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人形怪談

2021.06.09 更新 ツイート

巫女バイト 田辺青蛙

(写真:iStock.com/Hiro_photo_H)

左京区在住の新谷さんから聞いた話。

「私、初詣の期間だけ京都のK神社で巫女の助勤をしたことが以前あって。結構由緒ある神社だから厳しかったです。

ネイルや茶髪は駄目、アクセサリも禁止、礼儀作法も色々あって大変で。

 

巫女の仕事ってかなりハードなんです、本当に。掃除はもちろん、迷子の案内もあれば、参拝者にお守りの販売や昇殿祈祷のお手伝いまでやる場合もあります。

神社は、年末年始が一番忙しい時期でしょ。絵馬やおみくじの仕事だけでも大行列で目が回りそうでした。大晦日や元旦は泊まり込みですし、足の指先が痺れてジンジンする程寒いんです。

だから手を擦り合わせながら、みんなで他愛ない話をしながら準備をするんですけど、ストーブとか暖房器具の前のいい場所はベテランのおばちゃんが陣取ってるんですよ。

お札の紙とかで指先切ったりするし、巫女バイトにメンタムは欠かせなかったですね。

それで私が働いていた神社は大みそかの前に奥の院にお飾りをして、お神酒を備えるっていう風習があったんです。

奥の院は雪で凍ってる道を通って、お参りする人も少ないから階段とかもちゃんと補修されていなくって、行くのがすっごい大変なんです。

でも、お神酒を備える準備はその神社にとって絶対らしくって、巫女服では行けないから一旦着替えて、登山靴とまではいわないけれど山登りが出来る靴に履き替えてベテランの先輩と二人で行くって決まり事があるんです。

私は嫌だったんだけど、二回目のバイトだからあんた来なさいとかよく分かんない理由でベテランの先輩に指さされていくことになったんです。

むちゃくちゃ寒いし恰好も変だし、知ってる人に社務所から出る時に会いませんようにってこそこそしながら先輩の後ろについてったんです。

そして登山道みたいな、奥の院の入り口について鳥居の前で軽くお辞儀をしてから滑ったり転んだりしないように手すりをガッチリとホールドしながら登ったんです。

先輩もここで滑って転んでも救急車が入れないし、救急隊も担架登って来れないから怪我は自己責任でって言うんですよ。今考えたら怪我したら自己責任じゃなくって労災ですよね、それって。

時間は昼過ぎか夕方だったんですけど、深い森とか山みたいな場所だから薄暗いんですよ。

そん中で一時間半くらい登っていった参道の途中で、白くぼんやりと光る人がいたんです。

こんな来るのが大変な場所に他に人がいるの? って驚いて目を凝らしてよく見たら、木々の深い暗がりの中に白いウェディングドレス着た人が立ってたんです。

だから「あれ何? 何?」って前を歩いてる先輩に聞いたんです。

そしたら先輩がね「しっ!」って後ろを振り返って人差し指を口の前に立てて、しばらく静かにって合図したんです。

小さな声で「あれ、町内に住む●●さん。時々あの恰好でここに藁人形打ちに来るのよ。目を合わせたり声を絶対にかけないでね。呪いは見られたら返るっていうでしょ。今は多分下見で、夜になったらここであの人釘打ってるよ」って言われて。

なるべくそっちの方は見ないようにして、音をたてないように進んで奥の院まで行ったんです。

お神酒と飾りをお供えした帰りには誰もいなかったし、何も見なかったんですけどね、あの恰好のまま下に降りたかどうかは知らないけど、山に来られるような服装じゃないですよね、ウェディングドレスって。

しかもベールも被ってたんですよ。

社務所に戻ったら着替えて、体の芯まで凍えてたからしばらくじっとしていたんです。

そしたら一緒に奥の院に行った先輩がお茶を淹れてくれて、私にウェディングドレス姿でいた●●さんについて色々と教えてくれたんです。

多分誰か見た人に話したかったんでしょうね。

「あの、●●さんね、あんな場所で藁人形を五寸釘で打つ丑の刻参りをやるから駄目なんだよね。参道からあまり離れてないから見つかりやすいでしょ。あの人ね遠目じゃわかり難かったけど、昔はふっくらしててスポーツ万能で県大会に出たりしてたのに、人を呪った分が返ってきてるのか今は外で会ったら驚くほどガリガリなの。

