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人形怪談

2020.11.13 更新 ツイート

夜中に嵌められた指人形の話 田辺青蛙

(写真:iStock.com/miriam-doerr)

昨年、天満橋で開催した怪談会に来ていた書店員のUさんから聞いた話。

Uさんが幼稚園の年長になった頃に、弟が生まれて両親があまり構ってくれなくなった。

親を取られたような寂しさもあってか、それまでは聞き分けがよく、おとなしい性格だったUさんだが、急に泣いたり地団太を踏んで暴れたりするようになったらしい。

ある夜のこと、Uさんが目を覚ますと隣の布団で寝ていたお母さんがいなかった。多分弟におっぱいをあげに行ってしまったとUさんは思ったらしい。いつもならすぐ戻って来てくれるお母さんなのに、その夜は幾ら待っても来なかった。ただ部屋には時計がなく、あっても当時のUさんは時計が読めなかったので体感時間での話らしい。

気が遠くなるほど待って、Uさんが夜一人で寝るのは怖いなと思って泣いても誰も来てくれなかった。不安のあまり布団を被り泣き続け、最初は夜なので声を押し殺していたけれどやがて大きな声を出して泣いた、それでも誰も来てくれない。

寂しい、寂しいと大きな声で言いながら泣き、トイレに行くのも怖くおねしょもしてしまった。不安や辛さやいろんな気持ちが綯交ぜになり、Uさんは布団の中であらんかぎりの声で叫んだそうだ。

すると、ふすまが勢いよくバーンと開き何かが来た。

 

形がよくわからず、髪も手も足もザワザワしていたのだけは覚えているらしい。

そしてUさんの手を取り、濡れた布団の上に立ち上がらせると、さっと親指に指人形を嵌めた。そして頭を何度か軽くなでて、そのザワザワした何かは去って行った。

怖さも寂しさも消え、指人形を嵌めたまま親指をしゃぶりながらUさんは湿った布団の上で急激な眠気に襲われ眠ってしまった。

翌朝、お母さんに幼稚園に遅れると言われてUさんは目を覚ました。布団は自然に乾いたのかおねしょが夢だったのかは定かでないが、乾いていたらしい。

昨日は夜の闇の中だったので、よく見えなかったが親指についていた指人形は、塗料が剥げたアラレちゃんのキャラクターのようだった。髪の毛の部分はラーメンの麺のような黄色で、帽子を被っていた。忙しく動き回るお母さんを見ながら、指人形を噛んでいると、お母さんに叱られた。

「あんたそれ何? 幼稚園で拾って来たの? それとも公園で拾ったの? ダメよ、どこかから拾って来た玩具を口に入れちゃ」

Uさんはお母さんに昨日の夜の内に部屋に来た何かから貰ったことと、何故夜の間あんなに泣いたのにお母さんは来てくれなかったのかと伝えた。だが、お母さんには、昨日はずっといたよ、あんた泣いてた? すうすう布団で寝てたよ。夢で見たんでしょ。早く朝ごはん食べなさい、と言われ、指にしていた指人形をさっと抜き取られて、傍にあったゴミ箱に捨てられた。

「あああー!」とUさんは大声を上げて、捨てられたことへの抗議を示したがお母さんは全く取り合ってくれなかったそうだ。

泣きながら朝ごはんを渋々と食べ、嫌々をしながら着替え幼稚園バスに乗った。

バスの中でもスンスンと泣いていると、鞄の留め具が勝手に外れアラレちゃんの指人形がひょっこり顔を出した。

それ以後、何度も失くしたり捨てられたりしたらしいのだが、そのたびにひょっこりとどこかからか指人形は現れ続けた。

お母さんは特にそれを不思議と思っておらず、流行してる物で、だからあちこちにあるんだねと言っていたらしい。

小学校以前の記憶はほとんどないというUさんなのだが、この指人形にまつわる記憶だけは細部まで思い出すことが出来るそうだ。

映像記憶のように、その日の母親の服装まで覚えているという。

肝心の指人形なのだが、Uさんの手元には今はない。

ある日銭湯にもっていったところ、どこかに失くしてしまったからだ。

また出てくるだろうと思っていたらしいのだけれど、その時ばかりは出てこなかったそうだ。

「今も緊張したり、嫌なことがあるとこの年になっても指を無意識に口に当てたりしちゃうんですよね、だから使い捨ての指サックを自分用に持ってて鞄の中に入れてるんです。といっても使うのは4~5年に一回とかですよ。

で、もう何十年も経つのに今もひょっこり出てこないかなって気が付くとあの指人形を探しちゃってるんですよねえ」と、Uさんは言って少し寂しそうな表情で微笑んでいた。
 

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田辺青蛙

1982年大阪府生まれ。オークランド工科大学卒業。
2006年、第4回ビーケーワン怪談大賞で佳作となり、『てのひら怪談』に短編が収録される。2008年、『生き屏風』で、第15回日本ホラー小説大賞短編賞を受賞。
現在大阪に作家の夫と在住。そんな夫とのアメリカ旅行記&エッセイ集の『モルテンおいしいです^q^』(廣済堂出版)『読書で離婚を考えた。』(幻冬舎)発売中。
怪談と妖怪ネタを常時募集中。

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