データセンター銀座で電磁波を浴びる旅

誰が名付けたのか、千葉県印西市に「データセンター銀座」と呼ばれる場所があるらしい。そこには、国内有数のデータセンターが集結しているという。
成田空港からも都心からもアクセスしやすく、地盤がしっかりしていて、地震や水害など自然災害のリスクも少ない。24時間365日、システムを止めるわけにはいかないため、条件が揃った土地として選ばれたようだ。
もっとも、その歴史はけっこう長い。
1990年代後半から、金融機関のデータセンターが建てられ始め、その後、クラウド事業者が進出。昨今はAI需要の高まりにより、さらに増えまくっているという。
それにしても、なぜ「銀座」とつけてしまったのだろう。いっそ、「データセンター集落」とかのほうがカッコよくないか? と思ったが、戸越銀座や谷中銀座のように、日本では商店街風にしたほうが馴染みがいいのかもしれない。
何はともあれ、この謎に包まれた「データセンター銀座」を見に行かないわけにはいかない。某日、電力の風を浴びに、車を走らせたのだった。
場所は、「千葉ニュータウン中央」駅周辺。
都心から車で走ること約2時間。雑木林や田畑、瓦屋根の家々を通り過ぎると、いきなり街が開け、謎の建物が見え始めた。



車を降りて、周辺をぐるりと歩いてみる。
おお! これは紛うことなき銀座の風格。批判して悪かった。

といっても、どれがデータセンターなのか正直よくわからない。窓のない、巨大な箱のような建物がいくつもあるので、おそらくそれらがデータセンターなのだろう。



心なしか、周辺に建つ住宅まで、無機質な箱に見えてくる。

一つ気になったのは、建物に企業名が書かれていないことだ。よく見ると小さく表示されているところもあるが、パッと見ではわからない。
グーグルとかアマゾンとか、ロゴがデカデカと掲げられているのかと思ったが、そういう雰囲気ではない。


建物の壁にグーグルカラーを見つけ、「グーグルじゃん!」と思ったが、はたして本物なのか。

建物の入り口にはどこも警備員が立っていて、出入りを厳重に制限していた。
もしかして、企業名を大きく掲げないのは、テロの標的にされるのを防ぐためなのだろうか。などとゲスな勘繰りをしてしまう。
もっとも、この一帯を牛耳っているのは、個別の企業よりむしろ、グッドマンという会社らしい。
物流倉庫とデータセンターなどからなる巨大複合施設「グッドマンビジネスパーク」なるものが街を占拠していた。




ビジネスパークは、ガーデニングにも力を入れているようだ。もしも建物のまわりに草木がなかったら、かなり不気味さが増していたことだろう。

へんな写真しか撮れなかったが、実際には美しい植物がたくさん並んでいた。
千葉ニュータウンの周辺は、工事中の土地も多かった。これらもデータセンターになるのだろうか。


