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人形怪談

2021.05.19 更新 ツイート

八反坊(はったんぼう)での出来事 田辺青蛙

(写真:iStock.com/VeraPetruk)

岡山在住のフリーターのNさんから聞いた話。

四年位前に、広島で体験した話なんです。

広島県の比婆郡にある粟田地区には、こんな伝説があるらしいんです。

 

粟田での地主は、代々治郎丸とう屋号のS家だったんですが、江戸初期の頃に八反坊と名乗る者が上方からやってきて、年貢の取り立てや割り当てを決める公事人って役割が与えられたんです。

その八反坊は農民側の意見をよく聞き、不作の年はS家に年貢の分担を減らすようにお願いしたり、困った時の相談に乗ったり農作業を手伝ったりしたもんだから、大層粟田地区の人達にはずいぶん信頼されて、好かれていたらしいんです。

でも、S家の者たちからは余所者ということもあり信頼されておらず、それに何度か年貢のことで仲たがいもあったそうです。

そんな時、庄屋がS家にやって来て粟田地区内の調査に乗り出し、S家に縁のあるものが八反坊をあらぬ罪で訴えたそうです。

その結果、八反坊は捕らえられ、牢に入れられました。

牢の中で八反坊はずっと無実を訴え続け、食を断ち、現代で言うとハンガーストライキですね、最後は割れた茶碗で、無実であることを牢の土壁に彫って餓死したそうです。

死体を牢から運び出した農民たちは、凄まじい憤怒の形相で亡くなった八反坊の顔を見て恐れおののきましたが、庄屋の家のよく見える丘に、遺体を丁寧葬りました。

それからS家の家族のものが葬られた丘の近くを通りかかったところ、雷に打たれて即死。

庄屋も井戸に落ちて行方知れず。

S家の縁者の者も、次々と不審死を遂げ、中には急に熱病にかかり毎夜、毎夜八反坊許してくれと譫言(うわごと)を言いながら喉を搔きむしり亡くなったそうです。

それから墓の上に祠を建てて「八反坊」と呼び、地元の人が藁人形に呪いたい人の名前を記し、その祠へ丑の刻参りをすると、ボロボロに瘦せこけた八反坊の霊が現れて呪いをかけることが出来るって言われるようになり、今も丑の刻参りをする人がいるそうです。

この話が気になって、実際に行ってみたんです、「八反坊」に。

八反坊が亡くなってから数百年の時が経った今も、呪いの力にすがり藁人形を打ち付ける人がいるらしいっていう情報もあったんで、僕、そういうの好きなんですよね。

陰惨な伝説のイメージを払拭しようとしているのか、可愛らしい手作り感溢れる木の素朴な看板の目印を辿って行くと丘があって、その上に祠がありました。

そしたら、祠の近くに「逃走中」のハンターみたいな恰好した男がいました。黒スーツにサングラスで髪の毛もピッチリとワックスで撫でつけていて。

それが「赤とんぼ」を大声で歌いながら、ビニールテープで杉の木に巻かれた、色褪せたぬいぐるみを殴ってるんです。「ゆううやあああけ、こやけええのおお」ビシバシ! ビシバシ!って。

見るからに危ない人だから、気が付かれないようにそっと離れようと思ったら、話しかけられてしまって。物腰は普通というか、割と礼儀正しかったです。

なんでもその人が言うには、これは彼女にプレゼントしたぬいぐるみですとか言ってて。なんか浮気して性病うつされたから、呪いをかけようと思ってここに来たらしいんです。

で、頼んでもないのに背広のジャケットからスマホを取り出して、彼女の画像です、凄い美人ですよって見せてきたんです。

確かに美人だったんですが、どこかで見た顔だなって思って、気が付いたんですよ、CMにも出てる女優の顔だって。

危ない人だなと思って、あまり刺激しないようにははっと笑って、早くここから立ち去りたいなあと思っていたら、その人にこんな提案をされたんです。

「酷いことも随分されたし、未だに浮気も許せないけれど、俺も悪いところがあったんでやっぱり呪いきれないです。

だから変わりにこっから先は貴方が呪いをかけてくれませんか? もちろん謝礼は払います」

「いや、そんなこと出来ないです」

「そんなこと言わないで、これっ」って男がスーツの内ポケットから茶封筒を取り出して僕に渡したんです。それから丘を下ってバイクで走り去られてしまいました。

茶封筒を開封すると、お金ではなく、女優の切り抜きが入ってて小さい蟻の頭くらいの大きさの文字がびっしり余白に書かれてました。

「どんなことが書かれてたんです? 」とNさんに聞くとあまりにも細かいからよく分からなかったし、読んでいるうちに体中が痒くなってきたということだった。

翌日、丑の刻参りの藁人形の五寸釘が刺さってる杉の木が祠の付近にあるってネットで見て、写真を撮りに行こうとしたら、昨日と同じ男が、上半身はスーツ下半身はペラペラの色褪せたトランクス一枚の姿で座ってサンドウィッチを食べていたので諦めました。

近くにあったバイクのナンバーが京都市だったんですよ。丑の刻参りとか呪いとかなら、もっと京都に神社とかあるのに、どうして僕のいる日によりによって八反坊みたいなマイナースポットにいるんだよって腹が立ちました。

この話をバイト先で言ったら、その男わざと呪いをかけるところを見せてたんじゃないかって言うんです。

なんか呪いを見せることで発動するまじないがあるらしいですね。見た人に不幸が降りかかるだか、それとも呪いをかけてる姿を見せた本人が呪いの力を利用してなんか出来るとかどうのとか。

あやふやな情報なんですが、でも何かあの男思い返すと確かに誰かに呪うとこを見せつけて何かをしようとしていた気はするんですよね。

その影響かどうかは分からないんですが、あの時以来、やったらバイト先が潰れるんですよ。

今はコロナの影響だからって納得出来るんですけど、あの時流行ってるどの店舗でも僕が入り始めると、業績悪化でつぶれたり、横領する奴がいたり、店長が倒れたりとかそういうことばっかり続くんです。

これって何かあの男が八反坊でやっていたことを見てしまったことに、関係ってありますかね?

私が分からないと伝えるとNさんは、そうですよねと言って項垂(うなだ)れていた。

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田辺青蛙

1982年大阪府生まれ。オークランド工科大学卒業。
2006年、第4回ビーケーワン怪談大賞で佳作となり、『てのひら怪談』に短編が収録される。2008年、『生き屏風』で、第15回日本ホラー小説大賞短編賞を受賞。
現在大阪に作家の夫と在住。そんな夫とのアメリカ旅行記&エッセイ集の『モルテンおいしいです^q^』(廣済堂出版)『読書で離婚を考えた。』(幻冬舎)発売中。
怪談と妖怪ネタを常時募集中。

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