道路に食パンを撒き有名になる

私は前回、男女がホテルの一室で動物愛護法違反の罪を犯した事件について書いたが、その後、想像を超える続報が入ってきたので、まずその話から触れてみたい。
当初のニュースでは、なぜハムスターを殺したのか、その動機がわからなかった。しかし、この男に余罪が次々と発覚したことで、なんとなく構造が見えてきた。
逮捕のきっかけは、今年2月。岩手県の県立高校職員の男(36歳)がSNSで知り合った住所不定無職の女(19歳)と、ハムスター25匹を殺したことに始まる。
その後、男は今年3月にも派遣社員の女(20歳)と、ホテルの一室でハムスターおよそ30匹をみだりに殺した疑いが浮上。さらに7月にも、別の女と共謀し、ハムスターを足で踏みつぶしていたとして逮捕・起訴された。
警察は、ほかにも余罪があるとみて捜査を進めているという。
ここではっきりしたのは、主犯の男は一人だが、共犯となる女は次々と変わっているということだ。いずれも若い女で、うち1人は住所不定無職の19歳。つまり家出少女と想像できる。
ここからは私の推測だが、おそらく男は、SNSで知り合った女たちに金銭を渡し、素足でハムスターを踏んでもらうことで、性的欲望を満たしていたのだろう。
というのも、私はこれと似た性癖を持つ男の話を、人づてに聞いたことがあるからだ。
その男の場合は、タッパーに蟻を入れて風俗店に持ち込み、風俗嬢に素足で踏みつぶしてもらうことで快感を得ていたという。
これをハムスターに置き換えると、まんま同じ性癖であることが想像できる。
しかも、ハムスターはつがいで飼えばどんどん増える。
「増えたから処分に困って殺した」などという当初の私の予想は、あっさりと覆されたのである。
問題は、ハムスターは不同意だったのではないかということだ。
人間に比べると、ハムスターは標準的なものでも10センチ程度と小さく、ぽわぽわしたまるっこい生きものに過ぎない。
どう考えても立場が不均衡だ。
「嫌がっていなかった」などという言葉は、通用しない。
性的欲望と犯罪が結びついてしまうと、これはなかなか厄介である。
彼の問題行動を矯正できる治療者など、世界中を探したところで、そういないのではないか。
いずれ更生できることを願う。
さて、ハムスター殺しに興奮する男に私が興奮している間に、ライター界隈は戦々恐々としていたらしい。
なんでも、WEBライターが失業しまくり、WEB媒体を辞めるメディアも多く、さらに書店も相次いで閉店しているとか。出版メディア全体が、いよいよ未来が見えなくて大変なようだ。
私はといえば、そもそも出版業界ですらドロップアウトしているので、いまいち共感できないのが正直なところである。写真にせよ文章にせよ、商業的に求められるとか、今までだってないんだよなあ。
なんぞと思っていたら、出版のみならず、プログラマー界隈でも「そのうち仕事はなくなる」と言う声が聞こえてくるではないか。
それ以前に、「もうこの年になると展望は描けないね……」みたいなことを言う人が、40代に入ると急に増えてくる。同じ45歳の人からは「もう余生を生きてる気分」と言われ、ギャーとなった。
「え、でもカーネル・サンダースは65歳でケンタッキーフライドチキンを始めたから、私もこれから新しいことで一発当てる可能性があると思うんですよねえ」
と、私が言ったら、虚無な声で「楽観的ですね」と返ってきた。
なんだなんだ、みんなして。
思えば、私はスキャットマン・ジョンにだけはなりたくない人生だった。
令和キッズに、スキャットマン・ジョンなどと言っても、微塵も伝わらないと思うが、私の中では、大器晩成型の象徴として記憶に残っているミュージシャンなのだ。
彼は、若いころから吃音に悩み、酒とドラッグに溺れ、40歳で依存症を克服し、52歳でメジャーデビュー。「スキャットマン」が世界的大ヒットし、一躍スターとなったが、57歳で肺がんのため死去。
人生のピークから、わずか5年後に死んだのである。
そんなの嫌だ。
かくして私の頭の片隅には、「早咲きがいいに決まってる」という固定観念が植え付けられた。
でも、今となってはどっちでもいい。
そういうわけで私は、周囲の「人生折り返し気どり」たちに猛反発しているのである。
もっと、カーネルおじさんを見ろ!
