを2枚と、ゆで卵と、フルーツにヨーグルトをかけたものを食べる。その2枚の食パンに、まあたしかに、バターをたっぷり塗ってはいる。

食パンをトースターで焼いた後、全面にバターを塗って、トースターの余熱で溶かすのが私の好きな食べ方で、齧ったときにバターがついてなくて食パンだけ食べる事態を避けたいから、塗り残しがないように気を付けている。

個人的にパンを食(は)む瞬間に、ジュワッとバターが滲む感触が好きで、しみしみのバターの味わいといったら、それはもうゴージャス過ぎるので、それなりの量を塗っている。塗るというか、正確にはブロックをのせて溶かし、自然に浸み込ませる手法である。

それのどこに問題が?

家族に言わせると、そのブロックが大きいらしい。

私が1枚の食パンにのせるバターの量としては、チロルチョコ3個分ぐらいかと思われる。給食で出たブロック状のマーガリンもそんな大きさだったから、あれを3個相当と思ってもらえばいい。1回の朝食で食べる食パンは2枚だから、合計6個分のバターでパンを豪勢に味付けしていることになる。

多い?

そうかなあ、多いかなあ。いや、家族もそう言って私を責めるのであるが、では逆に聞きたい。 あなたは、バターしみしみパン以上にうまいパンがこの世にあると言うのでしょうか? 私の好きなパンに塩バターパンがある。あれはパンそのものにすでにバター味がついている史上最高のパンであるが、それを食べるときも、中にバターを挟んでトースターで少し焦がすのだった。そうすることにより、もともとのバター味にしみしみバターが加わって、もはやこの世のものとは思えぬ至高の味わいが実現する。

バターが多過ぎるなどとほざくのは、この味を知らぬ者の負け犬の遠吠えであって、この神聖なるハイネス塩バターパンをひとたび口にしたならば、その前にひれ伏さぬ者はいないのである。

おお、天にまします塩バターパンよ、願わくは御名をあがめさせたまえ。

こうして、栄えある第1回宮田チョコレート選手権優勝者柿の種チョコに続き、第1回宮田パン選手権は、塩バターパンの優勝と決まった。

第2回がいつ行なわれるかはわからないが、できればさらに深掘りして、全国の柿の種チョコを食べ比べ、さらに全国の塩バターパンも食べ比べた中から、それぞれ最高の逸品を選びたい。

というわけで一件落着、めでたしめでたし。

いったい何の話をしているのだろうか。 ええと、そうだ、内臓脂肪の話だった。内臓脂肪の悪行についてだ。

つまり、なぜ皮下脂肪ではなく内臓脂肪ばかりつくのかという問題である。私の食べたチョコやバターは、なぜ二の腕とかそっちのほうにいかず、内臓にとりつくのか。

たしかに私はチョコやバターを食べ過ぎているのかもしれない。もう少しセーブすれば、内臓脂肪は減るのかもしれない。

しかし、そんなのは皮下脂肪になればいいだけの話で、適度な皮下脂肪は海で泳ぐ際にいい防寒対策になる。それなのに内臓にばかりつくのだから、つく場所を間違えている脂肪の側に落ち度がある。

皮下脂肪と内臓脂肪のどちらにつけるか、自分で選ぶことはできないのだろうか。

それが無理なら、内臓脂肪を集中的に落とす方法はないのか。

結局は、チョコやバターを制限するしか方法はないのか。

幸か不幸かチョコについては、このところの値上げで不本意ながら量を減らしている。麦チョコも柿の種チョコも買わなくなり、まれにチョコアイスを買って鬱憤を晴らしている程度である。仕事中に何かつまみたくなっても、水を飲むだけで我慢し、かなりストイックな生活になってきている。

バター? バターについては、あれは値上げしても、必需品だからしょうがない。それでも、あの比類なきハイネス塩バターパンについては、ここ数カ月購入を控えていることは申し述べておきたい。

であるならば、少なくともチョコが減った分ぐらいは、内臓脂肪も減ってしかるべきである。しばらくしたらまたジムで計測してもらって、確認しようと思う。

ところで、そのジムなのだが、報告しなければならないことがある。

実はこの1カ月ほど休んでいるのだった。

(写真:宮田珠己)

おやおや、もうギブアップかよ、という声が聞こえてくるが、私は今もやる気だ。やる気はバッチリあるんだけれども、困ったことに、ぎっくり背中になってしまったのだった。ぎっくり腰ではなく、ぎっくり背中。

ある朝ベッドから起き出そうとしたら、起き上がる瞬間に背中がグキッといったのである。腰と違って、歩くことに支障はなく、日常生活にさほど困難はないが、上半身をひねるのは無理。重いものを持ち上げるのも厳しい。

経験上、ぎっくり腰は1週間もあれば治るから、背中も同じだろうと思って楽観視しているが、どういうわけか数日後、さらに左肩まであがらなくなってしまった。あげるどころか、手を伸ばすだけで痛い。

なんでこんなことに?

整形外科で診てもらうと、医師はレントゲン写真を一瞥し、

「骨には異常なし。五十肩だね」

「五十肩……。原因は何でしょうか」 やはり筋トレのやりすぎだろうか。

「五十肩の原因はよくわからない。五十肩はね、時間かかるよ」

と言った。

時間がかかる?

まだ筋トレを始めてから3週間程度、回数にして7回ぐらいしかジムに通っていないのに、もう療養?

困った。これでは、私の運気はいつまでも上がらないではないか。なんとかしなければ。

 

関連書籍

宮田珠己『衰えません、死ぬまでは。』

めでたく還暦を迎え、まじめに老化と向き合おうと一念発起! ……したものの。 自分でやろうと決めた筋トレも、始めてみれば愚痴ばかり。毎朝の”バター滲み滲みパン”も、やめられない。 怠け者作家が、老化にささやかな反抗を続ける日々を綴るエッセイ。

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衰えません、死ぬまでは。

旅好きで世界中、日本中をてくてく歩いてきた還暦前の中年(もと陸上部!)が、老いを感じ、なんだか「運気」も下がっている気がして、悶々。
いざ、まじめに老化と向き合おうと一念発起!……したものの、自分でやろうと決めた筋トレも、始めてみれば愚痴ばかり。毎朝の”バターしみしみパン”もやめられない。
はたして、「老い」と戦えるのか?「運気」は上がるのか?
怠け者作家が、老化にささやかな反抗を続ける日々を綴るエッセイ。

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宮田珠己

1995年に『旅の理不尽~アジア悶絶篇』を自費出版しデビュー。以来、紀行エッセイを中心に、日常エッセイ、書評、小説なども執筆。『東南アジア四次元日記』で 第3回 酒飲み書店員大賞、『ニッポン47都道府県正直観光案内』で第14回エキナカ書店大賞を受賞。他にも『ときどき意味もなくずんずん歩く』『いい感じの石ころを拾いに』『だいたい四国八十八ヶ所』『明日ロト7が私を救う』『路上のセンス・オブ・ワンダーと遥かなるそこらへんの旅』などエッセイ多数。小説に、東洋奇譚をもとにした『アーサー・マンデヴィルの不合理な冒険』がある。2作目の小説『そして少女は加速する』で、青春小説に挑戦。賞賛を集めている。
(撮影:干田哲平)

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