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それが、人間

2026.08.22 公開 ポスト

中二病の死神

ウェールズの病院に現れた死神、岩手のホテルでのハムスター殺し――クズの“再発防止”とは?インベカヲリ★(写真家、ノンフィクション作家)

中二病の死神

 

健康診断を受けるたびに、身長が数ミリずつ伸びている。一昨年は166.4センチ、去年は166.9センチ、今年は167.3センチだ。
私は、ピラティスで体を伸ばす動きをしているから、頸椎の隙間が広がって身長が伸びてるのかなと勝手に思ったりしている。
我ながら大したもんだなと思っていたが、どうもその認識は甘かったようだ。

健康診断の最中、カーテンの仕切りの向こう側で、こんなやりとりが聞こえてきた。
スタッフ「身長が1センチ伸びてますねえ」
受診者「ああ、そうですか」

声質からして、受診者は40~50代らしき中年男性だ。
私は思わずカーテンを開けて、「ホントですか!?」と言いたくなるのを、グッと堪えた。

いい年して、1センチも伸びるなんてことがあるのだろうか。
しかも、2人ともあまり驚いてなさそうな様子だ。ということは、意外とよくあることなのかもしれない。
誰なんだ、「成長期を過ぎたらもう身長は伸びない」と言った奴は。いや、伸びてはいないのだろうけど。

私は子どものころから背が高く、思えばけっこう最近まで身長が高いことをコンプレックスに感じていた。日本人は、女は小さいほうが可愛いみたいな文化があって、何かと肩身が狭いからだ。

と思っていたのに、いつの頃からか若者の身長が伸び始めたらしい。最近の私は、街を歩いていても周囲に埋もれるようになったし、満員電車で周囲から見下ろされるという状況にも遭遇するようになった。
20年前なら考えられないことだ。

だが、いざその状況になってみると、意外と癪に障る。
「おい、なに見下ろしてんだよ」と、思う。
自分が小動物になったかのようで屈辱的だ。
そうか、背の低い人たちはこんな思いをしていたのかと、はじめて理解した。

昔は「上からでスミマセン」みたいな気持ちで縮こまっていたのに、最近は背の高い外国人なんかが前にいたりすると「なめんなよ」と思いながら威嚇して歩いている。
私にこんな日が来るとはな。

身長といえば、韓国では身長ビジネスが過熱していて、子どもに成長ホルモン注射を打たせる親が急増しているらしい。健康な子どもに打つため保険適用はなく、値段は高額。数年間にわたり毎日打つことで、遺伝的な適正身長から+5センチ以上は伸びる傾向があるとかなんとか。
そういえば、だいぶ前に韓国好きの知り合いが、「韓国に行くとみんな背が高いんだよ」と興奮気味に話していたことがあった。
実際、韓国の平均身長は、日本に比べて3~4センチほど伸びているらしい。

日本は、疾患のない子どもへの成長ホルモン注射は認可されていないが、親が医者だと、裏で自分の子どもに打たせているケースがあるという。これは、知り合いの医者から直接聞いた話なので、噂ではなく現実だと思う。
そのうち、親の収入によって、身長格差も生まれてきそうだ。

いずれにせよ、人間は人体改造に余念がない。
100年後には、3メートルくらいになって、ヒグマを素手で倒せるようになっているかもしれない。そうなれば、行きつく先は不老不死だ。
だが、人間は死ぬからこそ生きているともいえる。
死神の役割もそこにあるはずだ。
そんなことを思い出させる事件が起きた。

今年6月6日、デンビーシャー州のイースビーティ・グラン・クルイド病院で、死神の格好をした男(26歳)が屋上に佇み、患者やスタッフをジッと見つめていたとして、警察と消防がかけつける騒ぎとなった。男は迷惑行為により罰金200ポンドを科されたが、動機については黙秘したという。

デンビーシャー州ってどこだよ、と思ったらイギリスのウェールズ北東部らしい。事件が起きたのは、ボデルウィダンという人口2000人ほどの小さな町だ。
Googleマップを開いてみると、のどかな田園風景とレンガ造りの家々が並ぶなかに、ひときわ大きな総合病院が見える。犯人は、ここで佇んだのだ。
こんな小さな町で、全国報道されるような事件が起きたのだから、人々はさぞ驚いたに違いない。

私は入院経験が一度もないが、もしも病院で死神の格好をした男に見つめられたら、2つの意味でビビりまくるだろう。もうすぐ死ぬから死神が見えたんじゃないかという恐怖と、頭のイカれた奴に殺されるんじゃないかという恐怖だ。

そして、6月6日という日付。
イギリスといえばパンクロックのイメージだが、お国柄、中二病が多いのかもしれない。

ちなみにデンビーシャー州へ行くには、ツアーパックで40万円以上はかかるらしい。犯人のFacebookも見つけたが、クリックしたら「このコンテンツは現在ご利用いただけません」という表示が出てきてしまった。
いつか世界のクズに会いに行きたい。

クズといえば、日本も負けていない。
岩手県では、今年2月、宮古市の県立高校職員の男(36歳)と住所不定無職の女(19歳)が共謀し、ホテルの一室でハムスター20数匹を殺し、その様子を動画で撮影していたとして逮捕された。2人は、犯行日時などについてSNSで連絡を取り合っていたという。

年齢差のある男女が「ホテルの一室で」とくれば、不同意性交罪をイメージするが、まさかのハムスター殺し。
増えすぎて困ったのならひっそり処分してしまえばいいものを、なぜわざわざ殺しのシーンを撮影し、人に見せたのだろう。承認欲求を満たすためだとしても、ハムスターを殺して得られる承認とは何なのか。
ネズミを100匹殺せば英雄だが、ハムスターを1匹殺せば動物愛護法違反で罰せられることくらい、知らなかったわけではあるまいに。

この事件を受けて、県教育委員会は「再発防止に取り組んでいきたい」と陳謝したらしいが、正気だろうか。ハムスター殺し抑止のための取り組みを、本当にやるのだろうか。

ちなみに岩手県宮古市は、人口43000人ほどで、新鮮な海産物を牛乳瓶に詰めた「瓶ドン」が名物だという。
岩手県へ行くなら、私は、座敷わらしと河童と天狗のいる遠野へ行きたい。
 

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写真家・ノンフィクション作家のインベカヲリ★さんの新連載『それが、人間』がスタートします。大小様々なニュースや身近な出来事、現象から、「なぜ」を考察。

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インベカヲリ★ 写真家、ノンフィクション作家

写真集『やっぱ月帰るわ、私。』『理想の猫じゃない』『ふあふあの隙間』。著書『家族不適応殺 新幹線無差別殺傷犯、小島一朗の実像』『私の顔は誰も知らない』『伴走者は落ち着けない』『未整理な人類』など。

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