夏なんか骨がシャツから浮いて見えていて。風が吹いたら倒れてしまわないかなって心配になるくらい。

病気で内臓もあちこち取ったっていうし、それに旦那さんも二回亡くなってるしね。

二人とも変死でね、警察に遺体運ばれて解剖したらしいよ。死因は不明らしいけど、それにしてもあの人何をあんなに恨んでるんだろう。

美人やったし、資産家の娘でお嬢さん学校出て、近所の人らは随分うらやましがっとったのに。

昔ここの神社で、ちょっとだけ巫女さんのアルバイトをあの人もやってはったことがあって、その時も美人巫女だって凄い評判だったの。

そういえば最初の旦那さんね、ここでアルバイトしている時に出会ったって噂があるの。旦那さんも結構なボンボンで、どっかのええとこの子と婚約しとったらしいけど、巫女姿の●●さんに心奪われたらしいって話聞いたことあるから。

あんなにずっと幸せそうに見えて、羨ましいなあと思ってた人やのに、どうして本当に何をあんなに恨んでるんやろうね。しかもドレスまで着て」

こういう話聞いて、どうしてそんなにその人について詳しいんですかってことと、ドレスに何かあるんですか? って私、聞いたんです。

だけどそれは教えてくれなくって、別のアルバイトの子が奥の院じゃないけれど時々、白いレースが藁の間に挟んだ藁人形が釘の刺さった状態で境内に落ちてることがあるって教えてくれたんです。

それで、その話してくれた巫女のアルバイトの子も一度見つけて拾ったことがあって、呪いが伝染したのかどうかは分かんないけれど、拾ったとたん気持ち悪くなって凄い吐き気と頭痛がしたらしいです。

アルバイトの子は、落とし物として処理するのも嫌だったから黙って古いお札を入れる納め所に、藁人形を投げ込んだらピタッと症状が治まったみたい。

もしかしたらと思ってその場にいた子が落とし物入れ箱みたら、小さな悲鳴が聞こえてレースはついてなかったけど、解れた藁人形が入ってたらしいんです。

私も「えー、あの人が作って神社に置いたか、落としたのかな。それとここの社務所通らないと奥の院の道に行けないのに、どうやってあそこまで行ったんだろ」とか言ってる途中で急に気分が悪くなって目を回して倒れたんです。

家に帰されて、翌日に熱出ししまって、年末年始だから病院もやってないし散々でした。

変な発疹を伴う熱風邪で、寝ている間に発疹を掻きむしってしまったせいか、今もその時の掻いたぷつぷつの跡が残ってて足とか出せないんですよ。

スカートとか履いたら、怪我したん? って絶対誰かに言われるし。

呪いたいって気持ちは触ったり見たりしただけでやっぱり伝染するんかなって思ったこともあるけど、偶然ですよね。だって、一緒に奥の院に行ったベテランの先輩はあの後も何もなかったみたいだし、今も年末年始のアルバイトには顔出してるみたいなんです。

奥の院に行く途中に変なダニが服についたとかが本当の理由なんだと思ってます。

でも、あの神社でのアルバイトはもう嫌ですね。母親はなんかイメージがいいからとか言ってやたらあそこのアルバイトを年末が近づくと勧めてくるんですよ。

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コメント

名無しの巫女  巫女バイト|人形怪談|田辺青蛙 - 幻冬舎plus https://t.co/wE4DLJxIPt 3日前 replyretweetfavorite

もと部長(みっくん)  巫女バイト|人形怪談 #SmartNews https://t.co/nkjqB08NZK 5日前 replyretweetfavorite

幻冬舎plus  大晦日の前、お神酒を備えるために神社の奥の院に向かう道。木々の深い暗がりの中に立っていたのは、ウェディングドレスを着た女性……。なぜこんなところに? (小) 巫女バイト|人形怪談|田辺青蛙 - 幻冬舎plus https://t.co/g4GZoAp9d7 5日前 replyretweetfavorite

巫女さんニュース  【巫女】巫女バイト|人形怪談|田辺青蛙 - 幻冬舎plus - https://t.co/ZeuFpXTzWb https://t.co/QvBFfvOWcC 6日前 replyretweetfavorite

幻冬舎plus  [公開] 巫女バイト|人形怪談|田辺青蛙 https://t.co/ZWuhWFSvPh 6日前 replyretweetfavorite

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田辺青蛙

1982年大阪府生まれ。オークランド工科大学卒業。
2006年、第4回ビーケーワン怪談大賞で佳作となり、『てのひら怪談』に短編が収録される。2008年、『生き屏風』で、第15回日本ホラー小説大賞短編賞を受賞。
現在大阪に作家の夫と在住。そんな夫とのアメリカ旅行記&エッセイ集の『モルテンおいしいです^q^』(廣済堂出版)『読書で離婚を考えた。』(幻冬舎)発売中。
怪談と妖怪ネタを常時募集中。

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