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人形怪談

2020.11.17 更新 ツイート

招き猫を叩き割る話 田辺青蛙

(写真:iStock.com/DaphneOliveros)

いつどこで録音したのか覚えていないのだけれど、机の引き出しに入っていたカセットテープを再生してみるとこんな話が入っていた。

わたしはうっかり消してしまうのが怖いのと、リールが回っているのを見ると安心するという理由で、取材には未だにカセットテープを使っている。

 

「あの、これ僕のおばあちゃんから聞いた話なんです。近くに商売敵の店が出来たらね招き猫をまずは買いなさいって。それから誰にも見られない場所で招き猫を袋に入れて、商売敵の店名を言いながら、招き猫を叩き割るんですって。割ってから、相手の店の敷地内に出来るだけ角の多い欠片を選んで埋めるとね、その店が潰れるっていうんです。僕、そんなん嘘やろうっておばあちゃんに言ったら、その時イタリアンの店を大阪の××の辺りで当時やってたんですけどね、ばあちゃんこれは、誰にも見られん場所で袋に入れた招き猫がここにあるって鞄からほつれの見えるズタ袋を取り出してね。なんかその袋から酸いむっちゃ嫌な臭いがして。帰って欲しいって言おうかなって思ったんやけど、僕ね、おばあちゃんの前やと何も言えんようになる性質なんで、もう嫌や、嫌やと思いながらその臭いに耐えながら、話を聞いてたんです。おばあちゃん凄かったですよ。目の前で袋の端を掴んで、畳にガッシャン! ガッシャン! ってぶつけて中の招き猫を割りましたからね。時々袋を殴ったりもしてて、痛そうやったなあ。拳を何回も摩ってたし。近所迷惑になりそうな音やったし、止めたかったんですけどね、ほらっ。さっきも言いましたけど、僕、なんも言えない性格やから。気が小さいんですよ。顔は大きいですけどね。って関係ないか。

それで、これでええやろっておばあちゃんが言うてね、近くにある評判のイタリアンの店の前に小さな花壇があってね、ちょうどその店、定休日やったから誰もおらんかったし、そこに割れた招き猫の破片を埋めたんです。そしたら翌日、その店で小火が起こってしばらく営業停止で、そっからもゴミの処理で近くの町内会の人らと揉めたりでいろいろと上手く行かんようになって、半年もしないうちに店を畳んだんですよ。でも呪ったむくいなんかなあ、おばあちゃん、一酸化炭素中毒で亡くなってね。でも自殺かも知れないけどね、保険金僕が受取人になってたし、いや、それ亡くなった後に知ったんですよ。まあ正しくは僕個人じゃなくって、レストランが法人になってたんで、法人受取りだったんですけどね。親族は他にもいたんだけど、僕が特に可愛がられてたからかなあ。それに何を言われたり見たりしても、僕、気が弱いからおばあちゃんのやることには絶対異を唱えたりしなかったから。招き猫の破片、効果あると思うから、嘘やと疑うんやったらやってみてください。でも、警察沙汰にならんように見つからんようにしてくださいね」

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田辺青蛙

1982年大阪府生まれ。オークランド工科大学卒業。
2006年、第4回ビーケーワン怪談大賞で佳作となり、『てのひら怪談』に短編が収録される。2008年、『生き屏風』で、第15回日本ホラー小説大賞短編賞を受賞。
現在大阪に作家の夫と在住。そんな夫とのアメリカ旅行記&エッセイ集の『モルテンおいしいです^q^』(廣済堂出版)『読書で離婚を考えた。』(幻冬舎)発売中。
怪談と妖怪ネタを常時募集中。

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