住民の反対運動などないのかと気になったが、それらしい幟は見当たらなかった。
また、この辺りは一軒家が多いのだが、ソーラーパネルを取り付けた家が、約半数を占めているのも印象的だった。さすが電力の最先端。ゴリゴリの営業マンでもいたのだろうか。
こうして、データセンター銀座を歩きまわること数十分。巨大な箱のまわりを歩いても、何の面白みもない。頭の奥がずんずんし、ひどく疲れたのは、大量の電磁波を浴びたせいだろうか。
さて翌日。
まったくの別件で、当連載でも一緒に野犬を探しに行った、友人のドロロちゃんがうちに泊まりに来たのだが、なんと彼女は「千葉ニューが地元」らしい。
そんな偶然あるのか!!
というわけで、ここから先は、ドロロちゃんがご近所さんたちとの井戸端会議で仕入れた情報も織り交ぜて紹介する。
そもそもデータセンター銀座のある千葉ニュータウンは、その成り立ちからして独特だった。
1966年、千葉県が巨大ニュータウンの開発計画を発表。面積約2900ヘクタール、人口34万人規模という壮大な計画で、森を切り開いてつくられていった。
1979年から入居が始まり、ドロロちゃん一家も、そのころに引っ越してきたらしい。
同じ世代の家族が一斉に引っ越してきたため、ドロロちゃんが子どものころは、近所でお年寄りを見かけることがあまりなかったという。
しかし、バブル崩壊などの影響もあり、開発計画は早々にとん挫。いや、縮小。
成田方面まで延びるはずだった北総線は、千葉ニュータウン中央が終点という状況が2000年まで続き、運賃も高額だったとか。
「開発失敗」とまで言われたその街に、その後、データセンターが次々と進出してきたのだから、実に数奇な運命である。
というわけで、私が不思議に思っていた「データセンター建設に反対する住民はいなかったの?」という疑問に対しては、「その土地に代々根付いている住民がいないからなあ……」というのがドロロちゃんの答えだった。なるほど。
実際、街をあげての大反対などは起こらなかったようである。
では、地元住民とデータセンター銀座との距離感はどのようなものなのか。
ご近所さんの情報によると、私が「グーグルのカラーだ」と思った建物は、やはりグーグルらしい。もっとも住民たちも、どの建物がどの企業のものかはわかっていないらしく、「あそこはグーグルらしいよ」などと、共同菜園の仲間の間で噂がまわってくるにすぎないとか。
また、グッドマンビジネスパークのある一帯は、もともと梨屋さんが地主だったという。グッドマン、梨屋から土地を買ったのか!
ただ、データセンターが集まったからといって、その土地で雇用が生まれるという展開ではないらしい。データセンターは外資系企業が多く、もっぱら働いているのは、都心からやってきたエリートサラリーマンたち。
朝になると、スーツを着た群れが、駅からデータセンターまで続く一本道を、列をなして歩く姿が見られるという。
いつしか、その途中にはジムができ、仕事帰りにそこへ寄っていくのが定番コースになったとか。
遡ること約20年前、この街には居酒屋が2~3軒ほどしかなかったという。
そのなかに、データセンターで働くサラリーマンたちが利用する店もあった。
あるとき、居酒屋でアルバイトをしていた女子大学生が、「卒業後どうしよう」とボヤいたところ、データセンターのエリートに、「行くとこないなら、うちの会社に来なよ」と誘われ、見事、大企業に就職。
近所では、「玉の輿に乗ったわね」と噂されたそうだ。結婚じゃないけど。
……という、どうでもいいローカル情報までドロロちゃんは教えてくれた。
無機質なデータセンターの足元で、人間くさいドラマがいくつも生まれているようだ。
もっとも、住民は反対していなかったとはいえ、ここ数年のデータセンター建設ラッシュは、これまでとは様相が違うらしい。
あろうことか駅前にデータセンターを建設しはじめた企業があり、これには住民たちも「駅前はやめろ」「景観が悪いだろ」と、反発。幟を立てたり、署名活動をしたりして反対運動が起こっているという。
さらに、隣町の白井市にもデータセンターが建てられつつあるようで、「どうしてこの周辺ばかり集まるの?」という疑問とともに、「最近は怖さも出てきた」と、地元ではもっぱら囁かれているらしい。
そりゃそうだよなあ。
窓のない箱だもんなあ。
とはいえ、住民にもメリットはあるようだ。
ドロロちゃんの話では、東日本大震災で停電した際も、データセンターを守るためか、この街では電気の復旧が早かったというのだ。
人命より、データセンター。
かつて、古くからある神社の近くは地盤がよく、自然災害に強いなどと言われていた。だが、これからは、近くにデータセンターが建っているかどうかが、土地の安全性を見極める目安になるだろう。
電気が神になる時代が、もう始まっているのだ。
それが、人間

写真家・ノンフィクション作家のインベカヲリ★さんの新連載『それが、人間』がスタートします。大小様々なニュースや身近な出来事、現象から、「なぜ」を考察。
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