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それが、人間

2026.07.07 公開 ポスト

飛び降りそうな人を発見する!?

AIは「死にたい人」を見つけられるのか――駅のホームで指パッチンをする未来インベカヲリ★(写真家、ノンフィクション作家)

飛び降りそうな人を発見する!?

 

人間は、どうにも死にたがりな生き物らしい。
新宿歌舞伎町では「人が降ってくるから気をつけろ」と言われるほど、ビルからの飛び降り自殺が多発しているし、都市部では飛び込み自殺の影響で電車がしょっちゅう止まっている。
既遂に至らず未遂だけで終わるケースなら、恐らくその何倍も日々起きているだろう。

さて、そんなことばかりで警察や消防も「もー無理」と思ったのか、昨今はビルの屋上や駅のホームに設置した防犯カメラの映像をAIが解析し、飛び降りの予兆がある人を検知する仕組みが導入されているらしい。
ホームの端を行ったり来たりしたり、手すり近くに長時間とどまっている人を見つけると、AIが「飛び降りの兆候あり」と判断し、駅員や警備員に通知を送る。場合によっては、スピーカーを通じて声をかけることもあるようだ。

電車を止められたり、ビルを事故物件にされたくない側からしたら、ありがたい仕組みに違いない。
だが、そもそも「自殺する兆候のある人」とは何なのか。

少し前に、外国人観光客の男性が、ショッピングビルの屋上のさらに高いところにたたずみ、警察が大勢駆けつけて騒ぎとなっている動画がSNSで話題になっていた。
そのとき、「これは自殺する奴の背中じゃない」という書き込みがあり、私は「ほほう」と思った。
映像に映っていたのは、その外国人の後ろ姿だけだったが、確かにスポーツ選手のような体躯で、生命力にあふれた立ち姿なのだ。その後、飛び降りたという情報はないので、恐らく単に高いところに登ることが目的だったのだろう。
私はこのときはじめて、「生きようとする人」と「死のうとしている人」は、背中を見ればわかるということを知った。

件のAIも、こうした違いを見分けられたら大したものだが、単に不審な動きをしている人を検知しているだけなら、駅のホームなど不審者だらけだ。それらをまとめて「兆候あり」と判断していたら、一歩間違えれば差別にも繋がりかねない。

さしずめ私はじっとしているのが苦手で、駅のホームを意味もなく行ったり来たりしたり、くるくる回っていたりすることがあるので、もしもスピーカー越しに「ちょっとそこのあなた!」などと呼び止められようものなら、恐怖で走りだしてしまいそうだ。

ちなみに、AIが検知しても実際に止めるのは人間らしい。これも、いずれは二足歩行ロボットに取って代わられるのかもしれない。
ヒューマノイドロボットから、「生きていればいいことあるよ」と諭される日が来ることを覚悟しておいたほうがいいだろう。

もっとも人間の自殺衝動は、当の人間同士ですら予測することは難しいものだ。
今年6月には、茨城県古河市で、自ら腹を刺した会社員の男(35歳)が「刃物で腹を刺された」と虚偽の110番通報し、逮捕された。男は「自分で刺したのに110番通報するのが恥ずかしい。他人に刺されたことにすれば恥ずかしくないと思った」と供述しているという。
一体どういうことなのか。本当に死ぬつもりだったのか、それともなんとなく刺してみただけなのか。恥の感覚もいまひとつ理解できない。
そもそも腹を刺したのなら、呼ぶべきは警察ではなく救急車だろう。怪我をしているのは事実なのだから、医者であれば業務妨害にもならなかっただろうに。

同様の事件は謎に相次いでおり、翌7月には兵庫県に住む経営者の男(60歳)が、同じく刃物で自分の腹を刺し、「何者かに腹部を刺された」と虚偽の通報をして逮捕されている。
こうした人間の腹切り衝動も、AIは見抜くことができるのだろうか。

自殺といえば、昨今は人に頼んで殺してもらうという手法も増えつつある。2017年には、座間市に住む男(当時27歳)が、自殺志願者として知り合った男女9人を殺害する事件が発生し、世間を騒がせたが、類似の事件は後を絶たない。
2025年には、女性2人の承諾を得て殺害したとして、無職の男(当時31歳)が逮捕されている。男は「小さい頃から殺人衝動がほぼ毎日あった」と述べており、さらに「明日に向かって生きている人を殺すのはよくないと思った」と供述。殺害した2人からは、「ありがとう」と言われたため、「丸く収まったと思っていた。後悔はしていない」と供述しているという。本人的には、人助けをしたつもりのようだ。

だが、「明日に向かって生きてる人」など、どうして見分けられよう。「死にたい」と言いながら、生きる気満々の人だって大勢いるではないか。
AIには、このあたりも正確に見分けられるようになってもらいたいものだ。

2000年代の初め頃、一人旅が好きだった知人女性が「宿泊を断られる」と嘆いていたことがある。当時は、「女の一人旅は自殺目的」という偏見があり、地方の旅館では宿泊を断られることが少なくなったからだ。もちろん、今のようなネット予約はない時代だ。
まあ、実際にそうしたことが頻発していたのかもしれないが、女一人というだけで自殺志願者と決めつけられるほど迷惑なことはない。ラーメン屋でも一人席が当たり前になった現代では、考えられない話である。

いずれにせよ、人類はいかに人を死なせないかということに必死だ。駅やビルはもちろん、人のいない樹海や岸壁へ向かっても、自殺防止のパトロールに呼び止められる。さらにAIまで導入し、「兆候のある人」を見つけ出そうとしている。

常時テンションが低めの私は、駅のホームで「兆候あり」と誤解されないよう、ときどき指パッチンでもして、陽の雰囲気を演出してみようと思う。

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それが、人間

写真家・ノンフィクション作家のインベカヲリ★さんの新連載『それが、人間』がスタートします。大小様々なニュースや身近な出来事、現象から、「なぜ」を考察。

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インベカヲリ★ 写真家、ノンフィクション作家

写真集『やっぱ月帰るわ、私。』『理想の猫じゃない』『ふあふあの隙間』。著書『家族不適応殺 新幹線無差別殺傷犯、小島一朗の実像』『私の顔は誰も知らない』『伴走者は落ち着けない』『未整理な人類』など。

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