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人形怪談

2021.09.01 更新 ツイート

遺言の市松人形と運転手さん 田辺青蛙

これもTさんから聞いた話。

(写真:iStock.com/takasuu)

2006年の7月だったと記憶してます。
その数日前、元同期のAからから携帯に連絡が入りました。
同期のAとは、以前、石清水八幡宮のハイキングコース(現在は通行禁止)で迷ったり、同期数人で保養所に泊まった際、お互いの不思議な体験を話し合ったりした仲でした。

 

「私の父方の大伯母さんが持ってた市松人形を遺言で貰ったんだけど……」とAは言葉を濁しつつ話しはじめた。
聞いたところ、譲り受けたものの、日本人形というよりも人形全般が苦手なAは一度見ただけでそのまま箱に戻しクローゼットの中にしまい込んでいたそうだ。

その人形がAの家に来てから不思議なことが起こり始めた。

ボソボソと子供の話し声が聞こえる。
Aの部屋から不在中に物音がして、家族が確認すると誰もいない。
最初は気のせいだと家族それぞれが思っており、誰もが訝しみながらも何も言わなかった。
でも怪奇現象だと決定的になったのは、ある日、夕飯も終わり家族がくつろいでいる時だった。

ソファに座ってテレビを観ているAの父と弟妹、食後の後片付けをしてキッチンでコーヒーを飲みながら雑談するAと母、テレビの画面で湧き上がった瞬間、廊下に面した背後から幼児くらいの女の子の笑い声が聞こえて二階の階段をパタパタと駆け上がっていった。

妹と母が誰なのと驚き、父と弟を先頭に2階に上がるとAの部屋が少し開いていて、部屋の中央にあるテーブルに山吹の色地の着物の人形がポツンと立っていた。
「誰が出したの?」
「なんでここにあるの?」
箱は押し入れの中にあり、誰も開けておらず知らないと言う。
すぐにAの父と母が人形を箱に戻し、簡単に箱が開かないように風呂敷の結び目がギッチギチに結んだ。

「で、なんでそれが私に頼み事なん?」Aに聞いたところ、その後家族会議でお寺に供養に出そうとしたけれど、当日になると車が故障したり家族にトラブルが起こったり、あらかじめ問い合わせていたお寺に不幸があり、お断りの連絡が入ったり……と続いたという。
一刻も早く「なんとかしたい!」と、一番仲の良かった同期のSに話したところ、Sは「それだったらTがなんとかしてくれるんじゃない?」と言い、ダメ元ででも何か情報があればと私に連絡したようだった。

「なんか人形供養のお寺探すと和歌山のAが出てくるんだけど……遠いし。それに今、事情があって遠くに出歩けなくて……Tの最寄駅ならなんとか……」

私も分からないことだらけだったが「なんとか調べて連絡するよ」と言って電話を切った。
まず自宅の家族に「この近辺で人形供養できるところはないか?」と聞いたのだが、私の家族は知らないようで情報を得られなかった。
仕方なく近所の神社やお寺探すしかないかと考えていたところに、当時使っていた携帯で検索機能がついていたことに気づき、試しに「人形供養 関西」と入力してみた。
すると、和歌山のAとは別に観光案内の情報で京都のH寺が出てきた。

試しに連絡してみたところ『御供養料とお人形さんを持ち込んでいただけましたら』と言われ、人形が手元にないことと、日時を決めてから連絡しますと電話を切った。

Aに連絡を入れ、改めてAの最寄駅で待ち合わせをして人形を受け取った。

受け取った箱はだいたい60センチくらいで、ギッチリ固結びされた風呂敷の包みで渡された。
その時に供養のお布施と「これ、交通費とお礼」と少し多めにお金が入っていた。
受け取る際、Aの手に大きな絆創膏が貼られており、目線に気づいたAが「これ、昨日の夜中痛みで目ぇ覚ましたら傷があって……」と言い、それはどう見ても子供の歯形にしか見えなかった。
A宅には小さな子供はいない。

「気休めかもしれんけど持ってて」私はAに家の近くにあるお寺のお守りを渡した。
何かトラブルあるかも知れない……と心配していたのだが、特に何事もなく京都市内に到着することが出来た。
そこから、駅を出てタクシーを捕まえて目的のH寺に走っていると、普段なら20分もあれば到着するところが、事故などの迂回や渋滞でなかなか辿りつかない。
なかなか進まない車に苛立っていると、小さな声で「私の人形は良い人形〜」という歌が聞こえてきた。
ラジオからの歌ではない。ラジオからはDJの話す声が聞こえているので違う。この曲はどこからだろう? と不安に感じていると「お客さん、なんか歌うとおてはります?」とタクシーの運転手さんに訊かれた。
「いいえ、もしかして、運転手さんも聞こえてますか?」と答えると運転手が「そうですなぁ、これから行くHさんは人形のお寺さんですから、なんかあるんでしょうなぁ」と言われた。
それから「小さい女の子が大事にしてた人形なんでしょうなぁ」と言い、続けて本来なら気味が悪いことなのに、「私の人形は良い人形〜」と運転手さん自身がどこからか聞こえる歌に合わせてうたいはじめた。
ほがらかな運転手の歌声を聞きながら私も一緒になって優しく歌ってみることにした。
歌いながら「『気味が悪い』言われるより、『ええなぁ、かいらしいなぁ(可愛いなぁ)』って言ってもらう方が嬉しいよな」と人形に言い聞かせるように心の中で箱の中の人形に伝えた。

その後は無事に車が進み、H寺に到着する手前まで皆で歌い続けた。

H寺に着き、人形の入った箱と共にタクシーから降りた。

歌のおかげで人形の気が晴れたので、お寺に到着することが出来たのかもしれない。
力を持ったものを供養する時は抵抗にあって、なかなかお寺や神社にたどり着けなかったという話をよく聞くからだ。

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田辺青蛙

1982年大阪府生まれ。オークランド工科大学卒業。
2006年、第4回ビーケーワン怪談大賞で佳作となり、『てのひら怪談』に短編が収録される。2008年、『生き屏風』で、第15回日本ホラー小説大賞短編賞を受賞。
現在大阪に作家の夫と在住。そんな夫とのアメリカ旅行記&エッセイ集の『モルテンおいしいです^q^』(廣済堂出版)『読書で離婚を考えた。』(幻冬舎)発売中。
怪談と妖怪ネタを常時募集中。

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