怠けるのが大好きなエッセイスト宮田珠己さんの連載『衰えません、死ぬまでは。』が、ついに書籍化!還暦を迎えた宮田さんは、どんなふうに「老化」と向き合ってくのでしょうか?
さっそく、人生の先輩でもある、生命科学者の仲野徹さん(69歳)から書評が届きました!
* * *
極めて正しい。しかし、その詳細がどこか微妙に間違えている…宮田珠己の真骨頂!
国内外を股にかけて脱力系エッセイをものし続けた、あの宮田珠己も還暦なんや。しかし、『衰えません、死ぬまでは。』とは、えらく弱気なタイトルではないか。けれど、内容はちょっと違う。還暦を迎えて体力が著しく衰えただけでなく、運気までもだだ下がり気味なのを如何に食い止めるかに全力を尽くし続ける。涙ぐましくも、失礼ながら笑ってしまうしかないノンフィクションである。
40代の半ばでも、還暦と同じように体力が崖のように落ちたという。これは宮田氏に限ったことではなくて、医学的なエビデンスがある。2024年にネイチャー・エイジング誌に、老化は連続的に進むものではなく、44歳前後と60歳前後に大きな変化が見られるということが報告されているのだ。この論文、追試が待たれる段階ではあるが、自分だけではなくて多くの人がそうなのだということは知っておいた方がいい。この知識があるだけで心が和らぐではないか。
還暦を前に運気が下がったというのは、おそらく偶然だろう。しかし、体力が急速に衰え、自己イメージとのミスマッチが起これば、運気が下がったように感じてしまう可能性は十分にある。そう考えると、宮田さんの経験は、人生における必然ともいえるのだ。かといって、手をこまねいている必要はない。さすがは宮田珠己、正しいとされている方向へと突き進んでいく。
そんな理由なんですか! と言いたくなるのはともかく、始めたのは、ウォーキング、筋トレ、そして食事内容の改善であった。正しい。極めて正しい。正しすぎるほどだ。なのではあるけれど、その詳細がどこか微妙に間違えているのが宮田珠己の真骨頂である。
もうひとつ、これも推奨されていることなのだが、新しいことへの挑戦も始めた。老いを克服、というか、心理的な老いを和らげるのに役立つことが知られている。それがアクリル絵画とボルダリングであった。へ? アクリル絵画はいいとして、ボルダリングってどうよ。五十肩の治療にと勧められたこともあるとはいえ、普通はせんやろう。
いまだ精神年齢は30歳くらいであるという。これもあかんやろ。心理学に「主観年齢」という概念がある。自分のことを何歳くらいだと感じているか、という研究だ。これによると、40歳以降になると、だれもが実年齢よりも若く感じているという。ただ、平均して2割くらいだから、主観年齢が実年齢の半分というのはミスマッチすぎる。ここまで違うと運気にも影響してしまいそうで、なんとかしてほしくなってくるんですけど。
しかし、ラストは鋭い。最終話では、なんと着地点が家庭菜園であったことが明かされる。65歳で定年になってから、遅ればせながら私も家庭菜園を始めた。土をいじっているだけで楽しいし、ボンヤリと考え事をするのも心安らぐ。そのうえ、美味しい野菜が採れて、食卓が幸せになる。そう、間違いなく、身体にも心にもいい。これには全面的に賛成だ。宣伝になるが、その顛末は『生命科学者、定年後に畑にハマる 実践・知的菜産の技術』として幻冬舎から上梓しているので、興味ある方はぜひそちらもお読みください。
全29話+最終話の30話からなるこの本、ちょうど真ん中あたりにある「わかっていてもできない」という第15話は、誰にでも当てはまりそうだ。日々、生きていれば加齢は着実に進み、還暦だって当然やってくる。けれど、ほとんどの人は手をこまねいているだけで、特段に何もしないのではないか。それは決して望ましいことではない。
そういった意味で、この本は教訓に満ち満ちている(ような気がする)。まぁ、言ってはなんだが、かなりの部分は、思わず「こんなことになったらあかんのとちゃうんか」と呟いてしまいたくなるエピソードなのではあるけれど、それもまたよし。なにしろ、人間というのは易きに流れがちなものだ。流れかけた時、その少し先を宮田さんが流れてくれているとわかったら、それだけでちょっと安心できるやないですか。
ーー仲野徹(生命科学者/69歳)
衰えません、死ぬまでは。の記事をもっと読む
衰えません、死ぬまでは。

旅好きで世界中、日本中をてくてく歩いてきた還暦前の中年(もと陸上部!)が、老いを感じ、なんだか「運気」も下がっている気がして、悶々。
いざ、まじめに老化と向き合おうと一念発起!……したものの、自分でやろうと決めた筋トレも、始めてみれば愚痴ばかり。毎朝の”バターしみしみパン”もやめられない。
はたして、「老い」と戦えるのか?「運気」は上がるのか?
怠け者作家が、老化にささやかな反抗を続ける日々を綴るエッセイ。
- バックナンバー