そんな矢先、Xを開いたら、日産自動車のCMで「ただ進むだけで満たされていく。」というキャッチコピーが流れてきた。
ほほう。
ただ進むだけで満たされるのか。
そうかそうか。
いや、嘘だろ。
ただ進むだけで満足するわけないだろ。
そんなこと言ってるから富士山で死ぬんじゃないのか。
朝日新聞の記事によると、富士山で遭難死する登山者は、なぜか男ばかりらしい。特に、2023年から25年の3年間に死亡した24人は、全員男だったとか。
8合目の救護所で治療を受ける登山者は、男女半々。中には心停止する若い女性もいたが、それでも最終的に死亡するのは男だけ。
曰く、「もう下山しなさい」と警告しても、また登り始めてしまう人は多く、「ぜんぜん寝てないです」という人までいるらしい。
いやいや、登山するのに「今日、寝てないんだよね」は、マウントにならんだろ。
それでも人は登頂にこだわってしまう。できる努力があるなら、最大限やりたいと思ってしまう。
私は、富士山登頂に、日本のサラリーマンの姿を見た気がした。
という話を、慶應大学哲学科卒の25歳女子に話したところ、
「耐え抜くことにロマンがあるんでしょう。生き方の美学を優先して、命よりアイデンティティを守ったとき、そこにまことがなくなっちゃう。サムライも、たぶんアスペ」
と即答され、おおっ! となった。
彼女には、富士山登頂男に共鳴できる部分があるらしい。
つまりだ。世の中には何者かになりたいけど、どうしていいかわからない人があまりに多いということだ。
私は、最初の写真集を出した2013年、メーカー系ギャラリーで開催した個展のトークイベントで、「これからどうなりたいですか?」という質問に、「私はインベカヲリ★になりたいです」と答えた。聴衆からは、「かっけ~!」と、どよめきが起きたが、志は今でも変わらない。
私はいつだって自分になりたいのだ。
では、自分になり損なうと、人はどうなるのか。
今年8月、鳥取県の国立公園・大山の道路沿い150メートルにわたり、約30個の食パンが3日連続で捨てられているのが見つかった。同時期、白兎海岸でも10個ほど捨てられていたことが発覚。犯人は、現在も不明だという。
報道写真を見ると、パン屋さんが焼いたような立派な食パン一斤が、ガードレール沿いに無数に打ち捨てられているのが見える。さながら現代美術だ。
犯人は、ニュースを見てほくそ笑んでいるに違いない。
人生に色どりを与える不法投棄。
「自分はここにいる」という存在の証明。
これが、“何者かになりたいのに、何をすればいいのかわからない人間”の最終形態だ。
宇宙という大スペクトラムの中で、人類は、不同意ハムスター性欲罪で捕まり、富士山に寝ないで登り、道路に食パンを撒くようになる。
ただ進むだけで満たされていく。
自分を見失ってこそ、人生。
それが、人間

写真家・ノンフィクション作家のインベカヲリ★さんの新連載『それが、人間』がスタートします。大小様々なニュースや身近な出来事、現象から、「なぜ」を考察。
- バックナンバー
-
- 道路150メートルにわたり、30個の食パ...
- ウェールズの病院に現れた死神、岩手のホテ...
- 駅のトイレで自ら注射する麻酔科医、義母を...
- Chat GPTを使うベローチェの老人、...
- AIは「死にたい人」を見つけられるのか―...
- 鍵を開け、水道を使い、自動ドアを突破する...
- 盗まれるより怖い――下着が新品になり続け...
- 国家権力IP、税関IP、中野区IP…キャ...
- 100年以内にAIが人類を絶滅させる可能...
- 謎の親切男、上履きの神様、ヤフコメ民の気...
- 幸せか幸せじゃないかは、自分が決める――...
- 強盗を虚偽通報する理学療法士、パンツ一丁...
- 鳩を轢いて不起訴、ハチ公は布で封鎖、臭い...
- 「撃ってください」と交番で懇願する人たち...
- 金色のヘラクレスオオカブトの夢と、10時...
- 母親殺し、自殺教唆…次々提訴されるAIの...
- 己の傷を引き受ける――性的倒錯者“エプロ...
- 300個のシイタケ、300着の衣服、20...
- 立ちんぼもキッズもホストもヤクザも訪れな...
- 3回逮捕された神戸の“側溝男”を追って見...
- もっと見る










